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太陽と月は交差して結ばれる。:デレステ『バラカストーリア ~月と太陽に祝福を~』

『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(以下『デレステ』)のイベント『バラカストーリア ~月と太陽に祝福を~』が終了し、エンディングまでコミュを読んだので感想などなどを語る。

イベントのメインはナターリアライラのデュオユニット『ソル・カマル』
2015年1月9日にモバゲー版『アイドルマスターシンデレラガールズ』に『南国ニューイヤー』として初登場して約9年半、ついに待望のユニット曲の実装の時を迎えた。

「バラカ」とはアラビア語で「神の恩寵」を意味し、神が預言者や聖者に与えた超人的な能力のことを指す。
英語で言うなら「ギフテッド」が近いか。
シンデレラガールズにおいてギフテッドといえば一ノ瀬志希だが、彼女と『ソル・カマル』のふたりには正直イメージの大きな乖離がある。
ナターリアとライラに与えられた「超人的な能力」とは何なのか。
それを与えた「神」とは世間一般的に言う神そのものでいいのか。
そういった意味でも色々注目の集まるイベントとなった。

『バラカストーリア ~月と太陽に祝福を~』の作詞・作曲・編曲はアオワイファイ氏。
これまでに『Let’s Sail Away!!!』と『セレブレイト・スターレイル』の作曲・編曲、『UNIQU3 VOICES!!!』の作詞・作曲(Len氏と共同)を手掛け、作詞・作曲・編曲を全て単独で手掛けるのは初となる。
パッション曲でナターリア寄りかと思いきや、全体の空気感はサンバというよりもほぼエキゾチックでアラビアンだった。
2024年9月24日にKアリーナ横浜で行なわれるデレステ9周年ライブ『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS STARLIGHT FANTASY』DAY1にナターリア役の生田輝さんとライラ役の市ノ瀬加那さんが揃っているので、ライブ初披露はそこになるものと推測される。

イベントコミュのオープニングでライラのメイドさんのシルエットが不意打ち気味に登場。
ライラさんのメイドさん!あなたポニーテールだったんですね!(*重要)
それはともかく、ん?
今ナターリアが聞き捨てならないことを言ったな?
「『ソル・カマル』のお仕事も増えてきて」
おいおい、前述したように約9年半の歴史を誇る大人気ユニットぞ?
……いや待て、なるほどそういうことか。
時系列がまだ『ソル・カマル』がブレイクする前なんだな。
これをまず念頭に入れておかないと大変なことになる。
ナターリアがライラの家庭の事情を把握していなかったのもまだ打ち明けられていなかった段階だからだ。
腑に落ちた。

メイドさんからライラの父親が日本に使いを送ったことが告げられる。
ドバイへ連れ戻すための強硬手段かもしれない、とのこと。
それを聞いたナターリアはライラに「日本に逃げて来たのだからまた逃げよう」と提案し、実際に遂行してしまう。
救いだったのはプロデューサーと連絡をやり取りしているメイドさんが共に同行してくれていることだ。
行先は中国地方で、理由は特になくメイドさんが決めたらしい。
プロデューサーは「ちょうど長目のオフだったし」と相変わらずのハッピー脳。

今回のサポートメンバーは塩見周子、結城晴、西園寺琴歌の3人。
親に反発して実家を飛び出した周子、親がアイドルのオーディションに勝手に応募したことを根に持つ晴、親との関係は良好だが自由への憧れを持つ琴歌という絶妙な人選。
周子は「飛び出してみて初めてわかることもある。逃げるって子供に残された唯一の手段」だと早速の経験談を披露。
晴によると「ナターリアは寂しがりっつーか『甘えた』」。
そういえばこのふたりは2歳しか違わない(ナターリア14歳、晴12歳)。
琴歌はライラに「コトカさんもお嬢様なのに逃げ出したりせずにすごい」と称賛されるも、「比べるものではないし、家庭によって抱える事情も問題も様々」と返した。
琴歌は自由への憧れが強いがそれは境遇に不満があるからではなく、彼女特有の好奇心が強いからだ。
それぞれの立場から3人は『ソル・カマル』のふたりに的確なアドバイスを送る。

