望月聖というアイドルの声が一致した瞬間。
『アイドルマスターシンデレラガールズ』には望月聖というアイドルの少女がいる。
12月25日生まれの13歳。趣味は「歌を口ずさむこと」。
2022年8月22日、『Stage for Cinderella』予選グループAの結果発表で第4位に入り、ボイス実装がめでたく決定した。
そう、それまではずっと声がなかったのである。
彼女の初登場はモバゲー版『アイドルマスターシンデレラガールズ』での2011年の12月9日だった。
実に11年もの間、彼女の声は、歌は、誰にも届いていなかったのだ。
「声がないなんておかしくね?」とシンデレラガールズをよく知らない人は思うかもしれないが、このコンテンツには実に190人ものアイドルがいる。
今でこそボイスのあるアイドルの方が多くなったが、長らくボイスのないアイドルの方がずっと多かったのである。
アイドルにボイスが付くためには条件があり、CDが出る、アニメに出る、何らかの企画に採用される、などなど様々。
たまにサプライズで実装されたりもするが、そのほとんどがユーザーが関われるものではない。
そんな中でユーザーの応援の結果が大いに反映されるのが総選挙であり、前述の『Stage for Cinderella』が現在の形だ。
私は過去長きに渡って望月聖に投票し、彼女の声と歌声が聴ける日を心待ちにしてきた。
その夢がようやく叶ったのである。
そもそも望月聖は特殊なポジションのアイドルだった。
イヴ・サンタクロース、鷹富士茄子という季節アイドル(今では2人ともすっかりそんな感じはなくなったが)と並んでSRカードしかないという、いわゆる中ボス的な扱いがなされていた。
モバゲー版『アイドルマスターシンデレラガールズ』には『ぷちデレラ』という要素があったのだが、実装時点で全アイドル中単独1位のボーカル数値を誇り、「歌姫」として色濃く、また名高かった。
清らかなる歌姫、「キャスティング難易度の高さたるや」とユーザー間で語り草だったものだ。
そして。
望月聖の声が全世界へと解き放たれた。
私は面食らった。
「こう来たか」、と。
正直想像していた声質とはかけ離れていたからだ。
第一印象は「望月聖の声にしては声が低いな」だった。
合っていないとは思わなかったが、聴いた途端に「ガツーン!」はなかった。
人間は慣れる生き物だ。
最初は違和感があっても徐々に慣れていき、最終的にはすっかり受け入れる。そういうものだ。
私の最推しアイドルである村上巴だってファーストコンタクトは同じ印象だった。
なので心配はしていなかった。
決して好みではないわけでもなかったし、少女らしさもちゃんとあった。
それになにしろ歌が上手い。
さすがはご本人自ら「歌が大好き。歌にこだわっている」と語るだけのことはある。
安心してこれからを見守ろうじゃないか。
素直にそう思えた。
ボイスを獲得した聖はそれから多数のイベントなどに参加し、声を、歌を届けてくれた。
私もそれを様々な媒体や機会で楽しんだ。
CDで配信でラジオでライブで。
そして案の定いつの間にかすっかり受け入れていた。
胸の片隅に小さな棘を抱えたまま。
そうやって聖と私の日々は過ぎて行った。
2023年10月25日。
“Stage for Cinderella“CD(予選Aグループ、Bグループ)『THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER Dreamy Anniversary & Next Chapter』が発売された。
私はそれを前日にフラゲし、ウォークマンへとインストールした。
私は大抵ウォークマンで音楽を聴きながら移動する。
新しい曲を聴く喜びは得難いものだ。
そのアルバムの中には『お願い!シンデレラ(M@STER VERSION) 望月聖ソロ・リミックス』が収録されている。
何気なくその曲を再生して数十秒後、私は側頭部をトールハンマーで殴打されたような衝撃を受けた。
これだ。
これか。
私はとんでもない誤解をし続けていたことをその時やっと自覚した。
聖の声は低いのではなかった。
あまりにも豊かだったのだ。
色んな声の要素、性質が折り重なっていて分厚く重くなり、スマホの粗末なスピーカーから流れた声ではその事実を認識できていなかった。
なんと複雑で色彩豊かな歌声だろう。
同じシンデレラガールズのキャストを引き合いに出すなら高垣楓役の早見沙織さんに近いものがあるかも知れない。
この若さであの領域まで達しているのか。
なんとも末恐ろしい。
しかもべらぼうに歌が上手い。
ヴォーカルテクニックで言うならビブラートのかけ方の上手さが尋常ではない。
勝手に認定させてもらうとするなら、十時愛梨役の原田ひとみさん、北条加蓮役の渕上舞さんと並んでの「シンデレラガールズ3大ビブラート」としたいぐらいだ。
さらには感情の込め方が実に巧みだ。
歌詞を非常によく理解し、悲しい歌詞の部分は本当に悲しそうに、嬉しい歌詞の部分は本当に嬉しそうに歌っている。
これがあの『おねシン』か。
「親の声より聴いた」ではないが、シンデレラガールズファンなら過去最も聴いた曲だろうし、「『おねシン』聴くぐらいなら他の曲聴くよ。もう憶えちゃってるし」レベルの耳馴染みのアレが。
別物に聴こえた。
私は『お願い!シンデレラ(M@STER VERSION) 望月聖ソロ・リミックス』を何度も何度も何度もループで聴き続けた。
まさかここでとは。
こんな形でピタリとハマるとは。
ああ、これは望月聖を担当するのはこの人しかいない。他なんてもう考えられない。
原涼子さん、聖の声を担当してくださって本当にありがとうございます。
シンデレラガールズ運営さん、原涼子さんを望月聖のキャストに選んでくださって本当にありがとうございます。
これで今後一切の後顧の憂いなく、聖を愛し、応援し、推すことができる。
さあ、彼女とのまばゆい記憶を刻み込んでいこう。
「あなたの心へ、この歌を」
確かに届いたよ、聖。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?