【マンガ紹介 #1】フールナイト【微ネタバレ】

暗雲が立ち込めあらゆる植物が枯れ行く世界にて、人々を植物にして酸素を捻出する「霊花」。2年で完全に植物になる世界にて選択が迫られる。


作品データ

巻数:7(連載中:2023/12/18)
作者:安田佳澄

あらすじと1話

文字通り突如として暗雲が日光を遮ってから100年。あらゆる植物が枯れ始めたが人間に植物を埋め込むことで微かな酸素を捻出する、冬と夜が長年継続してる世界。太陽を知らず、還り咲いた人々が壁に貼り付けになっている路地裏を歩く子供達も極力普通に暮らすが、現実は様々な植物と咲き方によって変態した元人間がそこら中にある歪な世界。仮に日本の歴史的宗教観を持ち込むならば穢れで満ち溢れている。路地裏を楽しく駆け抜ける子供達もいつしか「現実を受け入れる」タイミングが必要で怖がっては居られない。現に大人の誰もが当たり前のように受け入れている。さらに制度として推進させるため、霊花になるための転花者には1000万が支給され、完全に花になりきる2年が経つ前に自由気ままに1000万を使うことが許されている。
そんな路地裏を歩いていた二人も、当たり前のように違う人生を送る。方やより現実を受け入れていた子は公務員の転花医師、方や受け入れきれなかった子は限界の工場勤務。現代でもなじみ深い生活費に加えて「酸素代」がある中、二人の視点から生活苦が描かれ、賃金もまだまだ苦しい。忙しさに差は無いハズだが地盤の固さが違うためか方や冗談交じりの1000万だが、もう片方は確実に受け取れるために「死期を近く」させた。

惹かれた点(ネタバレ抜き)

絶望と希望が紙一重になっている点が美しく、それを「冬と夜が繰り返す」世界でまったく派手ではないのに肌にひりつく。むしろ派手ではないからこそ制度とお金と社会と構造が転花へと誘因してるような圧迫感。また唯一派手とも言えるのが霊花の方々のみ。灰色と白の世界のコンクリートジャングルを着実に侵食してるハズだが、それは同時に人々を生かす酸素。ただこの漫画はその社会構造だけでなく寄り深くサスペンスに切り込む。
あらすじの1話の後には様々な視点の社会ではなく、先ほどの路地裏の元子供達にストーリーの焦点が集まる。狭まってしまった選択肢と共に、より深い絶望、より儚い希望に。
通常サスペンス性が高まれば、事件等が発生する直前の倫理的思考が薄れるのは描写内の躍動感や切迫感があるからのハズだが、この漫画はとても不思議で何度も語り掛けてくる場面がある。俗に言う「司法取引」や「上の許可を待て」という場面がサスペンス物とかに適度に出てくるが、この漫画は何故それが必要になるのかが如実に判る。
そしてそこかしこに描写される霊花の咲き具合と人の混ざり具合と歪さと綺麗さから、この作品のユニークさを際立たせる。

若干ネタバレ有りの感想

日が差さなくなった世界で少年が渇望した願いは「心を豊かにする!」抽象的だが同時に本能に訴えかけるが、そんな願いが自分中心であることは否めない。だからこそ話数が進むごとに彼の心が別の方向に向かう程成長を感じさせるが、如何せん彼の原動力の高さと彼の状態が浮き彫りになる。言わば絞首台への階段を上るような、確実に花に近づく身体が、幾度と語り掛けてくる「本当に豊かになっているのか」。
全身全霊で事件を対応してるだけのハズだが、主人公たちが自分なりの回答を用意してあげたい気持ちに比例するように、状況は引き締まりより大きな感情の渦が場面を取り巻く。
それはこの世界が如何に狂おしい構成で成り立っているのかを引き立たせ、彼が今から呼び起こそうとする禍根が如何に混沌としているか。少年の結末よりも、この狂った世界の終止符がどうあるべきかの方が目が離せない。

最後に

これ初めて読んだ日は、生憎と深夜12時に1巻を読んで何事も無く7巻までを深夜中ずっと読んだ。正直こういう睡眠サイクルは大学生時代で卒業したハズだが、こういう作品に出会う度にまた何かを作りたくなる。ということで今回初めて本気で漫画紹介を行った。文章メインだけになってしまったが、この作品からでしか得られない栄養素が、どんな形をしてるのかは伝えられた気がする。
そしてここまで読んで頂きありがとうございました。

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