創作3.「亀になったけちんぼ姉さん・名古屋弁編」 2018年版から2022年改訂版。その2
ずっと前に遊びで書いたものを、間違いを直し、
わからなかったところはそのままに、書き直してみました。
元々のお話は、ルーマニア民話「りこうなお妃」だったと思います。
(トップ写真はその表紙・岩波書店です)
名古屋弁はちゃんと基礎から積み上げていないのでとても難しく、操れる娘たちは自立してもう質問できません。
そこで、嘘ばっかりなものになりましたが、名古屋ネイティブの皆様は笑ってお許しください。
また、他所の衆は、まちがってもこれを、正しい名古屋弁と思わないでくださいね。
さて、お芝居の続きです。
おじいさんの世話をする妹は、お姉さんをこきつかっています。
姉:はいはい、ああ卵ね。
まあまあ、人使いの荒いこと。はいはい。
ー 姉は庭へ行き、カゴに卵を入れて戻ってくる。
チーン、と時計のチャイムがなる。
妹:お姉さん、
ちょっとパン種の様子を見てちょうだゃあ。
姉:はいはい。
ー ふきんを持ち上げると、3つのパンのうち、
一つだけがとても大きくふくらんでいる。
姉:(体でパンを隠すようにして)なぁにぃ・・。
まあ、あんな小汚いじいさんには、
この一番小さいので十分だがね。
一番大きいのに印をつけておきゃええて・・。
妹:お姉さん、パン種の様子はどうかね?
姉:一回目の発酵は申し分ないにゃあでよ。
今空気を抜いてあげるで、まっとって。
ー 姉、3つのパンをくるくると手で回し、
たたくなどして空気を抜く。
姉:これが私のでぇ・・
ー 姉、ナイフで一番大きいパンに印をつける。
ふきんをもう一度かける。
ナレーション:妹は貧しい台所で、2回目にパンが膨らむのを待つ間、卵でオムレツを作ったり、お茶のお湯をわかしたりするのでした。
ー 姉、その間、手持ち無沙汰そうに枝毛を切ったり、
退屈そうに本をめくったりしている。
チーン、とまたチャイムが鳴る。
妹:お姉さん!
姉:あー、はいはい、パンの様子をみりゃええんだね?
ー 姉、ふきんを持ち上げてみると、さっき一番小さかった
パンが一番大きくなっている。
姉:うん?
しるしをつけたのが一番小さくなってるがね。
なぁにぃこれ・・。
・・まあね、あんな枯れ木のようなじいさん、
この一番小さいので十分だわ。あたしのはこれ・・。
ー 姉、一番大きくなったパンに印をつける。
姉:ねえあんた、2回目もうまくふくらんだがね。
妹:お姉さん、ありがとう。じゃ、早速焼こまい。
ー 妹、天板に3つのパンを並べて入れる。
大きな椅子を食卓に引きずって来て、
クッションをパンパンと叩いて乗せたり、
お茶の道具や卵を並べたりして、食事の支度をする。
楽しい音楽。
姉はだるそうに爪を切っていたりする。
チーン、とまたチャイム。
姉がかまどに駆け寄って、パンを取り出す。
姉:アチ、アチチ! あら、印はこれと・・・これ?
ありゃ、印のないのが一番大きくなっとりゃあす。
ま、いいわ、これを私が食べりゃぁちょうどええで。
(妹に)あんたぁ、パンができたがね。
ー 妹、おじいさんを助け起こし、大きな椅子に座らせ、クッションを居心地よくなるように直してやる、などする。
妹:おじいさん、でらお待たせしたなも。
卵ぐらいしかないけれど、パンは焼きたてのほやほやだでね。
さあ、一番大きいのを・・
ー 姉、その言葉を聞いて、自分の皿にとってあった一番大きいパンにかぶりつく。
妹: ちょっとお姉さん!
