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U-18 Review 2021

 どうも、アカデミー係を自称している酔と言います。いぶきCグラウンドでヴィッセル神戸U-18の練習や試合を眺めたり、OBたちが進学した大学サッカーあるいは下部カテゴリの試合を観に行ったりしているサポーターのひとりです。白黒時代の後半から自覚的に応援するようになったので、サポ歴だけで言えばどちらかというとベテランの方になるのでしょう。
 今回は、2021年のReviewということで、U-18の活動を中心にアカデミーの現状を自分なりに書いていきたいと思います。

■主要大会の成績

・プレミアウエスト
 7位 勝点17 平均勝点1.13
 5勝2分8敗 得点22 失点31 得失点差-9

 残留争いのど真ん中で苦しみ、天王山となる京都サンガとの直接対決に勝利して、結局3試合が未消化ながら来年度もプレミアで戦う権利を掴めた薄氷のシーズンでした。今年もコロナ禍で予定されていたスケジュールが変更を余儀なくされ、最終的に平均勝点(いわゆる勝点率)で順位を決定するなど変則的な1年であったことは、他チームも同じ条件なので理由にはならないでしょう。
 チームビルディングが上手くいかなかったという印象はないです。しかし、最終的に優勝することとなった広島との開幕戦に0-3で惨敗し、2節アウェイ大津高戦は終盤に与えてしまったPKによる失点でまさかの敗戦。その次のアウェイガンバ大阪戦は相手の勢いに圧倒され守備を立て直せず2-6の大敗と、開幕までに積み上げた自信が粉々になるような立て続けの敗戦がチームの歯車を狂わせてしまったのだろうと思います。
 ターニングポイントは他にも。ホームでの15節セレッソ大阪戦、前半に2点を先行できたものの、開き直ってパススピードを速めた相手に足が動かせなくなり3点を奪われての逆転負け。それまで未勝利の降格候補だったセレッソに初勝利を献上してしまった試合もそうです。この試合を機にセレッソは破竹の勢いで連勝し先に残留を決めることになる一方で、神戸は一時最下位に転落するなど追い詰められました。
 経験の少ない1年生の積極的な起用が印象に残ったシーズンでもありますが、そのポジションの劣勢をフォローできず失点につながったり、白熱した試合で競り負けて勝点が得られなかったり、主力のミスで先制を許して流れを取り返せないまま終わってしまうなど、典型的な降格するチームを見ているようで正直このままだと厳しいなと感じた局面もひとつやふたつではありません。少しずつ守備戦術の整理が進み(割り切りともいう)、京都戦を含むラストスパートで勝点を17まで積むことができ、例年の残留目安は上回って終えることとなりましたが、2022年度に東西プレミアリーグのチーム数が拡大(10→12)することに伴って降格1枠であったことと、京都がヴィッセルよりも輪をかけて低調だったことで拾えた残留であることは否めないと思います。

・クラブユース選手権
 関西大会 第1代表
 全国大会 ラウンド16敗退(vs鹿島アントラーズ) 
      グループリーグ2勝1敗

 いわゆる夏のクラ選は、グループリーグは何とか1位抜けしたものの、トーナメント1回戦で鹿島に競り負けて終えることになりました。
 プレミアの強豪チームが同グループに入らなかったこともあり、突破に向けて比較的優位だろうと目されていましたが、初戦のブラウブリッツ秋田、2戦目のジェフ千葉と連勝したものの圧倒とは言えないどうにも微妙な内容のゲームでした。そしてか、やはりか、3戦目で九州プリンスで首位争いしていたV・ファーレン長崎に0-1の完封負け、公式戦では初めてとなる敗戦を長崎に喫してしまいました。
 直接対決の成績によって辛うじてグループ内1位を確保したものの、開催地群馬のひたすら暑い中での連戦でリバウンドメンタリティを発揮できなかったのか、ノックアウトラウンド初戦の鹿島には2点を先行されてしまい、ロングボールを増やした終盤に1点を返したものの、時遅く1-2で敗れました。ちなみに、この大会で優勝した名古屋はプレミアでも上位争いするなど非常に充実していて、こりゃ彼らから勝点を奪うの難しいかなと思ってたらアウェイ・ホームの2試合とも勝利して残留につながる貴重な勝点6をゲットできたのだからよくわからないものです。

