『1LDK、エプロン、ウィークエンド。』 2DK、Gペン、目覚まし時計。/大沢やよい 二次創作
麺処まるわでコラボ中の漫画作品「2DK、Gペン、目覚まし時計。/大沢やよい」の二次創作小説です。
コラボラーメンは毎回こんなストーリーを組み立ててからメニュー化してます。
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「ーーはぁ」
土曜の昼ちょっと前、何度目かの寝返りの後にため息が溢れ出た。
いつもならば、キッチンまで起き上がタバコを1本吸っている頃だろう。
けれど吐き出したのは煙ではなく溜息だ。
別に禁煙しているわけではない。ただ何となく吸いづらくなってしまっただけ。
自分が人から言われたことにここまで影響されるなんてな。
自分の変化をちょっと笑ってしまったーー。
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「岡田さん、ちゃんとスリープは取れている?お肌と心のリフレッシュは出来ているかしら??ネガティブなアクションは身体にフィードバックされる前にディスアグリーしなくてはダメよ???」
相変わらずのハケン生活。感染症対策で在宅勤務が続く中、web会議後に派遣の先輩からこんな怪文章のようなメッセが届いたのだ。
ーー自覚はある。
月に一度しか出社もしなければ、外に遊びに出るのも躊躇われる時期なのだ。生活習慣にメリハリもなく、食事もコンビニに頼りきっている。
先輩が気にしていてくれたことがちょっぴり嬉しかったりする。
けれど、いつでも前向きなあの人とはの逆のマインドになっている自分が少しだけ嫌になる。
今日も栄養補給しつつ動画サイトを眺めるだけの休日が始まるのだと思うと、なかなかベッドから動き出せない。何度目かのため息を吐き出すーー。
すると滅多になることのないインターフォンが鳴り響いた。
「岡田さん今日はご予定あるかしら?色々な食材をマルシェで眺めながらポタリングしていたのだけれど、急にあなたのお家が近い事を思い出したの!よかったらランチをトゥギャザーいたしません?」
モニター越しに先輩の顔を見て、その声を聞いたらバッチリ目が覚めてしまった。
今日は騒がしくも楽しい休日になりそうだーー。
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「谷原さんは休日の朝から元気っすね」
嫌味でもなんでもなく素直にそう思えてしまった。この人は寝てる姿までキラキラしてるんじゃなかろうか。本人は誉められたと思ってくれたらしくご満悦。
「ランチってどこかこの辺でお洒落なお店とかありましたっけ?あんまり開拓してないので私はわからないですよ?」
そんな事を言いながら先輩をダイニングのソファーに押し込める。今日はお気に入りの紅茶を淹れよう。
「日差しの差し込むブルックリンスタイルのテラスでチルアウトする休日も良いけれど、ランチをトゥギャザーするって言ったでしょう?」
相変わらずのカタカナ混じりで脳内翻訳が必要だな。どっかで「ルー子さん」とか呼ばれてたりしてーー。
「ランチは2人でレッツクッキングよ!」
いつのまにか身につけたエプロン姿の先輩は、右手を高々に掲げそう宣言した。
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「いまウチの冷蔵庫の中は......3食ラーメンの残りとポテサラ、ヨーグルトくらいしかないですね。あと調味料はそれなりに揃ってはいます。最近はコンビニで済ませちゃうのであんまりつかってないんですよ」
ちょっと恥ずかしいけれどもう開き直ろう。肌荒れやら髪質の変化をPCカメラ越しに見破られたのだ。この人の前では素直でいたいーー。
「まかせなさい!マルシェで見繕った食材に加えて自家製のピクルスやマリネを持参してあるわ。もちろんオーガニックなベジに添加物を使わないレシピよ!」
隙のないキラッキラ笑顔で返されてしまった。
冷蔵庫チェックが終わり、いそいそと何やらカバンから取り出す先輩。
うわ、食材だけじゃなくハンドブレンダーまで持参してるよ。エプロン姿に鼻歌まで全てがお洒落な空気に包まれている。
駅徒歩15分、築30年のちょい古マンションの一室が新婚家庭に新築に見えてくる。ここは本当に私の借りてる部屋なのかと疑ってしまう。
そういえば就職してこの部屋に引っ越してきてから母親以外が来るの初めてだなーー。
「うん、ランチのレシピが降りてきたわ!テーブルメイクは岡田さんのアサインするわね。ブルックリンテイストにできるかしら?今日は素敵なホリデーをコミットするわよ!」
相変わらず何を言っているのかはわからないけど、この人といるとつられて笑顔になってしまう。
いよいよクッキング開始してランチをトゥギャザーしちゃうらしい。
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「ーーお待たせしたわ。今日のランチは "トマトヨーグルトと彩り野菜マリネの和えそばとポテトポタージュのディップスープ" よ!」
そこにはキラキラなカフェメシが並んでいた。東海岸には行ったことがないけれど、きっとこれがそうなのだろう。我が家のダイニングとは思えない空間がそこにはあった。
何より誰かと食事するなんて久しぶりなのだ。自然と楽しい気持ちになってしまう。
「ーーさぁ、早速いただきましょう!」
甘酸っぱいピンク色のソースはトマトとヨーグルトで作ってるらしい。谷原さん自家製のベジなんちゃらも優しい味。
麺をポタージュにつけても味わいが変わって美味しい。冷蔵庫にあった残り物がこの人にかかると魔法みたいに変わってしまう。
まるでオフィスで一緒に仕事している時を思い出してきたーー。
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「今更なんですけど、今日はどうしてウチに?」
呆気に取られて1番の疑問を忘れていた。
「メッセにも書いたけれど、先日のウェブMTGの時にちょっとね。」
やっぱりあの日の事か。確かに在宅勤務になってから仕事とプライベートの切り替えのしにくさ、いつまでも続く変わってしまった日常、気怠い停滞感に包まれていた……。
「ーーでもね、それも逆にモチベよ!これは成長へのオポチュニティよ!今はコンフィデンスがなくても、いずれふさわしい自分……"なりたい自分"にステップアップしていくの!人はそうやって成長していく。そうあるべきものなのよ!!」
呆気に取られてしまった。
「と、私は4年前から思っているのだけれどーーあなたにそれを伝えたくて。まだこんな日々が続いてしまうのかもしれないけれど、私は岡田さんのエルダーなんですもの、どんなピンチもシェアしてチャンスにソリューションしていくわ!」
いつでも真っ直ぐな眼差しで高みを目指している先輩。ちょっぴりやさぐれて突っかかってしまった時も受け止めてくれた先輩。在宅勤務で会う機会も無くなってしまって少しだけ寂しかった自分に気づかせられた先輩。
やっぱり谷原さんはどんな時でも変わらないんだなーー。
「じゃあ早速なんですけど、色々と解除されてきましたし今度はカフェに連れて行ってくれませんか?美味しいケーキのあるところ。」
気が緩んでいたのか甘えてしまった。少し恥ずかしくなってきた。
「岡田さんはスモーカーですものね。スモーキングエリアがあるお店が良いかしら?」
肌荒れも気になるし禁煙をしているのだと言いながらカレンダーに目をやる。
今日は12月18日。
「では私のフェイバリットにご招待するわね!ネクストサタデイでいかがかしら?」
いつもよりも上機嫌で提案する先輩。来週の土曜日がなんの日かわかって言っているのだろうか?
なんにせよ大好きな先輩と過ごせるのならそれだけでスペシャルなウィークエンドに変わらない。
「楽しみしています!」
ーー今日一番の笑顔で先輩の言葉にそう答えた。
ー終ー
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