姉:ええとあら、あのぉ、
飢えている人が急にたくさん食べたら毒になるがね。
(妹だけに声を潜め、)
だいたい、あんたが家に入れなきゃ、
ほかんところで物乞いをしていた人じゃないにゃあか。
まるで王様が来たようにもてなすなんて、
そんなにしてやる義理なんてにゃあがね。
妹:(ちょっとため息をつきかけ、
でもすぐ気を取り直しおじいさんに・・)
おじいさんね、ほらこれを食べたってちょう。
もし足りんかったら、こっちは小さいけど、
こっちも食べたってねぇ。
ゆっくりね、ゆっくり食べやぁ。
お茶も少しぬるめにしといたで・・。
ー 姉、うんざりして 天井に向かって目を剥く。
大きな音楽。
雷鳴、稲光。
ナレーション: 急にあたりが明るくなり、眩しさに目を覆った姉妹が目を開けると、そこには白い衣を着た、立派な人が立っていました。
おじいさん実は神様: 妹娘よ。
おみゃあさんは、わしの身なり判断することをせず、
薄汚にゃあ物乞いの年寄りに哀れみをかけて
また、いつもわしが一番心地よいように考え、
かまってくれたが、もーはい、殊勝なことだったがね。
どんなときにでも、一番良いものを人に与えることができるのは、人間の一番の徳というものだがね。
姉:ちょちょちょちょっと、あんた だっだだだ・・・
妹:お姉さん、しっ!
姉:この感じからするともしかして、あああんた、
かかかか神様きゃぁ?!
ー 神様、姉を丸無視し、
神様:妹娘よ、
おみゃあさんは おみゃあさんにふさわしい衣をまとい、
おみゃあさんにふさわしい暮らしを、
一生の間送るがええが。
これがわしからの贈り物だで。
ー 神様が杖を一振りすると、
妹娘は早変わりで綺麗な服装になる。
神様:そして姉娘よ。
おみゃあはまあ、思いやりがなく、けちなだけではなく、
人を見てその言葉や振る舞いを変えるじんだがね。
そして、いつも自分が一番良いものをほしがるという、
とんだ欲張りでもあらっせる。
ー 神様、杖を振り上げる。
姉娘、ひーっと悲鳴をあげながら、パン捏ね桶を頭からかぶり、背中に担いで床の上でうずくまり、隠れる。
神様:だで、おみゃあはおみゃあにふさわしい姿になるのが
一番ええがね。
ー 神様が杖を一振りすると、姉は亀の姿になってしまう。
そのまま下手へ逃げて消える。
神様が白髪のカツラと髭を取ると、それはイケメンの若者。
神様: 優しい妹娘さん。
オリジナルのお話はここでおしまいです。
身も蓋もありません。
しかし最近は、「本当は怖いおとぎ話」
などというのがはやっているようですから、
案外これでいいのかもしれません。
けれどお姉さんも、たかが、
どのパンを食べてやろうという思惑ぐらいで、
一生亀でいるというのも いかにもお気の毒な話です。
そこで、多少強引ではありますが、
エンディングを変更しましょう。
実は私は、この辺に、美人で気立てのよい娘さんと、
性格がいまひとつなお姉さんがいるという噂を聞き、
なんだったら性格のいい方の娘さんとお付き合いをしたいと、
下界へ降りてきた、婚活中の神様なのです。
お姉さんも、この機会に少しは悔い改めるのも薬になるかと思いますので、今からこの海を渡って、ジャパンという国に行っていただきます。
そこで、人助けでも道案内でも、なんでもいいのですが、
適当に働いていただいて、帰ってきた暁には、
もとの姿に戻してあげましょう。
それでいかがですか?
妹:はい、まあ、あの。それであんばよう、おねぎゃあしますで。
神様:よろしいですか? よろしいですね?
では、もしお嫌でなければ、この手をお取りください。
妹、おずおずと神様の手をとる。
二人、目と目をみかわし、にっこりとほほえむ。
盛り上がる美しい音楽
幕
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