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退潮|2023-12-24

今回は、うでパスタが書く。

日本の政界がもう五千億回目ぐらいに「政治と金」の問題で揺れている。
私同様に多感な時代を「政治改革」のうねりの中で過ごした世代にとり、この「政治と金」は特別な響きを持っている。
そこには熟れきったバブル景気の終焉を告げるように押し寄せた金満政治への国民の怒りと、そして現在では落ちるところまで落ちたといえるレガシーメディアによる、まさに「第四の権力」の面目躍如といった猛烈な追及があった。結果として立法もなされたし、何よりも「55体制」は崩れ去り社会党の消滅とともに永遠に過去のものとなってなお自民党は単独政権を回復できていないなか、田中角栄が日本全国を掘り起こして金をばらまいた金権政治は一応、地方にいたるまでずいぶんとマシになった印象だ。「いや全然ダメでしょう」と仰る向きも若い皆さんのあいだにはあるだろうが、これはもっともっと、いまでは信じられないぐらいあからさまだった時代の話であって、他の「先進民主主義国」に比べても、もうここまでくれば充分でしょうという気がする。
結局自分の懐に入る金の計算ばかりしているのは政治家ではなく有権者の方なのだから、合法・非合法にかかわらず政治にカネをブチ込んでくる企業があるのはこれは残念ながらいつの世も当然のことなのだ。ここへ法的・倫理的なコストをどれぐらい載せるかというのが勝負だったわけだから、あとはその、残念ながら遙かに手遅れとなった過去の始末が巨額の政府債務と低成長という鬼のようにやばい組み合わせで課題となって残るばかりである。

田中角栄が確立したとされるカネの力にモノを言わせる政治スタイルは、そのシマを奪った竹下登の経世会へ引きつがれたが、経世会の番頭だった小沢一郎は小渕恵三との総裁レースに敗れたことにキレて自分から自民党を割って出てしまってその後を時代の徒花として過ごすことになる。小沢は経世会の手口をもっともよく知る男ととして、まさに経世会的な手法でもって経世会支配の自民党を壊し、民主党に合流することで悲願の二大政党制を打ち立てようとするが、おなじ「経世会支配の打破」を最大の政治目標とし、「自民党をぶっ壊す」と叫びながら総理総裁の座を奪取した小泉純一郎にお株を奪われてしまうのである。

しかしいずれにしても、結局は党内の権力闘争に過ぎなかった「小泉改革」により徹底的に痛めつけられた経世会は、振り返れば小渕恵三の急逝によって何だかよく分からないまま森喜朗に総裁の座を譲って以来、安倍晋三の長期政権に至るまで気付けば二〇年以上にわたり総理総裁を出せないでいる。

実は自民党の派閥勢力を整理すると、いわゆるキャスティングボートを握っているのは第二派閥の麻生派なのだが、その麻生は森喜朗→小泉純一郎→安倍晋三(第一期)→福田康夫→麻生太郎と、短期政権に終わったとはいうものの清和会支配の流れのなかでみずからも総理大臣を務めており、また故・安倍晋三と麻生太郎の特殊関係も、宏池会出身の岸田内閣において清和会が党内・政権内ににらみを利かせる上では非常に大きな意味を持っていた。

しかし考えてもみれば第三派閥にもかかわらず辛くも岸田を首相の座につけた宏池会は、「加藤さんは大将なんだから!ひとりで突撃なんてダメですよ!」の恥ずかしすぎる猿芝居で我々の記憶にいまもあたらしい「加藤の乱」で清和会の領袖であった森喜朗の内閣に弓を引き、一生冷や飯を食わされてきた、その残党である。上のセリフを詠んだ谷垣禎一もまた総裁を務めたとはいうものの、それは選挙で大敗を喫した麻生内閣が退陣して自民党が二度目の下野をしたあいだのことであり、その後華々しく総裁に返り咲き野田佳彦との論戦で解散の言質を引き出して政権復帰を果たす安倍晋三のために場を繋がされただけだと思えば宏池会所属議員の清和会・麻生派への恨みはいまだ浅からぬものがあるだろう。ちなみに岸田総理が就任前に上梓した「岸田ビジョン」では、この加藤の乱の際に赤坂プリンスの一部屋へ集まった宏池会の若手四人が腹をくくって乾杯した秘話が明かされており、なかなかいい空気を出している。いつも通り、いま手もとに本がないので間違っていたらすみません。

そのようななかで清和会系議員に降って湧いた「政治と金」スキャンダルだ。岸田文雄はそもそもその青臭いビジョンからしても政策実現というよりは金権政治に象徴される経世会型、言を弄して表裏を使い分け結局は株価と地価の高騰を政権への支持に結びつけてきた安倍型の政治への決別を政治的使命に決めていると私は当初から見てきた。そういう意味で、岸田は充分に「真面目」な政治家なのだ。

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