・Jユースリーグ(グループH)
 1位 5勝1分0敗 得点20 失点5 得失点差+15
 参考平均勝点16/6=2.67

 5チーム(神戸、ガンバ、セレッソ、京都、広島)がホーム・アウェイ2回総当たりでのグループリーグの後、1位のみ決勝トーナメントに進出し優勝を争う大会と定められていましたが、コロナ禍の第5波で全国のクラブがスケジュール通りの消化ができなくなり、トーナメントはご破算に。
 ただ、第5波が沈静化した秋以降、選手たちに少しでも公式戦の経験を積ませようと各地でグループリーグの日程消化が進みました。18歳の3年生だけでなく下級生にあたる17歳以下の試合経験を増やそうという目的でレギュレーションが組まれていたこともあって、中3がスタメンの過半数を占めるチームがあるなど、取組みの方針には各クラブで違いが見受けられましたが、それでも6試合を消化しての1位は良い結果と言っていいのではないでしょうか。
 神戸のメンバーはBチームの1年生が中心で、助っ人的に3年生が加わるパターンの組み合わせの基本でした。1年生はいずれも来シーズンはAチームの主軸を担うことを期待される選手たちです。アウェイで1勝1分、ホームでは広島戦やガンバ戦も含めて4勝負けなしと健闘が光りました。

■フォーメーション
 U-18では、3バックにトライする機会が近年は何度か見られましたが、今シーズンは4バックの原則は崩さず、終盤に逃げ切りを図る狙いでCBを加える変更があった程度でした。4尾崎優成、5田代絋、19寺阪尚悟といったディフェンスのタレントを活かす合理性もあるのでしょうし、トップチームの戦術にある程度は追従することで、アカデミー所属選手が練習参加した際のポジションのマッチングがしやすい(≒ストロングポイントをアピールしやすい)こともメリットとしてあるのではないかと思います。
 それはさておき、プレミアウエストの序盤でつまづいて以降は、中央のセットポジションはアンカー1枚ではなく、6向井あさひと18安達秀都のボランチ2枚にトップ下として8仁科星哉を置く4-2-3-1で組むようになりました。この布陣、1トップを務めた9冨永虹七のポストプレイヤーとしての負担が大きくなる一方、彼にパスをつなぐまでカウンターを受けて苦しい守備を強いられる負のサイクルが目立っていました。
 コーチ陣からはインサイドのスペース支援に入る7荒井貫太や10永澤海風、28高山駿斗といったSHのアクションに対する要求が高く、セカンドボールの回収率というか、中盤スペースでの争奪戦で劣勢になりがちという収支の調整には特に苦心していたように感じます。コンタクトでの奪回に忙殺され悩み苦しんだ分だけ個人の守備スキルは伸びるのでしょうが、本来、クラブがやろうとしているサッカーの志向とはやはりズレがあるでしょう。
 また、チームとしてのアタッキングの強度を示す指標でもある「SBがデザインプレーから裏街道でチャンスメイク」なんて心躍るシーンも限られていたので、今季ポジションを任された左の17村井清大・34廣畑俊汰や右の39本間ジャスティンといった下級生にはさらなる伸びしろを期待したいところです。
 GKは秋口からの一時期は12森田大悟がスタメンを任されていたものの、コンディションを戻した終盤は高橋が正キーパーとしての貫禄を見せました。

■ベストマッチ

 アウェイの試合は現地観戦できなかったので、あくまでも生で観た範囲ということで選ぶなら。

・2021.11.20 プレミアウエスト第16節 vs名古屋グランパスU-18
 2-1(1-0) 得点者 16分永澤、65分尾崎
 優勝争いと前回のリベンジという確かなモチベーションがあった名古屋に、神戸も尾崎主将以下まったく気迫負けすることなく攻守に奮闘できていたことで勝利に結びついた会心の試合です。
 9冨永の鋭いキープからドリブルでカットイン、センターレーンで受けたトップ下の8仁科からの決定的なスルーパスに10永澤が走り込み相手キーパーの鼻先で回転を変えてゴールという、トレーニングで鍛えてきたパスワークでの先制シーンが白眉でした。

