恩恵

高校生のとき、お昼ご飯は母親が持たせてくれたお弁当だった。

あまり凝ったものではなかったが、毎日はらぺこの高校生にとってそんなこと問題にならなかった。

ある日のこと。自分が持参していたお弁当箱は米が入っている保温機能付きフードジャー+おかずが入っている小さいタッパー二つみたいな構造だった。小さいタッパーを開けると、そこにシワシワのフライドチキンが目一杯詰められていた。タッパーなので衣は湿気でふやふやになっているし、それが目一杯入っているので一部の衣はタッパーの蓋に張り付いてしまっている。見た目もさることながら味も酷い。いくら腹ペコでも食べられるような代物ではなかった。

フライドチキンをほぼまるまる残し、帰宅してから親に直談判した。さすがにこれは食えない。昼食は現金支給の形に変更してくれ、と。そしたらすんなりそれが通って、高校2年の半ばで弁当を持っていく生活は終わりを告げた。

自分には兄がいる。3つ歳が離れているので、兄が高校を卒業するタイミングで自分が高校に入学した。そして兄も高校にお弁当を持参していた。つまり、母親は丸4年以上お弁当を作り続けていたこととなる。それだけ作り続けていれば1日ぐらいタッパーにフライドチキン詰め込みたくなる気持ちもわかる。自分が母親の立場だったら内容に文句言ってきた息子に対して、じゃあお前やってみろと逆上してしまうかもしれない。

社会人となった今、毎日自分で作ったお弁当を会社に持参する生活を続けている。内容は毎日同じ。米になめたけと鯖缶突っ込んで混ぜて完成。味と手軽さにステータス全振りした結果ビジュアルが底辺になった。ほかほかの状態で持っていくと鯖の生臭い匂いが広がってしまうので冷蔵庫で冷やしてから弁当に詰める。こんな見た目の弁当を人に見られるのが恥ずかしいのでデスクで一人こそこそ食べる。コロナ禍で個食が奨励されるようになってだいぶやりやすくなった。

こんな弁当作って食べているような人間がよくもまぁ文句を言えたもんだ。今更ながら本当に申し訳ない。将来自分が父親になって息子が弁当に文句を言っていたら全力で張り倒す所存である。

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