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処方|2023-11-07

今回は、うでパスタが書く。

前もってお伝えしておくと、私は歴史を知らない。まったくの、門外漢あるいは歴史に門外漢である時点で暗愚であるといっても差し支えがないだろう。私大・文系という落伍者の烙印を捺された、あるいは良くて無能のユニフォームを着た私が選択した社会科目は「倫理・政経」であり、のちの「現代社会」である。
だが歴史にあかるくない人間が学ぶ現代とはいったい何だろう。一分、一秒たりとも歴史に属することのない「現代」の、深度をもたない表層に私は何を学んだのだろうか。もちろんのこと、答えは「何もない」だ。

みなさんは今年、何冊のウエルベックを読まれただろうか。私はかなり読んだ。この、ひたすらに現代批評たらんとする小説による表現者の作品を、相当数読んだのだ。いま読書メモを見返すと、「セロトニン」「闘争領域の拡大」「服従」「ある島の可能性」「滅ぼす」を読んだということになっているが、実際には「プラットフォーム」「素粒子」が抜けていると思う。あるいは途中で読むのをやめているのかもしれないが、たぶん大きな問題はないだろう。「問題ない」というのは、要するにこのへんはみんなおなじことを言っているから、世界かウエルベックか、またはその両方に大きな変化はないことを前提に発表された作品だからだ。

今年もいよいよ年末に近付いてきたのでお薦めしておくと、ウエルベックの作品においてクリスマスから年末年始は重要だ。それは基本的に、誰からも見向きされず孤独を生きる男性にとってこの時期が一年でもっともつらい時間帯だからと、解説されている。「闘争領域の拡大」や「セロトニン」で、そのことはいちばんはっきり分かる。外面・内面にかかわらず一定以上自分のことを醜いと考えている方には、これからの時期この二冊が特にお薦めだ。

さて、欧米とも表現される西洋文明が窮地に立たされている。
ひとによっては西洋文明はもう何百年ものあいだ窮地にあるのだというだろうが、それは言っても仕方のないことだ。一〇〇年生きることのなかなか難しい私たちは、たとえ子孫を残してもせいぜい三代ぐらい先までしか見通すことができないし、家系を維持することができない。天災はともかく戦乱や腐敗の進行による国家の衰退、いわゆる天下の乱れはだいたいこのあたりのスパンでサイクルを生じていて、それはすなわち私たち人類の、生物学的な限界に由来するのだ。だから(これは歴史にあかるくない人間が「だから」と言っているのだという注意喚起をここで私は繰り返さなければならない)、ここではもう少し微視的にものを見ることを正当化したいと思うのだ。

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