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生まれながらの「幸子」と求めてそうなった「ヘレン」。:デレステ『ススメ!シンデレラロード』

『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(以下『デレステ』)のイベント『ススメ!シンデレラロード 輿水幸子 / ヘレン 編』のコミュを全て読んだのでその感想などを記す。


<輿水幸子 編>


幼い幸子はTVを観ていた。
そこにはアイドルが出演しており、この度卒業するのだという。
幸子の母が娘の様子を見て「悲しいの?」と尋ねる。
それに幸子は「愛されるのはとってもかんたんなことなのに、愛されつづけるのはむずかしいのですか?」と問い返した。
愛されるのが簡単なのは彼女ならでは実感だが、実に哲学だ。
そしてなんとも早熟な子供だ。
両親は「天才!」と手放しで喜んで我が子を溺愛したが、幸子自身は疑問の答えを得ることはできなかった。


幸子に写真集の仕事が決まる。
なのだが、会議室からは「幸子ちゃんを島に流そうか!」という物騒な声が漏れ聞こえてきたという。
いわゆる「島流し」ではなく、無人島ロケがどうやら決まりつつあるらしい。
その場に居合わせた塩見周子相葉夕美ともども頭を抱える。
そういえばこの3人はユニット名こそないが『不埒なCANVAS』の歌唱メンバーだ。
無人島ロケの先輩の周子によると「なんとかなる♪」らしい。
ちなみに周子のそれは『夏恋 -NATSU KOI-』の時で、珍しく弱気な彼女の姿が見られたりもした。

[夏恋 -NATSU KOI-]塩見周子(特訓前)より。


プロデューサーの「幸子にあまりキツすぎる仕事はちょっと……」の声が漏れ聞こえ、「どの口がそう言うんですか!」と思わず会議室に乗り込む幸子。
スカイダイビング、素潜り漁、バンジージャンプ……うん、確かにどれも普通のアイドルにはキツすぎた。
スカイダイビングはカードイラストでも有名。

[自称・天使]輿水幸子(特訓前)より。

素潜り漁は『CINDERELLA MASTER』第4弾のソロCDに収録されているドラマCD内で「人魚姫」と自称した結果海に連行されてやらされたもので、バンジージャンプはアニメ『アイドルマスターシンデレラガールズ』第9話でバラエティ番組『マッスルキャッスル』での罰ゲーム。

後にU149アニメでバンジーの先輩として登場。


ドSなのかディレクターがやけにノリノリだ。
「孤独で過酷な無人島サバイバル!『輿水幸子はどんな状況でも常にカワイくいられるか!?』」がコンセプトで、生き抜いた後に写真集を宣伝、必死な形相とカワイイ表紙のギャップ演出が狙い、初回特典は自撮りブロマイドとまくし立てる。
まさに昭和のバラエティ番組。
令和の世の中ではフィクションでもなければコンプライアンスだのなんだので実現不可能だろう。
「カワイくない幸子を見せる仕事になるかもしれない」と危惧するプロデューサー。
幸子はそれに「ボクはいつだってどんな顔だってカワイイに決まってるじゃないですか!それを証明するためなら受けて立ちますよ!」と胸を叩く。

これがプロ根性。

輿水幸子は我々の想像以上にたくましく、また自分に絶対の自信を持っている。
しかし輿水幸子が不在ということは、プロデューサーにも世界にもカワイイが不足することに他ならない。
「なのでプロデューサーさんは、ボクと同じくらいカワイイアイドルのみなさんとのお仕事を頑張らないといけませんよ!」と言い残した幸子。
彼女の人格の素晴らしいところは、自分がダントツにカワイイとも自分だけがカワイイとも決して言わないところだ。
育ちの良さが現れている。


