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戸籍の性別変更、いつの間にかセルフID国になっていた日本

先日私は一切の手術なしで戸籍上の性別を女性から男性に変更できたという女性の話を聞いて非常なショックを受けた。

一切手術なしで戸籍上の性別を変更できた生得的女性


出生時の性と自認する性が異なるトランスジェンダー男性として生活する岩手県一関市の会社員、大滝洸さん(27)が申し立てた戸籍上の性別変更の審判で、盛岡家裁は22日、性別変更を認める決定を出した。
 最高裁が昨年10月、戸籍上の性別変更をするのに生殖能力を失わせる手術を必要とする性同一性障害特例法の規定を「違憲」と判断。それを受けて、大滝さんは昨年11月、申し立てをした。
 大滝さんは埼玉県出身。高校生の頃に性別違和を明確に感じて、在学中に男性ホルモンを投与する治療を始めた。性別変更の申し立てを始めてからは「同じような悩みをもつ人の力になれれば」と、SNSで必要な手続きなどを積極的に発信している。

朝日新聞

もともと特例法とは様々な措置を施して異性に見える人が日常生活で支障をきたさないための特別な法律というのが建前だった。だからこそ特例法を当てはめるにはそれなりの条件があったのである。

性同一性障害特例法の5要件

  1. 18歳以上

  2. 婚姻していない

  3. 未成年の子供がいない

  4. 生殖腺がないか、生殖機能を永続的に欠く状態

  5. 変更後の性別の性器に近い外観を備える

この中でも一番大切な項目は「未成年の子供がいない」というものだ。何故ならこの特例法は両親が二人とも同性になったり、成長中に片親が異性になったりして子供の成長に支障をきたしてはならないという考えから設けられたものだからである。

ところが生殖器の欠如がなくても性別を変えられるということになったら、その後の子供を作ることは可能になるわけで、現に欧米では戸籍を男性としている女性が出産する例がいくらもある。だから4番を無効とすることは3番も無効とすることになってしまい、特例法の5要件のうち二つが意味のないものとなってしまったのだ。

昨年の最高裁の判決が出た時に、これでは男性器のある男性が戸籍上女性になることが可能になるという批判の声に、5番の項目はまだ判決が出ていないのでそんなことにはならないとトランスジェンダー活動家達は言っていたが、今回、大滝洸氏のように一切の整形をせずに戸籍変更が認められたということは、5番も無効となったということだ。つまるところ特例法は司法により完全に骨抜きにされてしまったのだ。

私はいずれこういうことが起きるだろうと予測していた。だから戸籍上の性別を変更できるという法律そのものを撤廃すべきだと言って来たのだ。しかし特例法擁護派は特例法こそがセルフIDを防ぐ最後の砦なのだと言っていた。だが現実は何の砦にもなっていなかった。

身体を全く変えていない個人の戸籍変更が可能となった今、今後身体の性別で区別されている多種多様の施設や仕事やスポーツなど、一体どうやって折り合いをつけていくのか、女子施設使用の規則はどうするのか、これは非常に重大な問題だ。

さて、ではここで大滝洸さんの例をとって性別変更特例法が事実上セルフIDと化している件について掘り下げて考えてみたい。

強調しておくが、大滝さんはあくまで法律にのっとって性別変更を申請し受理されているので、これは彼女自身への個人攻撃ではないのであしからず。

性別変更特例法は事実上のセルフIDに変わっていた


大滝洸氏は10月に最高裁が、戸籍変更のために生殖器喪失の条件は違憲であるという判決の直後に性別変更を申し出て受理された生得的女性である。私は当初この人が裁判の原告なのだと思っていたが、そうではなく、彼女は単に手術なしの戸籍変更が合法となったためそれを利用して戸籍変更をした人ということのようだ。ただ一切の整形手術をしていない女性としては最初だったのでメディアでも大々的に取り上げられたようだ。

私は大滝さんと他の人とのやり取りを見ていて、この人には身体違和すらないらしいということがわかった。何しろ乳房除去の手術すらしていないしする気もないというのだ。しかも戸籍変更を思い立った一番の動機というのが「男として結婚する権利が欲しい」ということだったというのだから呆れる。これではまるで性別変更は同性婚の裏口作戦ではないか。

彼女自身がどう思っているかに関わらず、大滝さんは一目見て男性と間違えるような風貌ではない(上記の添付記事内の写真参照のこと)。身長も156センチと小柄だし見た目かなり華奢である。だから彼女が書類上女性であることで不都合が生じるとは思えない。だが彼女は戸籍が女性であることで生じる弊害について下記のように述べている。

その① : 誤って事務処理される
戸籍上の性別通りに契約書類に自署、申告しているにも関わらず、携帯電話の契約やクレジットカード等の顧客情報の登録、勤め先での健康診断の予約等において、誤った性別で登録事務処理され、後日不備として電話がかかってきたり、窓口で混乱を招くことがある。

