天才

たまには、ちやほやされたい。会社に行けば下っ端としてこき使われ、休日は家に引きこもるかバイクでフラフラするか。以前は服屋とか食べ物屋さんにちょこちょこ行ってそこそこ歓待されるという経験ができていたのだが、最近はめっきりである。

そんな世知辛い状況の中、美容院に行くことが数少ない貴重なちやほやチャンスとなっている。お金を払っているから当然なのだが、髪型の希望を聞いてくれて、その希望に沿った施術を提案してくれて、髪を洗ってくれて、髪を切ってくれる。普段は自分で洗っている髪を他人が洗ってくれる感覚はなんとも心地よい。すごくちやほやされている感覚になる。

最近は毎回違う美容室に行くようにしている。新規で予約をとると安くなる場合が多いし、よりちやほやしてもらえるような気がするからだ。せこい上に浅ましい。

この週末、美容院に行ってきた。約2ヶ月ぶりだ。初めの頃はおしゃれな美容室に初めて入るのに緊張したが、もう慣れた。少し受付の近くにある椅子で待ち、カット席に案内される。担当するであろう美容師さんを見てなんだか嫌な感じがした。

美容師さんはおしゃれでかっこいいと相場が決まっている。顔とかスタイルがそうでもなくても、髪型とか服装とかでカバーしてくるものだ。だけどその担当の美容師さんは、お世辞にもかっこいいとはいえなかった。マスクをしていたのでよくわからないが、地味な男子校生のような顔と髪型。服装はチノパンに白いニット、そしてニューバランスのスニーカー。175cmぐらいで、だいたいBMI26ぐらいのちょい太り気味体型。年齢は30代前半ぐらいのように見受けられるのだが、おそらく若い頃はもっと痩せていたのだろう。そんな、なんか嫌な太り方というか、不健康な太り方のように感じた。

希望の髪型を訊かれたので、大丈夫か?と思いつつ答える。聞いているのか聞いていないのか、会話しながら何かの作業をしている。ポンチョ的なやつを着させてもらい、マスクを外す。外したマスクをジーンズのポケットに入れようと身体をよじる。ちょっとタイトなジーンズを履いていたのでポケットに入れるのに手こずる。既に耳元ではバリカンの音が聞こえている。ややあってポケットに収まったので正面を向こうかというときに既にバリカンは自分の髪を刈っていた。いや、頭まだ動いてるのよ?どれだけ早く済ませたいんだ。ちょっとズレて失敗したらどうするつもりだろう。

やっぱりこの人ハズレだ、と確信したがもうどうしようもないのでされるがまま施術を受ける。他の美容室を比べると全体的にかける時間が短い。カットも、パーマも、シャンプーも。世間話などせずに黙々と作業に徹する感じ。効率的ではあるが、ちやほやとは程遠い。確かに効率も大事だけど、自分が求めているのはそれだけじゃない。ちやほやしてほしい。自分のために時間を使って欲しい。もっと大事に扱われたい。たまにはわがまま言ったっていいじゃない。


ただ、仕上がりは今まで行ったどの美容室よりも自分のイメージ通りだった。なんでだ。


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