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越前和紙 老舗製紙会社の新たな展開/河和田微住

文 : 蔡 奕屏(yiiping)
攝影:Jerry Wang
翻訳:伊藤ゆか

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およそ1500年の歴史をもつと言われる越前和紙。越前市の今立地区は日本の和紙発祥の地と言い伝えられている。品質や種類の多さ、生産量、どれをとっても日本で一二を争う越前和紙は、明治政府が全国共通の政府紙幣を発行する際に採用されるほど評価が高いものだった。
しかし、輝かしい歴史に次第に影がさすようになる。時代の変化とともに和紙産業は衰退。売り上げは年々下がっていき、さらに和紙の材料不足が追い討ちをかけ、越前和紙は危機的状況に陥る。

和紙業界が崖っぷちに立たされる中、越前和紙工房である五十嵐製紙は2019年に創業100周年を迎えた。そして100周年となる年に、工房は全く新しい試みを始める。その変化によって、次の百年の扉を開くファンファーレが鳴り響いたようだった。
ブドウジャムを作る過程で出るブドウの皮や、学校給食を作る過程で出る人参の皮、スーパーで廃棄処分になった玉ねぎの皮……そんな和紙とは全く接点がなかった素材を加えることで、工房は色彩と風合いを一変させた新商品を開発したのだ。

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「Food Paper」と名付けられたこの新しい紙は、作り始めた当初、新たに加えた素材のせいで上手く漉くことができず職人たちを大いに悩ませた。行き詰まった工房はデザイン事務所TSUGIの新山直広と話し合いをすることになる。その時に新山が発した「他の素材も足してみたらどうですか?」という何気ない一言で、五十嵐製紙四代目の五十嵐匡美さんは息子の自由研究を思い出したそうだ。匡美さんの息子である優翔君は小学校4年生から5年間、和紙に”いつも食べている食材”を漉き込んだらどうなるかを自由研究の題材にし、成果を「紙すき実験」という手書きのファイルにまとめていた。
小学校4年生の筆致は拙いものではあるが、確かな実験と分析をしており、内容は見事なもの。新山はこの研究ファイルを読み、その中に和紙の新たな可能性を見出したのだ───「まさにこれだ!」とひらめいた瞬間だった。

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2020年、東京で開かれた「大日本市」という商業展示会で「Food Paper」はお披露目され、予想以上の好評を博し、大きな反響を得た。会場に置いてあった非売品のカレンダーにまで問い合わせが殺到したほどだった。五十嵐匡美さんは「本当に想像以上で、驚きました」と語る。彼女の朗らかな笑みに、私たちは伝統技術とイノベーションの概念が結びついた喜びとトキメキが表れているように感じた。

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出版・編集業界の人々の聖地 日本唯一の和紙神社

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言い伝えによると1100年前、越前市岡太地区を流れる川の上流に女神様が現れ、村人たちに紙漉きの技術を教えたそうだ。この女神様は"紙祖神"として「川上御前」という名で岡太神社の主神となり、岡太神社が日本で唯一「紙の神様」を祀る神社となった。
岡太神社は出版業界など文字に関わる仕事の人々から1番の聖地とされている。しかし素晴らしいのはその由緒だけでない。神社の折り重なるような珍しい屋根や、福井県産の笏谷石、巨木や苔など、全員建築マニア・自然好きな微住者に午後のひと時をゆったりと過ごさせてくれる素晴らしい空間だった。

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