猫と金木犀と私の地球会議①
夜中まで強い雨が降っていたが、今朝は雨もあがりもわっとした空気が流れていた。
台風15号はどうやら通り過ぎたようだ。
今日は朝から自分の部屋に閉じこもっていた。
ママは学校なんか休んでいい、とは言ったものの、少しだけ困った顔をしていた。
この家に引っ越してちょうど1年。
都会から移ってきた田舎町。夕方6時になると町内ところどころにあるスピーカーから「ふるさと」が流れ始め、「パープー」というラッパ音とともに自転車で豆腐売りがやってくるような町だ。
隣のアパートにはベトナムやフィリピン、新興国から働きに来ている人がたくさん住んでいて、休日は昼間から、仕事が終わった夜も、ほとんどの人が玄関前の椅子に座り、町中に響き渡っているんじゃないかと心配になるくらいの大声で話している。時折スピーカーになっているスマホの向こう側から小さな子供の泣き声が聞こえてくる。優しい口調でなだめているのが言葉はわからなくても、わかるものだなと私は思った。
先月、たまたま本屋でベトナムやフィリピンの本を読んだ。日本と違って若い人が多い国。そして、これから勢いの増す国だ。アパートに住む人たちもやはり若い世代の方が多い。少し前まで、私は新興国の人々に対してどちらかというと勝手にマイナスのイメージを持っていた。でも、ここに住んでから印象は全く違うものになった。
やはり、正しい情報とフラットな視点、何より体感が大切だと思った。
オンボロすぎるこの家には、得たいの知れない虫が出る。庭にはダンゴムシやカエルにバッタ、ミミズ、蜂にクモ。
ある日、玄関の前に1mはゆうに超えるアオダイショウが出た。学校帰りの私は思わず「ぎゃー」と、これまた町中に響き渡るような大声で叫んだ。アパートの2階に暮らすジャクソンが「What!」とすぐに飛び出してきてくれた。「私は蛇のこわさを知っている」と昔コブラと格闘した武勇伝を聞かせてくれ、すぐさま部屋にいる兄弟を呼んでアオダイショウを捕まえた後、裏の薮に放り投げてくれた。流れるような一連の動きに私は感動した。基本的に、隣のアパートの住人たちとはお互い、カタコトの日本語と英語、ジェスチャー、スマホアプリで話をしている。毎朝、私が雨戸を開けに外へ出ると、「オハヨウ!」と満面の笑顔と大きな声であいさつをしてくれる。最近、日本人同士でもなかなかない。
蛇を退治した後、最後に何を言うかと思ったら、ジャクソンはスマホで日本語に変換した文章を大きな声で読み上げた。
「オヤクニタテテナニヨリデス!」
家に入って急いでママに話すと、「アオダイショウは家の守り神よ。もしかしたら、この家にずっと住んでいたのかもね。私たちが来るよりずっと昔から・・・」と言って、またワイドショーをみはじめた。「テレビばっかりみて・・・そんなに面白いの?」と聞くと「面白いも何も考えたことはないけど・・・これが当たり前だったからね」と言いながら、チャンネルをいくつか変えたりしていた。「みたいもの、別にないんじゃないの?」ともう一度ママに尋ねると、「インスタみてるでしょ?それとおんなじよ」と答えが返ってきた。
11時。そんな出来事を思い出しながら、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出してお手製のテーブルに置いた。ここはお気に入りの場所。庭の金木犀が良く見える。引っ越ししてきた時から、私はなぜかこの木にとてつもなく惹かれている。去年の10月には黄色い花を咲かせ、なんともいえない美しい香りを届けてくれた。その時から大好きになった。
気づけば外はすっかり真夏に逆戻りしたように、太陽が実に太陽らしく、数日見ていなかった青空がとても懐かしくうれしく思えた。
「蝉はさすがにもう鳴いてないな」
さみしさを隠すように鼻で笑いながら、読みかけの本を開こうとすると突然、
「君は私のことばがわかるの?」
目の前の金木犀が話しかけてきた。
「金木犀が話しかけてきた?」
「あれ?これは誰の声だ?」
私の中で、少し時がとまった。
読んで頂き、誠にありがとうございました🙇♀️未来の地球を生きる方々に活かしていきたいと思います。時々、アイスカフェラテ代に使わせて頂きます。初めてサポートして下さった方が、そうおっしゃったので🤭🎶