いよいよ無人島(後に『カワイイ幸子島』と命名)へと到着。
ヘルプ用のスマホは当面の間放置し、装備は無人島サバイバルセット(日数よりかなり多めに用意された水、軍手、鍋、塩胡椒などの各種調味料セット、銛、シュノーケル)とボイスレコーダー。
ボイスレコーダーには多数の関係者からのメッセージが録音されていた。
『142’s』のメンバーである星輝子からは「無人島のキノコは危ない」との専門家ならではのアドバイスが(白坂小梅+あの子からはアレだったが)。
共に山梨県の観光アドバイザーに就任している柊志乃からは「帰ったら山梨のブドウジュースを用意しておくわ」との労いが。
デュオユニット『ヒロイックエンジェル』を組む南条光からは「あたしたちヒーローと天使の名乗りと合体技を考えてくれ」とのリクエストがあり、「カワイイ天使のかごをヒーローに!そう、ボクたちはヒロイックエンジェルっ♪」と即発案。
余談ですが、私は『デレラジ☆』のアイドル紹介コーナーである『スターアルバム』で『ヒロイックエンジェル』のメールを採用されたことがあります。

その時送ったのがこちら。

そしてもうひとり、ヘレンからの謎が謎を呼ぶメッセージもあったのだが、なんと記憶喪失になっているらしい。
その真相を知るためにも幸子は無事に帰る決意を新たにする。
こんな所でイベントシナリオのリンクが。
それにしても最近のコミュにしては立ち絵が制服姿なままなのがいただけない。


両親からのメッセージにより、幸子の名前の由来が明らかになった。
彼女はなかなか子宝に恵まれなかった輿水家に誕生した待望の一人娘だった。
生まれる前からも愛され、愛されながら生まれてきた。
世界中の人から愛されて幸せになるよう「幸子」と名付けられたという。
初めて喋った言葉は「ボク、そんなにカワイイですか?」だったそうで、初めてなのに長文だ。
「敬語が使えるなんてカワイイ上に天才!」と両親がお祭り騒ぎになったのも無理はない。

「ここでは自分自身と向き合う時間が多すぎます……」
気丈だった幸子の心が大きく揺さぶられる。
いつの間にかサバイバル能力が開花し、目が荒んでいた。
疲れもあるが、その最大の原因は誰もカワイがってくれないから。
輿水幸子のカワイさは人がいなくても揺らがないが、人に愛されなければそのカワイさが最大限に活かされているとは言えない。
それはすなわち世界と輿水幸子の人生にとって最大の損失だ。
愛された思い出だけでは生きてはいけない。
今この瞬間も愛されたい。
輿水幸子にとって「カワイイ」と言われることは愛されるということ。
だが既に注がれた「カワイイ」(愛)は底から抜けていってしまう。
注いでも注いでも決して満足することはないが、次から次へと新しい愛を注いでほしい。
貪欲なんてものではない。
渇望だ。
愛は輿水幸子が生きるために必要な燃料なのだ。

今にして思えば、幼少期にTVで観たアイドルは自分と似ていた。
愛されれば愛されるほどもっと欲しくなってしまう。
そのアイドルは卒業後に裏方になったらしいが、幸子にはその選択肢はない。


「プライドなんてカワイくあること以外は初めてバラエティに出た時から捨ててます!」
波に家が流されても、火起こしセットまでダメになっても一切音を上げず、一週間たった独りで生き延び最終日を迎えてプロデューサーと再会した幸子は万能アイドルへと進化していた。

日常へと戻ってきた幸子は早速取材を受ける。
スケジュール管理はきっちりされているので休みもしっかり取れているとのことなので一安心だ。
「カワイイと言われたい。愛されたい。そんな底なしの想いがあります。いくつになってもきっとこの想いは尽きないでしょう。たとえこの先不安になっても疲れてしまっても、ボクは『カワイイ』と言われ、愛され続ける道を進みたい。たしかに愛され続けることは難しい。それでもカワイイボクは愛されていたいのです!」
それは幼少期の自分へのアンサー。
そして目の前のインタビュアー、かつてのあのTVの中のアイドルへの回答。
「私は求め続けることに疲れてしまったけれど、貴方はそうじゃない……強いのね」
と脱帽する元アイドル。
「ボクはまだまだ褒められたいから。愛されてもっともっとみんなにカワイがってほしいから!だから、永遠の存在になります。永遠にカワイイアイドルに。みなさん。もっと、ずっと、ボクに愛を捧げてくださいね♪」
輿水幸子はそう締め括った。

果たして彼女は元アイドルが評したように本当に強いのだろうか。
もしかしたら誰よりも弱いが、愛されることによって誰よりも強くなるのではないか。
私にはそう思える。
だからこそ今日も彼女は底に大穴の開いた器に溺れるほどの愛情を掻き集めて注ぎ込み続けるのだ。
永遠のカワイイアイドルで在るために。

