帝国よもやまばなし

「検体666番。八十七式身体強化術を開始」

助手が淡々とオペの開始を宣言する。
今回の検体は極東から流れ着いた孤児か。
大獄院サキ、彼女のPSY適正は過去最高の数値を弾き出している。いい手術が出来そうだ。

「よろしい。始めようか」

Psychic能力について分かっていることは余りにも少ない。外部から脳を刺激することによりそれを高めることは出来る。その刺激への耐性を便宜的にPSY適正と呼んでいるに過ぎない。

—我らが帝国の現状は厳しいと言わざるを得ない。それ故に上層部は外科的な身体強化による新たな兵士の創造を夢見た。こうして繰り返される人体実験の中で見つかったのがPSY能力だ。
強力なPSY適正の持ち主を適正に“処置”すれば、強力なエネルギーを生み出すことができる。“それ”を体内に仕込んだ増幅器に通せば、敵兵士を砕き、飛び交う弾丸を弾くことすら出来るのだ。感情の高まりがトリガーになるのが難点だが、それは教育でどうにでもなるだろう。

しかし、一人の兵士がそんな力を持ったところで、かの隣国に何が出来るというのだろう?一人仕上げるのに数年かかるのこの術式は、耄碌した老人等の“イコン”への憧憬、あるいは窮状の打開策が確かにあるという現状認識の甘さ。。。

帝国は仕上げた兵士等の“実地試験”と称して、戦闘を繰り返している。反帝国ゲリラに仕立て上げた兵士と正規軍を相手させデータを取り、その戦果を高らかに報じさせる。熱狂しているのは一部の民だけであることすら知らずに。術式の結果、狂乱した子供らが漏らすエネルギーを見て、上層部は確かな成果を感じている。その愚かさをいかに形容すれば良いのか。

そんな“おままごと”を繰り返す中で、本当の革命家が生まれたのは、唯一の誤算と言ってもいい。そう、彼らが認識出来た“唯一の誤算”だ。意味のない戦闘を繰り返し、自分で躾けた孤児を、自分の指揮で殺す羽目になった熱意溢れる将校は、今や地下に潜り、“救世”を掲げる様になってしまった。無理もあるまい。

この娘は、おそらく“マトモ”なまま手術を終えるだろう。
帝国に使い潰されるのか、それとも本当に何かを変えることが出来るのか。

“何かを変える?”

何が変わるというのだ。私も焼きが回ってきたらしい。



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