なぜ行動経済学か(その2)–ケネディスクールが生徒に統計を教える理由
私が昨年受けた必修の統計の授業を担当した先生は、ご両親がスウェーデン人と日本人の、カワイイ系イケメン。
https://www.hks.harvard.edu/about/faculty-staff-directory/david-yanagizawa-drott
教え方も上手で、いろんな意味でファンが多い先生でした。
この統計の授業で最初に示される図が、これです。
横軸が国別のチョコレートの消費量、縦軸が人口当たりのノーベル賞の受賞者数。
これはNew England Journal of Medicineという、権威ある学術誌に載った図です。
チョコレートに含まれるフラボノイドが脳への血流を増加させて、頭をよくするのかも!って論文には書いてあるのですが、そんなわけないじゃん、と思うでしょう。
堅い言葉でいうと、「相関関係」と「因果関係」とを取り違えているのです。チョコレートの消費量が増えたからノーベル賞の受賞者が増えた(因果関係)のではなく、チョコレートの消費量の多い国はノーベル賞が多い国(相関関係)なだけです。
別の要因(例えば経済力の高さや国の場所)が、チョコレートの消費量やノーベル賞の受賞者を増やしているのでしょう。
実際には「因果関係」がないのに、「因果関係」があると思う間違いを私たちはたくさんしています。
◯◯ジュースを飲む人はお肌がキレイなのは、多分◯◯ジュースを飲むからお肌がキレイになるんじゃなくて、お肌に気を使ってる人が◯◯ジュースを飲んでるからだけ。(架空の例です。)
社内運動会を始めた××社の業績が伸びたのは、多分そのタイミングがたまたま近いだけ。(架空の例です。)
これくらいならカワイイですが、過去に悪いことをしたから交通事故にあった、とかになると酷い言いがかりです。でもそういうストーリーがあると、情報がつい頭の中に入りやすくなるのです。
「ノーベル賞を増やすためにチョコレートを与えるような無駄な政策があまりにも多い。ぜひ君たちがその状況を変えて、世界を良い場所にしてほしい。」というのが、この図を示した統計の先生がケネディスクールの生徒たちに伝えたいメッセージでした。
ノーベル賞とチョコレートの「因果関係」を見つける方法としては、チョコレートを与える組と飴玉を与える組に子どもたちをランダムに分けて追跡調査をするのが理想ですが、そんなことはできないので統計をちゃんと勉強しようね、という授業の導入でした。たくさんの例を調べたからとか、偉い学者さんが言ってたから、そんなものだけに騙されないようにしなければなりません。
じゃあ結局は実際どうすればいいんだよ、という声が聞こえてくるので、今回の記事(因果関係をちゃんと見よう)と前回の記事(バイアスをちゃんと考えよう)の内容を取り入れると、実際の政策の作り方はどう変わったのかという例を次回書きます。
最後に余談として、「相関関係」をワザと間違えて示した面白い図をいくつか載せます。
アメリカのノルウェーからの原油の輸入量と、鉄道と衝突して死んだドライバーの数。(http://i.imgur.com/VSKqqzC.png)
米国メイン州の離婚率と、米国内の1人当たりマーガリン消費量。(http://i.kinja-img.com/gawker-media/image/upload/hjloaqj0wkomlfwvx37x.png)
プールで溺れた人の数と、ニコラス・ケイジの映画出演数。
最後にチョコレートとノーベル賞の論文。http://www.biostat.jhsph.edu/courses/bio621/misc/Chocolate%20consumption%20cognitive%20function%20and%20nobel%20laurates%20(NEJM).pdf
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