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わたしにつきまとう土地/台東・長浜微住(後編)

文:HuiChia Chao 翻訳:田中

長浜での店長生活は人混みに埋もれることとは無縁で、ほとんどの時間、自分の好きな本に読みふけていた。(この1ヶ月が私史上最も本を読んだかもしれない…w )お客さんがやってきたら、適度に声がけをして、時には「長浜にどうしたきたのか」などを聞かれお話をする。ただそのほとんどがそれぞれ本に没頭できる空間として静かに時は流れていった。

「意のままに」という生き方

「隨意=意のままに」がこの小さなまちでの生き方だ。
もし何もやることがない時、このまちでのひとたちは近所の人の家に遊びに行く。常連のじいさんは都市部生まれの私にこれまで見たことのない山トマトをわざわざとってきてくれたり、本屋の隣に住んでいるおばあちゃんは自分のお店が終わると、チマキを持ってきてくれたり、ガス屋のおじさんも自分が作った伝統的な饅頭を持って遊びにきてくれたり。自信満々に味の保証をしてくれた。あとは…米農家の兄さんは本屋を閉めるタイミングでよく一緒にコーヒーを飲みに行った。
(え、全部食べ物ばっかりじゃん?)

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▲常連のおじさんが私の視野を広げてくれた山トマト

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▲別の日おじさんが持ってきてくれた大量のとうもろこしのおかげで、しばらく毎日のおやつはとうもろこしになった。

ある絶好の晴天に恵まれた日、私はお天道さんから誘われどうしても外へ遊びにいきたくなった。高さんに相談した結果、私は一枚の紙を店内に置き、ただちにお店は無人書店となった。

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ある時は、近くの小学校の先生は私に絵本を子供たちに読んでもらいたいと言われ、あまり子供たちと接したことのない私だが一緒に賑やかな午後のひと時を過ごした。その日以降、道で私を見かけると、いつも「趙ねぇーちゃーん」と走ってやってきてくれる。

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わたしたちの心につきまとう”長浜という土地

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店長の時間以外は、海に行ったり、夜は友達と星を見に山に行ったり。初めて台東でのお米の収穫にも参加した。(台東は台湾を代表するお米の産地)
皆さんとの話の中で、長浜には多くの県外や国外からの「新移民」がいらっしゃることを知った。彼らは口を揃えて「長浜の土地は自分に“つきまとう”。一度来たら離れたくなくなる。」と話す。そのためある人はここで民宿を始めたり、ある人は商売を始める。ある人は一台のリアカーでノマド的にコーヒー屋をやっている。ある若い夫婦はヨガ教室を始めた。
長浜の人は皆心から海や山を愛し、真剣に自分たちのライフスタイルに向き合っている。彼らの意識や考え方は私に「生きること」の多様性や可能性を気づかせてくれた。

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▲同年代のカニュさんは長浜の海が好きになり、このまちに住むことを決めた。一台のリヤカーに全てを装備を積み、コーヒーの販売しながらノマド生活をしている。

ここに移住した人たちはこの“辺鄙な地”の本質に気付いたのだ。人と土地の共存、人と人の間の信頼と助け合い、心は海のように自由に。ライススタイルはシンプルで豊か。長浜のみなさんの生き方や土地の魅力を胸いっぱい吸収し、渋々台北に戻る。いや、渋々な感じはしない。だって私はもう気付いている。自分の心にもう長浜はつきまとっていると。私は必ず長浜にまた戻ってくる。

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