ライラは父親を憎んでいるわけではない。
両親には感謝し、恩返ししたいと考えているぐらいだ。
だが現代社会において齢16歳にしてどこの誰とも知らない相手と結婚させられるのは許容できるものではない。
ましてや娘の目も見てくれないし、名前も呼んでくれない。
昔のようにパパとおしゃべりがしたいだけなのに。

ライラはナターリアと違って釣りが得意だ。
なぜなら彼女はじっと我慢ができるから。
だがナターリアには「黙ったままなんてズルイ」と言われてしまった。
「お城よりおうちの方が好き」だと語ったライラ。
きっとその「お城」は誇張でもなんでもない。
ふたりで作った砂の城が波で崩れた時ナターリアな嘆いたが、ライラは「それでよいのかもしれません。お城の扉は開かれたのだから」と言った。
お城の中に閉じ籠もったままで我慢をするだけのライラではもうない。
「とても自由で楽しい」日本のアイドルになったライラが里帰りすることになっても、これからはその城門は常に開かれている。
帰ることだってあるだろう。
アイドルの世界はあの民宿のように優し過ぎはしないのだから。
だが彼女は決意している。
「たったひとつだって置いていきたくありません」、と。

ナターリアはライラにとって「ときどき妹さんみたい」な存在だ。
それは2歳年下だからというだけではない。
純真で、天真爛漫で、まっすぐな少女。
だからこそ、彼女の夢は「自分だけには邪魔できない」と一歩退く。
太陽は眩しいだけではない。
近付き過ぎるとその身を焦がす。
「自分の問題に巻き込んでしまう」と後ずさるライラの腕をナターリアが掴む。
「いいヨ、そんなの。友だちで、もう家族みたいなモンなんだカラ」
なにが妹か。
2歳下の少女はとっくにライラよりもずっと早く近く深く、彼女との関係をもっと大事な場所に位置付けていた。
「ライラはただの友だちじゃない。ふたりでひとつ」だと。
いっしょにいたのに、すっかりすれ違っていた。
お互い流暢でないなら、言葉なんていらない。
ダンスで想いを伝え合う。
もう逃げないでまっすぐ向き合う、と今度こそふたりで決めた。

関係者以外でキーマンのひとりとなっていたのが逃避行先の民宿の少女だった。
彼女はメイドさんを含めた3人のために居心地の良い空間を提供してくれたが、やはり見えているのは表面だけだった。
「性格真逆すぎなのにアイドルユニットなの?」と少女は笑ったが、とんでもない。
真逆すぎるもんか。
むしろふたりは似過ぎている。
であるからこそ、お互いに気を遣い過ぎて空中分解しかかったのだ。

その点楽天的過ぎではありつつも、プロデューサーは『ソル・カマル』の本質を的確に把握していた。
『ソル・カマル』は共通点があるだけのユニットではない。彼女たちは非常に仲が良く、お互いにお互いを導き合える」
そう。
改めて言うが「真逆」などではありえないのだ。
「ナターリアはなんだって笑顔で乗り越えてしまう底知れない強さと眩しさを併せ持つ。誰とでも仲良くなれる人懐っこさもある」
「ライラには言語の隔たりを感じさせない優しさがある。誰にでもすぐ話しかける平等さと誠実さを持っている。日常からささやかな幸せを見付けられる」
要はアプローチの違いだけ。
ナターリアが底抜けに明るく、ライラが物静かで丁寧だから違って見える。
眩しい太陽もやさしい月も、どちらもなくてはならない星。
眩しい太陽に導かれ、太陽の憂いは月だけが知っている。
やさしい月明かりに誘われて、月の陰りは太陽だけがそばで照らせる。

プロデューサーはその上で要求する。
「言葉で届かないのなら、アイドルの姿でこじ開けよう。逃げ道じゃない活路を。ふたりの未来への道を」と。
「『ソル・カマル』は君たちの物語。思うままに、あるいは抑圧されて歩んできた道の先は君たち自身の手で掴み取らなきゃいけない」と。
「境遇が異なっていようと、道が定められていようと、自分でその先を選び取ることができることを自身で証明して」と。
さすがは「彼女たちの人生を預かっている身」と豪語するだけのことはある。
初めて今回プロデューサーに「親代わり」としての側面を見た気がする。
彼は「全ては旦那様の決断次第」だとするライラの父の部下に対し「あの子たちに選ぶ時間をください。人生が長い旅路だというなら、遠回りすることで見られる景色がある」と返したが、あれは紛れもなく「日本の父」としての言葉だったと私は考える。

