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『Teeenage☆Groovin'』でリンリンが鳴らした警鐘。

『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』(以下『デレステ』)のイベント、LIVE Parade『Teeenage☆Groovin'』が終了したので、それについて語らせていただく。
今回のイベントのメインユニットは喜多見柚椎名法子棟方愛海の3人による『リンリン』「Link-Ring」を略しての『リンリン』だそうで、その意味がコミュを読み進めるにしたがってみんなに重くのしかかってくることになる(もちろんユーザーを含めて)。
この3人は今回のイベントのために結成されたトリオユニットで、これまでに関わりがありそうで実はあんまりなかったメンバーだったこともあり、ユーザーにサプライズをもって受け止められた。

今回のイベントコミュはスウィートとビターなテイストの絶妙なブレンド加減が実に秀逸で、前回の『この恋の解を答えなさい』といい、デレステシナリオ班の筆力の上昇ぶりを顕著に感じられた。
以前のような無理矢理なギスギスバチバチがすっかりなくなったのはなんとも喜ばしいことだ。
事前の予想でこの3人ならばさぞやコケティッシュでポップ一辺倒になるかと思われたのだが、蓋を開けてみればそれぞれが新たな一面を見せて大きく成長した、彼女たちの転機となったイベントとなったのは間違いない。
我々ユーザー及びプロデューサーたちにとっても彼女たちを見る目が大きく変わることとなったのもまた疑いない。

イベントコミュのオープニングのラストで柚がポロリと漏らした「ふとした側面かあ……」が、このイベントを通してのトリガーになるとは、その時の私はまだ予想だにできていなかった。
そして1話から3人はこれまでに秘めていた内心をガンガンつまびらかにしていく。
まずは柚。
「プランって考えるのあんま得意じゃなくてサ」
そうだったのか。
むしろこれまでリーダー気質で自分からみんなをどんどん引っ張っていくタイプだとすっかり誤解していた。
なんという不覚。
目が曇っていたと言わざるを得ない。
「いつも楽しいことを探してる」
そうか。
そのアクティブさに前に前に出るタイプだと思い込んでいたんだな。
そしてそのアクティブさには理由があったんだな。
「ただ楽しいだけじゃ、なんかすぐぱーって消えちゃって。どんどん次の楽しいコトが欲しくなっちゃう」
だからこその「いつも」か。
これはかくいう私自身にも非常に心当たりがある。
心の病を抱えていた時などは特に、気を紛らわせるために楽しいことをしていても、それが終わった瞬間闇に襲われた経験には枚挙に暇がない。
私と同じそんな想いを柚が。
あの柚が。
「何かやっても……遊んでるその瞬間は楽しいけど、終わったらすぐ、さーっと消えてっちゃう」
それ。
まさにそれ。
柚、分かるよ。
天真爛漫さの権化みたいに色眼鏡で見ててごめん。
本当にごめんな。

愛海は「欲張りな所が似てる」と言い、それに柚が「そっか……」と得心がいった様子を見せる。
……んんん?
愛海と柚と法子が欲張り?
それはハングリー精神や向上心ではなく?
法子はこう言った。
「ドーナツはもらって一番嬉しかったもの」
「誰かにあげるのが好き」
「好きでつながれる」
「同じ気持ちに、なってほしい」

それが法子の「欲張り」か。
一見微笑ましい欲張りだが、裏を返せば彼女の寂しさの裏返しでもあったのだ。
柚は「いつも楽しいことを探してる」だったが、法子は「誰かとつながりたい」という想いをいつも抱えていた。

愛海は「好きなものがあるって、楽しいだけじゃない」とこぼした。
プロデューサーは「柔らかいところや、弱いところ。誰もがそれを抱えていて、ときにはなにかの原動力でもある。大事なのは、みんながそれをどうしたいか」だと一旦結ぶ。
つまりは「その好きなものの楽しいだけじゃないことを原動力にしていけ」という逆転の発想。
光明がここで見えた。
今回のプロデューサー、デキるぞ?