<ヘレン 編>


「----これはヘレンが真なるヘレンへと至る物語、『ヘレンズ・リボーン・クロニクル』
なるほど分からん。

子猫を自動車に轢かれる寸前超絶ステップで助けたはいいが、受け身に失敗して頭を強かに打ち付け、記憶喪失になったヘレン。
……ステップ?
記憶はなくともヘレンの魂は失われていないとのこと。
理解するんじゃない、感じるんだ。
が、世界中のダンス強者たちがヘレンの異変を察知し、即行動を開始する。
ヘレンは常に狙われる存在なのだ。
チェアマンは「これも新たな試練ということか。ヘレンを生きる者として……お前はどんな選択をする?」と宙に向かって問いかける。
いや待て。
チェアマンって何だ。
「全宇宙ヘレン委員会」とか存在するのだろうか。

とはいえ、記憶を失ったヘレンには「ダンスのキレも圧もあるが世界レベル感が足りない」との水木聖來からの指摘に高峯のあ小松伊吹も頷く。
346プロダクションが誇るダンス自慢アイドルたちだ。
ヘレンと聖來、のあはユニット『セクシーバニー』のメンバーであり、伊吹はデレステの営業コミュ『ヘレンを知りたくば…』でヘレンの一端に触れた経験がある。
襲い掛かってきたライバルを見事に退けるも「お前はヘレンではない!」と捨て台詞を浴びせられ、ヘレンは「私は一体誰?」との悩みを抱えることになってしまう。
楊菲菲の海鮮チャーハンで一瞬覚醒しかけるものの、ヘレンではないヘレンも愛されていることにさらなる動揺を覚える。


意を決し、ヘレンは「ヘレン探しの旅」に出ることにする。
ヘレンのルーツを辿る旅だ。
同行メンバーは引き続きの水木聖來と小松伊吹の他にメアリー・コクラン相馬夏美
メアリーは梅木音葉と共にユニット『アメリカンスーパーヒーローズ』を組むメンバーで、夏美さんは『バニーガールズ』、『ワールドフライト』、『ビヨンド・ザ・ビタースカイ』のユニット経験の他に、デレステ営業コミュ『君へ送る深夜のエール』などでも付き合いが深い。

世界各地を巡る一行。
イギリスではあのチェアマンと再会する。
彼曰く、「世界を望む時、ヘレンもまた世界に望まれている」のだとか。
言いたいだけやろ。
かつて彼を黙らせたヘレンはアイドルという未知なる道を選んだ。
それが最上のダンサブルに至るということを示して。
チェアマンは「確かにその姿はヘレンではない」と失望の色を見せつつも、「だがヘレンの中に不純物が混ざり、溶け合った時、化学反応が起こるかもしれない」と同時に期待する。
アイドルが不純物とは言ってくれる。

「時折地球が『お前はヘレンだ』と語りかけてくる。私もライバルたちも私をヘレンではないと言うが、一方で世界はそうではない。もう少しで何かを掴めそう」
「ヘレン探しの旅」の成果は現れている。
眠れない夜、プロデューサーが一通のファンレターを彼女に手渡す。
そこには「自分が楽しむだけじゃなくて、みんなも一緒に楽しませて世界レベルへと導くあなたはイチバン世界してる!」と書かれてあった。
忘れていたキーワード、「世界レベル」
「ヘレンはただのダンサーでもダンサブルを極めた者でもない。すなわち、世界。誰にでも世界レベルを見せるため、私は世界に成ろうとした。アイドルとして、ダンサーとして、ヘレンとして。ヘレンに還る道を模索するのではなく、世界レベルへと至る道をこの足で選んでいく」
進むべき道は示された。


明日にはハリケーンが到達するというのに、崖の上でヘレンは三日三晩踊り続け、強風、雨、雷、そしてそのハリケーンをも退けた。
それはまるで対話だった。
空と、天気と、風と、太陽と、月と、大地と、そして世界との。
「地球の鼓動を、自然の営みを感じ、全てわかった。人は、命は、この世界に生まれてきたからこそ踊る。産声とともに踊りたいと願うからこそ、そう願ったからこそ、私は『ヘレン』を求めた」
改めて、『ヘレン』とは何か。
空気を読まず、かつてのライバルたちが不眠不休の彼女に殺到する。
彼らは『ヘレン』をただ奪いたいのではなく、受け入れられないのだ。
ヘレンが『ヘレン』を失ったことを。
ライバルだからこそ思い出させたいのだ。

ヘレンの他にも聖來、伊吹、メアリー、夏美も踊り、その余波で東京にいる堀裕子のスプーンが真っ二つに折れる。
プロデューサーも踊る。
ヘレンのオーディションの時の合格ダンスだ。

ユニバァァァス!!


