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Foodies! 138. パンが大好きー1.

私の子供の頃に、歩いて5秒、家のほぼ向かいに「ねもとさん」というお菓子屋さんがあり、そこから10秒で「太田さん」というお菓子屋さんがありました。

駄菓子屋さんの方は別に、名前はわからないのですが、「石鹸山」(※1)と呼ばれた廃土集積場を過ぎたところに小さいのが一つあり、お金がないときは、ある子が贅沢をするのを後ろからみんなでじっと見つめ、自分にお金があるときはもんじゃ焼きを食べていた・・という話をすると長くなるのでやめて、まず、ねもとさんと太田さんの違いから。

太田さんは「山崎」の子分であったので、「買ったパン」がそのパン部門の多くを占めていました。
ねもとさんはそれに対し、店舗は太田さんのそれの3分の1ぐらいでしたが、「食パンスライス機」(※2)を備えた手作り派で、「作るパン」を多く作るお店でした。

「買ったパン」は、工場からお店に来て私たちが買う菓子パン・おかずパンや甘い系の菓子パンのことです。

それの反対に位置するのが「作るパン」です。
「作るパン」とは文字通り、お店でおばさんが作るサンドイッチや、中身のあるパンのことですね。


今ふと思ったのですが、日本語として正しいのは「作ったパン」ではないでしょうか。私たちがお金を握りしめて買いに行った時に、おばさんの「作った」パンはすでに並んでいる。
でも、「作るパン」と呼んでいました。
⚠️時制の一致を見ていません⚠️
でも当時は子供で、日本語教師でもなかったので、別にもやもやすることはありませんでした。

「今日のお弁当は、ねもとさんの『作るパン』でいいでしょう? 」
「たまには太田さんの『買ったパン』も美味しいよね」
という具合です。

しかし、後者の「買ったパン」的な言い方は、誰も深くが考えず、普通に言っていますよね。
いつ買うか、買ったか、ということは考えず、
「買って食べるカテのもの」という意味だと思います。

太田さんの食品ケースに並んでいるパンのほとんどは、正確を期して言えば、
「工場で作ったパン」か、「(これから)買うパン」なんですが、
かと言って、
「工場で作ったパン」vs「おばさんが作ったパン」
と言おうとすると長いし、短く「作ったパン」と言いそうになるが、それをしてしまうとお店の区別がつかない。
そうか、だから、「買ったパン」と「作るパン」と言っていたのね。
数十年後に明らかになりました。
それではこれで。


というと、終わってしまうので、もう少し書きます。

太田さんに行くのは、当時では個包装ではなかった「買ったパン」の、あんぱん・クリームパン・ジャムパンが目的でした。

あんぱんは丸く、黒胡麻がついている。
あんのある部分の天井には、洞窟のように隙間がある。
隙間が大きいのが正しいあんぱん。
木村屋のように、桜の塩漬けが載っていると、別格の高級品ですね。



クリームパンは、子供の落書きの野球のグラブのような形で、中には黄色いカスタードクリームもどきが入っていた。
粘りをつけた化学の味だったと思いますが、私は自分で一生懸命(たまに)作るカスタードクリームより、市販の安いお菓子に入っているもののほうが、断然好きです。



ジャムパンは、形は忘れましたが、中身はプチプチの種のある苺ジャム。
当時は、三大パンのお供といえば、バター・マーガリン(砂糖を加えたものを含む)・ジャムパン・ピーナツバターでした。
おしゃれなジャムが出てくるのはもう少しあとです。

まさに山崎製パンが今も作っているジャムパンだそうです。


ねもとさんでは、コッペパンの切れ目に、バタークリームと真ん中にチェリーをおいたもの、コッペパンの切れ目に甘みをつけたマーガリンを塗ったもの、
あとは細いコッペパンに焼きそばを入れた焼きぞばパンぐらいで、その他はサンドイッチ2種でした。


ねもとさんは絞り金で絞ってはいませんでした。


その具は、

ハムと胡瓜
刻みゆで卵のマヨネーズ和え

これだけです。
これでいいのです。

歩いて数秒、玄関を出てすぐ見えるねもとさんへは、幼稚園のお弁当を何かの理由で母が作らないときに、自分で好きなものを買いに行かされました。
また、毎日少しのお小遣いをもらっていましたので、下町の子が普通に許されていた買い食いも毎日していました。

家でサンドイッチを作る時は、
「ねもとさんに行って、食パン一斤10枚切りにしてもらってね」
と母によくお使いに出されました。

「食パン一斤、10枚切りにしてください」
「はいよ」

おばさんか、独身のお兄さん(イケメン)が、透き通った袋から食パン一斤を出し、ボタンを入れると恐ろしい勢いで周り出す、そのピカピカした丸い歯に食パンのサイドを押し付けると、パンはほとんど音もなく、すい、すい、すい、すい・・。
おばさんかお兄さんは、食パンを向こうに押しやりながら歯に押し当て、一枚切れると逆に手前に引き戻すことで、11往復させ、見事に10枚の薄切りのパンができます。
11枚往復というのは、食パンの一番端はたいてい一面に「耳の一部」です。
で、それは10枚のうちにカウントしないため、11往復することが多かったと思います。
・・・というのは、今、大人になって考えついたことなのですが、新しい食パンを切り始める時は、11回往復したのではないかな〜。
違っていたらごめんなさい。

家で作ってくれるサンドイッチも、「ねもとさんで買うサンドイッチ」も、具は同じですが、大きな違いは、「作るサンドイッチ」は、パンの耳がないこと。なので、贅沢で美味しく感じられました。
2枚のパンに具を挟んで対角線で切るので、直角三角形です。
そして、別にサランラップとかには包んでいないため、1日の遅い時間になるほどに、少しパンがカサカサして、固くなる、それがまた美味しく感じられました。
なぜでしょう。
最初の一口を、家に帰るのが待ち切れなくて紙袋から少し出して、角を一口。そのとき舌に当たった、食パンの切り口の固さと、乾いた感じを今でも思い出せます。

家のサンドイッチは、山登りやハイキング、小学校の運動会や土日のお昼に母が作るもので、パンの耳のある直角三角形です。ねもとさんのよりしっとりしているが、耳があるので食べ応えもありました。

このあとちょっとして、缶のツナを「シーチキン」と称して市販するようになり、ツナマヨのサンドイッチがこれに加わりました。

続きますね。

…………………………

※1  石鹸山  せっけんやま
近所にあった、少しずつ大きくなっていく、廃土を捨てていって出来た低い山。登山道のように山肌に15段ぐらいの刻みがつけてあったので、結構高さはありました。登ってはいけないことになっていましたが、平気で登って、土を掘っくり返しますと、黄色・グレー・青・白が混じった土でした。
これが後年、六価クロムの投棄場であったことが報道され、かなりびびりました。
我が故郷江戸川区のことも記事に出てきます。


※2  食パンスライス機   スライサーとも言う。
今はいろいろ、事故防止のパネルなどがついていますが、ねもとさんのはついていなくて、見ているとザワザワしてきました。
アメリカ映画「月の輝く夜に」で、ニコラスケージが事故で片手を失うのが、昔のスライサーだったように思います。ハムスライサーだったかな?



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