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辻野あかりこそ最先端の現代っ子だった。

辻野あかりは2018年12月2日の『THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 6thLIVE MERRY-GO-ROUNDOME!!!』のナゴヤドーム公演2日目に発表されたいわゆる「七人の新アイドル」の内の一人で、2018年12月20日にモバゲー版『アイドルマスターシンデレラガールズ』に桐生つかさ以来実に約4年3か月ぶりに登場した新アイドルであった。
「七人の新アイドル」のトップバッターとしてその姿を見せた彼女だったが、私の第一印象は「新アイドルにしてはやけに地味……ゲフンゲフン、純朴そうな子だなあ」だった。
初見の特徴としてはりんご特化型で、なるほど頭頂部の癖毛(アホ毛の一種か?)も葉っぱのようだ。それにしてもなあ……と。
パン特化型の大原みちる、パフェ特化型の槙原志保、ドーナツ特化型の椎名法子、ハチミツ特化型の榊原里美などなどの特定の食べ物特化型のアイドルの中のひとりとして埋もれていくのではないか、と危惧したぐらいだ。

が、徐々に徐々に、私のかつてのそんな予想などてんで的外れだったことが判明していく。
そしてある時、ピンときた。
「あれ?こいつつかさよりビジネスライクじゃね?」
と。
「ほほう、それで対比としてつかさの次に実装されたのか」、とはさすがに穿ち過ぎな見解であろうが。
ことあるごとに山形りんごを売り込もうとし、プッシュしてくるあかり。
どうやらプロデューサーをアイドルに対してのプロデュース能力のみならずそのセンスに目を付け、山形りんごのプロデュースまでをもさせようとしてくる。
それで1つが終わっても実にあっさりしたもので、「はい次、じゃあ次」と言わんばかり。
ははーん、こいつは思ってた以上にしたたかだぞ、と。
見た目の純朴さの内に隠された本性見たり。
だがそうでなきゃあの生き馬の目を抜く芸能界ではやっていけまい。

桐生つかさはビジネスウーマンではあってもビジネスライクではない。
彼女はビジネスセンスのある相手をリスペクトし、人間としても同時に評価する。
辻野あかりにはそれがない。
それすなわちあかりが薄情だということではなく、彼女は実家のビジネスチャンスに結びつけたいだけであって、ビジネスの仕組みそのものをよく理解していないからだ。
なので成功したとしても「へーすごいですねやったー!」と無邪気に喜ぶだけで、そこに至るまでの経過にまで考えが及ばない。
まさに今時の少女ではないか。
そう、桐生つかさの方こそがむしろ異端なのだ。

これは余談だが、辻野あかりの人気の一端に「プロデューサーと恋愛関係に発展しなさそうなところ」というのがあり、私はまさにそこにこの彼女のビジネスライクさ、現代っ子さが関係しているのではないかと睨んでいる。
この手のアイドルをプロデュースするゲームにおいてはそれぞれのキャラクターにアイドル活動とプライベートの二本柱があって、どちらも主人公といい関係を築くことが目的とされる。
よって最初はどれだけツンケンしているヒロインであっても物語が進むにつれて心を開いていき、やがてはハッピーエンドを迎えることになるのだが、辻野あかりとのストーリーはあくまでアイドルとプロデューサーとの関係に終始する予感しかしない。
まあそれでも最初の頃よりはかなり良好で潤滑になってきているとは感じるけれども。

辻野あかりのストーリコミュ『Sweet Apple on Stage』は読まれただろうか。
いわゆる個別シナリオであり、最後まで読めばソロ曲が開放されるあれだ。
私は当時、それを読んで驚愕した。
そこにはアイドルを続けるかどうか悩む彼女の姿があったからだ。

え?今それ悩むの!?


それまであれだけの活動を積み重ねておいて!?
『Brand new!』は!?#UNICUSは!?
あんなに楽しそうにしてたよね!?
あんなに充実感を覚えてたよね!?
「アイドルっていいな」って思ったよね!?
なのに!?
それでも!?
衝撃を受けた。
ショックだった。
シンデレラガールズでこんなアイドルは初めてだ。
双葉杏や財前時子様などよりもはるかにアイドルに対するモチベーションが少ないではないか。
ゲーム内のプロデューサーが「彼女の意志を尊重する」だのいくら綺麗事を並べ立てようが、現実のプロデューサーである私はこの上ないほどの無力感に苛まれた

辻野あかりという人間は感動が薄いのだろうか。
実家の農園が台風の被害に遭ったことによるトラウマは確かに現在の彼女の人格形成に影響を及ぼしてはいることだろう。
「頑張るのが好きじゃない」とこぼす姿も見てきた。
だからあれだけの実績を残し、ファンを得、仲間を得、充実感を得てもまだアイドルが最優先にはならないのだろうか。
実家が大事なのは理解できる。
だが特段両天秤にかけている風でもない。
他ならぬ両親も娘のアイドル業を心から応援してくれている。
どういうことだこれは。
甚だ理解に苦しむ。
発想の転換が必要だ。
そこで私は思い至った。
「辻野あかりは純朴な田舎娘」というレッテルこそがそもそも間違っていたのではないか、と。
シンデレラガールズ運営が約4年3ヶ月ぶりに満を持して世に送り出す「七人の新アイドル」、その一人目がそんな凡百のパーソナリティの持ち主のはずがない。

突破口が見えた。
辻野あかりは生まれや育ちが都会ではなくとも、紛れもない現代っ子だったのだ。
その瞬間瞬間に一喜一憂はしても実際にそこまでの感情の起伏はなく、もしくは熱しやすく冷めやすく、どこか俯瞰で物事を捉える感性。
ひとつの物事に対して全身全霊をかけて熱くなったとしても、きっちり1回ごとにリセットする割り切り。
それまでの183人とは違う、当時最先端の少女像が反映されたアイドル、それこそが辻野あかりの実態だった。
I see.
これがシンデレラガールズ運営が提示するニュースタンダードモデルか。

その後のあかりの活躍はここで改めて語るまでもないだろう。
今や彼女は立派なシンデレラガールズの顔の一人であり、なんならアイドルマスター世界全体においてもそうだと言ってしまっても過言ではないだろう。
シンデレラガールズのTVアニメ2期は残念ながらかなりの期待薄だが(あんな形でニューウェーブを出しちゃわなければなあ……)、もしあるとするならばその主人公ユニットは#UNICUS以外にはないのではないか。
島村卯月という不動のキュートアイコンキャラクターがいるにもかかわらず、その地位をおびやかそうともせずにいつの間にか並び立ち、次世代センターの風格すらも備えた辻野あかり。
いやはやなんとも卒がない。
これが新世代アイドルの力か。

辻野あかりの登場はシンデレラガールズの世界に疑いなく新風を吹き込んだ。
シンデレラ世界に突如迷い込んだ白雪姫
清濁併せ呑み、毒リンゴすらも自在に操る現代っ子アイドルはいかなるシンデレラストーリーをこれから紡ぎ出すのか。
シンデレラガールの座に輝いたその時、彼女は変わるのか変わらないのか。
変わったからなのか変わらなかったからなのか。
興味は尽きない。
山形県のりんご生産量は今や全国4位へと後退してしまっているが、辻野あかりの人気と勢いは衰え知らずの右肩上がりだ。
こういう子だからこそやれることがあるんだろうな、と今ではそう思わされるまでになった。
シンデレラガールズの人気を再燃させた立役者、これからまだまだ色々やっちゃってくれそうである。

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