ヘレンは宇宙空間のような精神世界でもうひとりのヘレンと対面していた。
「ヘレンを『ヘレン』とするのはただひとりのダンサブルだけじゃない。世界が『ヘレン』と認めれば、それは『ヘレン』。だって『ヘレン』は世界なのだから。再誕せよ、真なる『ヘレン』に」
もうひとりのヘレンはそう言う。
カムバックではなく、ヘレンズ・リボーン。
ここで冒頭の「なるほど分からん」が「なるほど」に変わった。
「『ヘレン』は世界。世界は『ヘレン』。踊らなければ地球の鼓動は感じられない。ノーダンス、ノーアース!」
この「踊る」はダンスのことのみを指すのではない。
生命活動そのもの、すなわち「生きる」ことを指す。
「アイドルがファンと心を通わせるように、アイドルが夢を見せるように、そう、私が『ヘレン』であるように、あなたも『ヘレン』なのだから!」
「もうひとり」ではないヘレンがそう叫ぶ。
『ヘレン』とは単なる女性の固有名詞ではない。
『ヘレン』とは概念。
『ヘレン』とは生き様。

『ヘレン』とは地球そのものを含めた生きとし生ける者の総称。
その頂点に立つ者こそが当代のヘレン。

へ?
LIVEへ!?

『ススメ!シンデレラロード』で!?
HAHAHA!
前代未聞。
さすがヘレン!他のアイドルにはできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!

「かつての『世界』を易々と超えるか……。これが……当代のヘレン……!」
チェアマンが絶句する。
その当代のヘレンは胸を張る。
「ヘレンは常に進化している。だってヘレンは……世界なのだから」
そう。
世界は常に進化しているのだ。
世界は真なる『ヘレン』を得た。
そしてプロデューサーもヘレンをさらに深く知った。
きっと必然の旅路だった。

ヘレンは最後にこう結んだ。
「生まれ生づる瞬間から定められた運命を歩むのではないわ。自分の足で道を選び、勝ち取って、人生を歩み……名を得る」
生まれながらに『ヘレン』ではなかった。
何者でもなかった。
でも今は自他ともに誰もが認める「ヘレン」。
与えられるのではない、勝ち取ったその名こそが「ヘレン」。
ヘレンはヘレン。
ヘレンでしかない。
だからこそファミリーネームなどない。

<総括>


私はこのイベントが発表された時、「幸子とヘレンで『アイドルプロデュース』じゃなくて『シンデレラロード』!?」と目を疑った。

結果、今では完全に納得している。
これはアイプロではなくシンデレラロードでこそだった。
協力プレイなどはあり得ない。

デレステの営業コミュ『美しき世界に幸あれ!』などの共演で輿水幸子とヘレンは共鳴し合う近しい存在だと思い込んでいた。
が、それは大きな間違いだった。
この二人は根本的に相容れない
完全に水と油だ。
どんなにお互いを尊重し合っていたとしても。

輿水幸子は生まれながらに「幸子」という名を背負い、それを今の今まで実践してきた。
対してヘレンは『ヘレン』を求めて今の「ヘレン」となった。
スタートからしてそもそも違い過ぎる。

今回のイベントコミュはどうか。
幸子は最初の装備こそ充実していたものの、徹頭徹尾自力で生き抜き、心が折れそうになった時も独力で再起した。
仲間のアイドルたちやプロデューサーの助けやファンレターあってこそ『ヘレン』を取り戻したヘレン。
さて、本当に強いのはどちらだっただろうか。

お互いに譲れないイデオロギー(理念)がある。
ヘレンの最大のライバルはかつてのヘレンたちでも今なお『ヘレン』を狙う者たちなどではなく、輿水幸子なのかもしれない。

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