その② : 賃貸を借りるのに困難がある
個人オーナーとの賃貸借契約において、戸籍上の性別と外見が異なるために、後で仲介会社に「先ほど内見した人は誰だったのか。」と連絡があり、収入等 信用に全く問題ないにも関わらず 一悶着あったことがある。

その③ : 仕事で不都合がある
仕事上 本人確認を必須とする取引(不動産取引)において、大手業者を相手にする場合に、取引担当者として 運転免許証の他に 念のため の措置として健康保険証の提示を求められることがあり、性別欄を見た取引業者が顔をしかめる。

その④ : 場面に応じて嘘をつかなければいけない
接待等でゴルフ等に やむを得ず行く場合に、戸籍上の性別によって渡される更衣室の鍵やシャワールームの案内が異なることから、更衣室•シャワールームを利用しないことを前提として、混乱を招かないように 便宜上「男」と窓口で申告する等 嘘をつかなければならないこと。

その⑤ : 人として与えられた権利を行使するのも一苦労
戸籍上の性別の問題かは分からないが、選挙の投票時の本人確認において、明らかに 他の人より時間がかかる

その⑥ : 落とし物あるある
性別が記載された書類を落とし、落とし物(健康保険証)の確認の電話を駅や交番にした際に、戸籍上の性別表記と声色が一致しないために、本人ではないもの疑われる。

その⑦ : 人と同じ幸せを享受できない
女性と結婚する場合、戸籍上の性別を理由に同性婚に該当し婚姻することができない。

(Hikaru) (note.com)

私はこのどれも不思議である。大滝さんはホルモン治療をしているとのことなので、声は男性のように低いのかもしれないが、自分が男性に見えるという自覚があるのなら、契約の際に「私は女性なのでお間違いのないように」と念を押したらいいだけの話ではないのか?単に外見が男っぽいというのであれば、宝塚の男役の人たちでもK-Popの男性みたいな人はいくらでもおり、顔写真付きの身分証明書をみせて、私は女性ですと強調したらいいだけだ。

またゴルフ場などの更衣室でも身分証明書が女性とあっても、身体は女性なのだから別に女性更衣室に入ることは全く問題ないはず。いくら顔つきが男性っぽくても乳房のある立派な女性なのだから周りから苦情が出るなんてこともないだろう。

女性と結婚できないのは、日本では同性婚が認められていないのだから、それはすべてのレズビアン女性にあてはまることであり、彼女が性同一性障害者であるかどうかとは無関係だ。

で、肝心の性同一性障害の診断なのだが、大滝さんは何人もの医師から診断書発行を拒否されたという。強調はカカシ。

今どき こんな対応を医療機関からされる方は あまりいないと思いますが念のため。私のように SRSの他 胸オペもしていない当事者の場合、医療機関から 書類作成を拒まれる場合があります。私の場合、窓口に作成を拒否され なんとか説得して 面談予約を取り付けても 勝手に予約取り消しを受けるなど、散々な目に遭いました。何度も説得して 院長と対面、私の生活歴等 をお話ししてようやく「私は裁判官ではないが、あなたなら できるかもしれない」と診断書を書く気になってくれました。

大滝洸

プロのジェンダー医療関係者ですら、彼女を性同一性障害患者だと認めたがらない。しかも彼女は医者を説得して診断書を書いてもらったという。こんなバカな話があるだろうか?たとえば私が労災欲しさに、どこも悪くないのに私は腱鞘炎があると診断書を書いてくれなどと医者に要請して医者がそんなものを書いたとしたらそれは完全な違法行為だ。診断書は患者が医師を説得して書いてもらうものではない。

ところで彼女が挙げた不都合のリストに彼女がトランスジェンダーであることで差別を受けたというものが全くないのが興味深い。彼女は年収600万円の営業ウーマンである。これは戸籍変更する前からそうなのだ。つまり、彼女は女性だからということでキャリアを築くことに何の支障もきたしていない。就職の際には戸籍謄本も提出しているはずなので、周りも彼女が女性だということは知っているはず。にもかかわらず常に男装をしている彼女を職場で差別するひともなく、また取引先の人も、男性だと思っていた大滝さんが女性だとわかったからといって「性別欄を見た取引業者が顔をしかめ」た程度で取引がおじゃんになったというわけでもない。つまり大滝さんが戸籍上女性のまま生きたからといってさほどの弊害があるというわけではないのだ。

大滝さんは単に法律に従って性別変更を申し出て受理されただけなので、彼女自身に特例法が骨抜きにされてしまったことの責任を負わせることはできない。しかし彼女の例でも解るように、性同一性障害でもなく身体違和もなく外科手術もしていない(する気もない)人が、数人の医師を「説得」しただけで戸籍上の性別変更が受け入れられてしまうのが今の日本の現状なのである。

日本は我々が知らないうちにセルフIDの国となっていたのである。

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