ストーリーコミュ3話ではついに物語の核心に触れられる。
柚はこの3人でいっしょにいることに安心感を覚える。
「ひとやすみできる」と言うも、その「ひとやすみ」は言葉の響きや字面以上に深刻なものだった。
「明るく楽しくハッピーな柚チャンが、みんな見たいはずでしょ?アタシもそうでいたいって、ずっと思ってる」
「ふとしたときに出ちゃう側面が……ホントはあってさ。ふつうの女の子の顔。ひとやすみしてる間に……自分を見つめ直すこともできるの」
ここで冒頭で言及したオープニングのラストで柚がポロリと漏らした「ふとした側面かあ……」が再登場する。
そして柚の「ひとやすみ」は「ふとしたときに出ちゃう自分を見つめ直して明るく楽しくハッピーな柚チャンになる」ための大切な作業の時間であることが判明する。
「明るく楽しくハッピーな柚チャン」は喜多見柚を構成する全てはない。
なんならほんの一部なのかもしれない。
柚はリンリンを「ひとやすみしたら、また次を探しにいけるもんね。このユニットは、そういう場所なんだろうな、きっと」と評した。
リンリンは今や柚にとってかけがえのない居場所になっていた。
フリルドスクエアとはまた別の、柚にとって大切な大切なユニット。
どちらも絶対になくてはならないもの。

愛海もぶっちゃける。
「あたしはいまの……あざとく作ったあたしが好き」と。
「あざとく」て。
偽悪的なまでに言葉を選んでいない。
それを受けての柚の決定的な一言。
「アタシたちは選んで……アタシたちを『作ってる』」
アイドル喜多見柚、アイドル椎名法子、アイドル棟方愛海は作られた存在であるとハッキリとアイドルたち自身の口から明言された。
アイドルは日本語訳をすればまさに「偶像」だ。
それぐらいの知識は誰しもにある。
しかし実際こうして彼女たちから直接吐露されると想像以上にショックなものだった。
アイドルはパブリックイメージの結晶だ。
偶像が具現化されたもの、それこそがアイドル。

今回のイベントコミュでキーワードになっていたのが「宝物」だ。
それは彼女たちの「柔らかい部分のひみつ、自分たちを作っているきっかけ」だった。
ここでもまた「作って」が出てきた。
勘違いしてはいけないのは、「作る」は決して後ろ向きな言葉ではないことだ。
ドーナツは穴があってこそのドーナツ。
「穴」も「弱点」という意味での「穴」ではない。
穴がなければ「輪」にはならないし、なれない。
「輪」こそ「つながり」の具現化である。
プロデューサーはリンリンを「日常にやさしいつながりをくれる。甘くて楽しい君たちの大好きな姿で」ユニットだと位置づけた。
それは柚、法子、愛海に対してでもあり、彼女たちのユニットのファンたちにとってももちろんそうだ。
リンリンの輪は、リンリンとプロデューサーとファンと世界とをつなげる。

愛海はプロデューサーに「いまのあたしたちを、大事にしてくれて。……ね、プロデューサー。ありがとね」とお礼を言った。
この言葉は現在柚、法子、愛海を担当しているプロデューサー(ユーザー)及びファンに向けられた運営からの言葉でもあると受け取ってもいいだろう。
アイドルとしての自分は作られている。
それでも好きになってくれて、好きでいてくれてありがとう、と。
今回のイベントコミュは、そんなメッセージをこの3人からファンに、ユーザーに伝えさせたことに最大の意味があった。
これが速水奏や渋谷凛のような普段からメッセージ性の強いアイドルからの言葉であったのなら、「なんだいつもの感じのやつか」と流されていたかもしれない。
喜多見柚、椎名法子、棟方愛海という元気で明るいイメージが浸透している、もっと言ってしまえば日頃あまり深刻に物事を考えてそうにないように見えるミドルティーンアイドルの3人だからこそ衝撃をもって響いたのだ。

アイドルは楽しいだけじゃない。
綺麗事だけじゃない。
知ってたかもしれないけれど、改めて伝えられて、これまでと変わりなく彼女たちを愛せるのか。
リンリンが鳴らした警鐘。
それでも自信を持って「YES!」と答えられた人には、彼女たちはこれまで以上の輝きで新たな景色を我々に見せてくれることだろう。
望むところだ。
プロデューサーたるもの、愛を試されちゃったりなんかしたら、逆に燃え上がるってもんですよねえ?

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