■その他

・負傷離脱
 フィジカルスタッフのおかげか、筋肉系の負傷による離脱者が少なかったように感じました。残念ながら大きなケガをしてしまった選手も前向きにリハビリに励んでいます。がんばってほしいです。
・U-15からの昇格
 U-18に昇格してくる高1(現中3)の選手たちは、来年の年明けの始動に合わせてチームに加わるのが通例なのですが(練習参加はそれまでもある)、夏の時点で昇格すると公にされ、公式戦にも出場できることになった珍しい事例の選手がいます。クラブからの期待の表れだと思いますし、冬の大会出場のためU-15の活動に戻りましたが、相手数人に囲まれても奪われずスムーズにコントロールするボールさばきは目を引くものがありました。
 U-15は関西リーグ(サンライズリーグ)を制覇した強いチームで、彼以外にも有望なタレントがいますので注目です。

■大学からプロへ

 3年生は多くが大学に進学しますが、来春、4年生として大学を卒業するOBでプロ契約が決まった(12/23現時点で公表された)選手がいます。

・坪井湧也  ヴィッセル神戸(J1)内定 GK 中央大学
 U-18では正ゴールキーパーとして堅守を支える。大学で2年からレギュラー争いに絡むなど成長し、出場経験を積む。冷静さとシュートストップに磨きをかけて即戦力の期待がかかる。
・本山遥   ファジアーノ岡山(J2)内定 DF 関西学院大学
 U-18ではディフェンスのマルチロールとして貢献。関学では今シーズン主将を務めて関西学生リーグを制覇。上背はないが抜群のフィジカルとスピードを誇る。
・前川智敬  アスルクラロ沼津(J3)内定 DF 国士館大学
 U-18では不動の右サイドバックとして活躍。クレバーな判断で周囲をサポートし攻守にチームを支える。大学では選手層の厚さに苦しんだものの、4年から頭角を現してプロ内定を掴んだ。

■アカデミーの若者たちにエールを

Previewでこう書きました。

❝ただ、神戸のアカデミー部門は、保護者以外のファン・サポーターに対しても、観戦環境を提供しようという方針でいる。一般利用が行われるから厳密な区分が難しいという理由もあるが、いぶきの森球技場Cグラウンドは「無観客試合」でなければ誰が立ち入っても構わないし、マスクを着用するなど標準的な対策をしていれば咎められることもない。トレーニングにA・Bグラウンドを使用するトップチームと敷地内のエリアや導線を明確に切り分けできるからこその施策だと思う。発信してほしいことはまだまだ他にあるけど、物好きがトレーニングを眺められるのもそうした方針のおかげであって、他クラブの応援環境と比較すると感謝しかない。❞

 近隣のガンバやセレッソに比べてヴィッセル神戸のアカデミーは予算規模が大きいとは言えません。オーナーをはじめ様々な支援を受けているとはいえ、経年などにより施設環境が十分でないところも目立ちますし、スタッフの人数も限られています。Jクラブのアカデミーと言っても、所属しているのはフェノメノ(怪物)ではなくて、エリートではあるけどもできないことに悩みつつ切磋琢磨しながら成長していく若者がほとんどです。ネームバリューで才能を集めてそれで育つのではなく、クラブ全体の事業であるバルセロナとの関係から有用なメソッドなどを取り込んで、指導するスタッフに落とし込むという、めちゃくちゃスパンの長いプロジェクトに取り組んでいると考えるのがより精確な見立てと言えるでしょう。もちろん評価のものさしとしてコンペティションも重要なのですが。
 でも、若者たちは勝敗やメソッドとは関係なく、巣立っていきます。アカデミーの意義は、そんな彼らがスポーツパーソンとして、あるいは社会人として練達した暁に、サッカーという競技や生まれ育った地にオトナとして報いてくれることにあると思うのです。

 なので、アカデミーに所属し、ヴィッセル神戸というクラブの一員として育っていく若者たちにサポーターからもっともっと大きなエールを、というのがアカデミー係からのお願いです。
 まだしばらくコロナ禍が続くであろう中、練習が見学できて試合も観やすいアカデミーで先物買いをするのも愉しいですよ。ぜひ。

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