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器が料理に魅力的な彩りを添える—福井の漆器工芸/河和田微住

文:魏 曉恩(BuBu)
攝影:Jerry Wang
翻訳:伊藤ゆか

日本料理の店へ行くと、味噌汁は丸いお椀に、うな重は四角い丼重に入っている。お盆や箸などを含めた一揃いが、赤と黒の容器で統一されていることが日本の食卓の美学であり、それは台湾人にとっては馴染みのないものだ。艶のある高品質な漆器はプラスチックの質感を彷彿とさせるほど滑らか。その美しい見た目と複雑な工芸技術によって「プラスチックかと思った」と誤認させるほどの完成度に達している。私は福井に来て、漆器製造の魅力的な作業工程を知った。巧みな腕前によって精緻な漆塗りがされていることを知ると、食事の時間が芸術鑑賞の時間になる。

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一流職人である土田直男氏が1979年に作り上げたブランド───それこそが土直漆器である。伝統工芸の技は千年の尊い年月を受け継がれてきた。その伝統を受け継ぎながら新しい美学を創造し、若者の力で国を越え発展させるであろう二代目が、土田直喜氏だ。ブランド刷新の舵取り役である直喜氏は、がっしりとした良い体格をしていて、豪快に笑う温かい人だ。つるりとした漆の椀を持つ彼の目はキラキラ光り、漆器に対する溢れんばかりの愛情を感じた。
展示室に入ってみると、並んでいる美しい手工芸品たちはどれも独特。初めて間近に日本の漆器を見た人々は、表面の細緻な模様と漆の鮮やかな光沢に驚かされる。木製の生地を用い樹液を塗料にした伝統的な漆器は、原料が高価なだけでなく、作る工程が複雑で時間を要し、ひとつの椀を作るのに少なくとも2ヶ月かかる。5層以上になる塗り重ねと「蒔絵」(漆の上に金・銀・色粉などをのせ模様をつける装飾)の技術を駆使し、ついに美麗な漆器がその姿を現すのだ。

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よく見る漆器は黒と赤を基調とするが、これは元々の漆の色が黒いためだ(「漆黒」という言葉はここからきている)。それぞれの工房が専門性をもって分業をしており、生地づくり・漆塗り、形についても円形・四角形など、それぞれを専門とする職人がいる。貴重な原料を重ねていくために、一つの漆椀にたいへんな価値が生まる。そのため婚礼や葬儀の際など重要な式が執り行われる際に、一般的な家でも5個から10個の漆器を客人に出すことで、厚い歓迎の意を表す。漆器は、笑い、泣く、人生の重要な節目を象徴するものであり、その時の食卓の記憶を鮮やかに残すという重要な役割を担っている。

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現在、自分の家で宴席などをもうける機会は少なくなってきている。漆器の主な販売先は旅館や料亭だが、その生産量も減少傾向である。こんなにも美しく価値ある工芸品であるので、私たちは「価格を下げることで間口を広げ、多くの人が手頃な価格で漆器の美しさに触れるようにしないのですか」と問いかけた。すると土田直喜氏は間髪入れず「私たちには、百年使ってもらう自信があるから!」と言ったのだった。

このような日本の職人の自信とこだわりがそれぞれの工房にゆきとどいているために、職人たちは一心に漆を塗り、細やかに蒔絵を描くのだ。そうやって作られた漆器は、使う季節によって異なる様相を見せてくれる。たとえば冬桜と雪景色、夏の花火大会、慶事を表す結び飾り等々……。器の底が黒い漆器は料理をより際立たせ、蒔絵が想像をかきたてる。全ての漆器が、それぞれに物語を語ってくれるのだ。

しかし、伝統工芸と現代の市場の衝突は、ブランド転換をする際に避けては通れない。土直漆器には厳しい訓練を受けた職人以外にも、様々な産業に携わってきた若者たちが多く在籍している。二代目である土田直喜氏は、そんな若い職人たちを連れて、新たな道を切り開いてきた。10年前に始めた新しいシリーズは、より海外市場のニーズに合わせたものである。新シリーズのコーヒーカップやタンブラーなどには、「毎日使いながら日本を感じてほしい!」という思いが詰まっている。伝統文化が日常生活に溶け込み、価格というハードルを越えるだけの価値がある。ステンレスを使った漆器は実用と美を兼ね備えており、人気を博している。土田直喜氏は漆器の色を変えることで木目を出す器を生み出した。この器はとくに若い世代から注目を集め、「くるむ」というシリーズが生まれた。「くるむ」の器は使う人に木のぬくもりを感じさせる。箸やスマホケース、カードケース、ペンに到るまで様々な漆器製品が生まれた。生活する中で漆器の美しさと質感を感じることで、伝統の技が雪解け水のように、少しずつ人々の生活と心に染みわたっていく。

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