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『魔法使いの夜』が今すぐプレイできるにも関わらずプレイしていない貴方へ

読者のターゲットはタイトルに書いている通りのそこのあなたです。今すぐ『魔法使いの夜』をプレイしてください。

はじめに

多くの人に一年のうちのある時期にやりたくなること、見たくなるもの、聞きたくなるものがあるのではないだろうか。私にとってのそれは、年の瀬の足音が聞こえるこの12月にふとプレイしたくなるゲーム、『魔法使いの夜』である。TYPE-MOONより2012年に発売されたこのゲームは去年、SwichとPS5でプレイできる、CVが実装されたリマスター版が発売され、先日リマスター版がSteamでも発売された(現在でもオリジナルはamazonとかで定価で買えたと思う)。これにより全ゲーマーが『魔法使いの夜』をプレイできる環境が整ったことになる。これを機に是非ともこのゲームをプレイしてほしい、その思いからこの記事を書いている。

ストーリーについて

ストーリーのベースは伝奇物+ボーイ・ミーツ・ガール。振り返ることなくことなく進み続ける少女、蒼崎青子、誰よりも魔女らしく隠れ生きる魔術師、久遠寺有珠、「文明」を知らない一般人、静希草十郎。この3人がなんやかんやの末に坂の上の久遠自邸で共同生活を送ることになり、なんやかんやの中でそれぞれの生き方を問われるという物語。TYPE-MOONの他作品に触れたことがある人ならストーリーの面白さを疑う必要はない。あの奈須きのこの文章なのだから。正直ストーリーの面白さ、特異さを詳述することは私には難しい。だって『Fate/Stay Night』も『月姫 -A piece of blue glass moon-』も『空の境界』も全てキャラクターやストーリーは同じくらい魅力的だったのだから。
このゲームの最大の魅力はストーリーそのものではなく、それを体験するゲームという環境である。

ビジュアルノベルが生み出す贅沢な空気感

このゲームの最大の魅力とは何か?私は「完成されたビジュアルノベルであること」と答える。
通常、ビジュアルノベルはテキストをユーザーがクリックして進めることでテキストが表示されていき、ストーリーを読み進めていくことができる。
つまり

テキストを読む→クリック→テキストを読む→クリック

これを延々と繰り返すわけである。基本的にこのときテキスト以外で画面を占めるのは、その場面の背景と登場しており発言しているキャラクターの立ち絵だ。そして画面の動きとしてはクリックごとのテキストの進行に合わせて立ち絵の差分が変わる程度である。アドベンチャーゲームをプレイしているとこのような時間が凄く退屈に感じる瞬間が必ず訪れる。面白かったと思うゲームでも、どうしてもストーリーの緩急の「緩」のときが苦痛に感じる瞬間が存在する。

参考例として適当に拾ってきたstay nightのプレイ画面



しかし『魔法使いの夜』はどうだろう。

https://www.gamer.ne.jp/news/202211030003/より

庭の草いじりをする草十郎をサンルームの窓から見つめる青子を有珠という場面であるが、驚くべきことにこの画面は背景と立ち絵の差分の組み合わせで作られている。そしてこのレベルの作り方の画面がずっと続く。一枚絵じゃねえのと言いたくなるような画面がポンポン現れる。

この動画は私がまほよで最も印象に残っているシーンの一つである。

食事をしながらキャラクターが会話しているという「緩」の日常シーンである。それにも関わらず、この作りこみ様。
テキストではおでんという冬の風物詩を味わいながら会話によりストーリーを進行させる2人が描写される。しかし画面では自分の求めるおでんの種をめぐる青子と有珠の熾烈な攻防が繰り広げられる。フォークをはじかれて不満げな有珠かわいい。なんでこんな画面つくってんの?とも思うが、これらの様々な試みがプレイヤーの目を飽きさせず画面に惹きつけるのである。いやあリッチだ。

このほかにキャラクター同士が会話するという場面でもキャラクターのアップのカットインカメラワークの変化などが絶え間なく挟まる。だからクリックすることに飽きを感じない。テキストとともに次は彼らはどのような表情を見せるのだろう、場面になっているのだろう、と気になって仕方がなくなる。とにかく手の込みようが細かく、そして贅沢なのである。

ここに深澤秀行さんの劇伴が花を添える。近代西洋風がモチーフの久遠自邸が舞台の日常シーンではクラシックのアレンジが、高校や町ではゆったりとした時間の流れを感じる音楽が使われる。「急」の緊迫した場面ではアップテンポで荘厳な音楽がプレイヤーの体を弾ませる。

贅沢な演出、スクリプトに劇伴。そしてそれは『魔法使いの夜』のテキストのために。つまりこのゲームは、奈須きのこの文章を、物語を最高の環境で体験することができるゲームだと私は思っている。これほどまでにストーリーを贅沢に味わえるゲーム体験はそうないのではないだろうか。

2021年に月姫のリメイクとなる『月姫 -A piece of blue glass moon-』がTYPE-MOONから発売された。ファンとして発売を、プレイできることを数年望み続けた作品であり、大変興奮しながらプレイした。それでも『魔法使いの夜』の体験を超えたかと問われるとである。それほどまでには完成されたビジュアルノベルだと思っている。

さいごに

『魔法使いの夜』は私がプレイしてきたゲームの中で、人に勧めるとしたらベストの作品の一つである。物語を経験するという観点でこのゲームに勝るものはそうないと思っている。だからこれを機にプレイしてください。そして感想を聞かせてください。久遠寺有珠のかわいさ、特に花澤香菜の演技のハマりようや、ストーリーでの草十郎の笑っちゃうような選択の数々に。紡がれる魔法に。エピソードではホワイトボード事件が私のお気に入りでございます。
こんなことを語ることのできる人が増えてくれますよう。
この冬に『魔法使いの夜』はいかがでしょうか。



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