エッセイ161.アンデルセン童話について(2)鰻刺しの話
(1)でご紹介した「砂丘の物語」に、挿入的寓話として、「鰻刺しの話」というものがあります。いつものように、岩波文庫で揃えたものは実家に置きっぱなしですので、ぼんやりした記憶で書いてみます。
気の毒な孤児、イェルゲンが、あるとき大人の人からこんな話を聞きます。
語るのはもしかしたら、お話に出てくる「鰻刺し(うなぎを獲る人)」自身だったかもしれません。
あるところに鰻のお母さんと子供たちが住んでいました。
あるとき子供たちが泣きながら家に帰ってきて、
「お母さん、ちびちゃんが鰻刺しに獲られてしまったの」と訴えます。
お母さんは、「大丈夫、あの子は帰ってきます」
と返事します。
子供たちは、
「でもお母さん、鰻差しは銛であの子の体を刺して、水から上げてしまったのよ」
お母さんはそれでも、「心配しないの。あの子は帰ってくるから」
と言います。
「でもお母さん、鰻刺しはあの子の皮を剥いでしまったの」
ーーあの子は帰ってくるわ。心配をおしでない。
「お母さん、鰻差しはあの子の体を切って、火にかけて焼いてしまったのよ」
ーーあの子は帰ってきます。
「お母さん、鰻差しはあの子を食べてしまったのよ」
ーーいえいえ、あの子は帰ってきますよ。
「でもお母さん、鰻差しはそのあとで、ブランデーを飲んだの」
お母さんはわっと泣き出して言いました。
「ああ、どうしよう! ブランデーを飲んだのなら、もうだめだ!
もうあの子は死んだ!
あの子はもう、帰ってきやしない!」
--End--
どひ〜、これだけ?
これだけなんですね.
大筋は間違っていないと思いますが、あまりにも昔に読んだのと、何度も思い出してしまったので、記憶の宿命として、すごく変わってしまっていると思います。そこはご勘弁ください。
イェルゲンが、その話を聞いて、どう思ったかも書いてあったはずですが、全く覚えていません。
もしかして、イェルゲンの人間形成に関わった話かもしれないんですが。
子供の私に強く刺さったのは、
人間て、すごく現実否認するんだなぁ〜・・・
ということでした。だから印象に残ってしまって、忘れられないのでしょう。
(鰻の稚魚は、刺して獲ったり、焼いて食べるほど大きいはずはないとは、大人になって今では私も思っています)
問題は、誰がなんと、口々に訴えて理解させようとしても、
とことん、「信じたいように信じるということがある」ということでした。
普通に育った人であれば、私ほどには心に残る話ではないと思います。
私はこの鰻のお母さんのように、
目の前に歴然としてあるのに、ないことにしたり、人の勘違いのせいにしたり、
都合よく記憶を削除・差し替え・上書きする親に育てられました。
人に話すと、「逃げれば?」「家出れば?」「匿ってあげる」
と、よく言われてきました。
あと、「すごい! なかなか珍しいお父さんだ。本を書いたらどう?」
というアドバイスもあって、私は好きで書いている小説の中に、
いろんな人の行動にして書いていたりします。
ネタの宝庫、お父さんありがとう! です。
この人の配偶者、私の母も夫に感化され、二人揃って
白を黒、黒を白と、事実を捻じ曲げるのは朝飯前であります。
なんなら自分が言ったことを、娘が言ったことにするなどはしょっちゅうです。
そして恐ろしいことには、それは私にも受け継がれていたと見え、たとえば、
「どんなに嫌われようと、子供には正しいことを教えなければいけない」
っていうのが長年ありました。
それでいて、当然嫌われると、おろおろしちゃっていました。
(今はこれは止まりましたが、娘たちとの間に、
回復し難いダメージを与えた行動だったかなと思っています)
父もそうだったのでわかるのですが、私も、
子供が嫌がって抵抗するなどしても、
自分が正しいという思い込みが強いですから、
この娘は、正しいことを受け入れるのに困難を覚えているのでR! 🔥
と(自分に都合よく)意訳し、ますます押し付ける、などをやっていました。
ああはなりたくないと思って務めてきたけれど、なっていたかもなんです。
鰻刺しの話。
事実を認めない親。
その親も認めざるを得なかった「鰻のあとのブランデー」は、
現実には、なんのアレゴリーなのでしょうか。
現実否認は、それを認めたら生きていけないほどの脅威や恐怖から、
自分を認めるための、自己保存本能なのでしょうね。
子育ても終わり、過去を思い出すにあたり、
そこまで苦い思いが込み上げることは少なくなりましたが、
鰻のお母さんのことはこの先も折に触れて思い出し、
反省の材料にしていこうと思っています。
今日はプライベート沼にはまりこみ、お聞き苦しい話をしました。
続きでは、また自分にとって怖かったアンデルセン童話や、
テレビアニメの「アンデルセン物語」についても書いてみたいと思います。
こっちは明るくていいです!
楽しく思い出し書きをしていきたいと思います。
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