その甲斐あってか、ナターリアは急激な人間的成長を見せる。
「今回の件ではナターリアの特に負担を強いてしまった」と猛省するプロデューサーに彼女は「ワガママだけじゃダメってこともわかった。相手の気持ちもちゃんともらわないと」と一皮剥けたコメント。
「ナターリア、なんだか大きくなったね」と驚くプロデューサー。
我々ユーザーも激しく同意。
「昼にも月は見える。でも夜の月はひとりぼっち。だからひとりにはさせない」
妹どころではない、まるで姉のような慈愛の精神ではないか。
剥き出しの想いこそが本心だ。
ライラの父にリハーサルを映像の方を観てもらうことにした一同。
そこでナターリアは「キレイなのを見せたいんじゃない。そっちの方が本気の想いが伝わる」と言い放った。
「男子、三日会わざれば刮目してみよ」
なにをなにを。
女の子だってそうですよ?

ところでライラのメイドさんだって立派な親代わりをしていた。
プロデューサーが「日本の父」ならば、彼女は「日本での母」と言ってしまっても差し支えはないだろう。
実際には妙齢だと思われるが、便宜上ということでひとまずここはご寛恕願いたい。
ライラの父の部下と喫茶店にて一対一の場面、「仮にも娘だから恩に報いるのが子の努め。旦那様の夢のためにお嬢様はこちらに必要」と切り出した部下に彼女は「あの子たちは道具じゃありません」と即座に断罪してくれた。
あれには激しく溜飲が下がる思いだった。
とはいえ部下もただの連絡係ではなかった。
エンディングで「見たところずいぶんと小さな家屋で暮らしているようですが生活費は足りていますか?」と唐突な質問。
「貯金を切り崩してはいますが」と恥を忍んで答えるメイドさんに「お嬢様に何不自由ないよう努めるのが貴女の仕事。奥様が『いつでも頼ってちょうだい』と仰っていました」と手厳しくも嬉しい助け舟。
メイドさんの毅然たる態度に感じ入っていなければ言わないつもりの伝言だったのではないか。

ああこのふたりの関係性好きだなあ。
くっつかないかなあ。
部下さんにはもう嫁も子供いたりするんだろうか。
最後旦那様に「『可愛い子には旅をさせよ』という日本の言葉をご存知ですか?」なんてサラッと言えちゃうのもかっこいい。
ライラさんのパパに信頼されてるからこそ選ばれて派遣されてきた人物に違いない。
あとライラさんのママ見たい!
絶っっっっっ対超絶美人!
そりゃもう女神様クラスの。
で、実はパパもママには弱かったりするんだろうお約束的に。
ライラ家スピンオフ早く!


閑話休題。

ライラ「旅は自由の証。定められた道ではないからこそ、楽しいもの」
ナターリア「夢があればどこへでも、どこまでだって行ける」
ライラ「自由を求めれば道はできます。だからここにいる」

それぞれ故郷を飛び出し、日本のアイドル事務所で運命の出会いを果たした『ソル・カマル』。
別々の人生の奇跡的な邂逅。
「超人的な能力」なんてあったってなくたっていい。
自分の能力が超人的かどうかなんて知らないし分からない。
大切な人を助けられれば十分だ。
「神」なんて誰だっていい。
感謝もするし恩返しだってするつもりだけど、理不尽に人生を弄ぼうとするのであればこちらにも考えがある。
そういうことだ。

ナターリアのオレンジとライラのブルーをイメージしたマクラメ
アラビア語で「交差して結ぶ」
「まさに『ソル・カマル』」とそれを見て評したライラ。
深く堅く何重にも結ばれたふたりの絆。
ふたりでひとつ。
決して解けることはない。

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