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阪急梅田百貨店、すごい。

 よくある話として、『やたらと声をかけてくる店員さんが好きになれない』というものがある。

 ぼくもそのクチだ。そうじゃない人は、突然の訪問販売にも熱心に耳を傾けるのかと問えば、それはまた別の話だが。

 それを避けるために、きったない格好をして買い物に行くのが、お店さんサイドには悪いけど好きだ。スニーカーとジーパン、無地のねずみ色のパーカーに袖を通せば、「ああこの人は『持って』なさそうだな」と思われて、遠巻きに会釈をしてくれる確率がぐっと増える。

 カテゴリエラーの客が来たで……と思わせてしまうのは、たしかに心が若干痛まないではない。でもこれは、商売だ。向こうは買わせたいと思うし、こちらは良いものを安く買いたいと思う。呼んでもないセールストークが駆け引きなら、セールストークを遠ざけるのもまた、駆け引きの一つだろう。

 名前を出すのもはばかられるが、屋号のカメラさん(どっちかな?)は、決まってそうだ。仕事帰りにワイシャツネクタイで行くと、呼んでもないのにあっちこっちから店員さんが群がってくる。視界の端に遠くから接近してくる人影がたくさん見える。

 でもデニムにパーカーだと、エンカウント率はぐっと減る。わかりやすいくらい減る。6桁からスタートのラップトップパソコンなんかを見てると、その差は顕著だ。持ってないやつにこっちからするセールストークはねえ。と言わんばかりだ。

 いっそ、買い物袋いらないですカードよろしく、ひやかしですカードをお店側が用意してくれないかなと思わないではない。

 その点、阪急百貨店は違うな(CV:大木こだま

 大阪梅田はデパート街だ。ヨドバシもビックもあれば、ファストファッションの詰まった商業ビルもあるし、阪急、阪神、伊勢丹、大丸と、名の知れた百貨店が軒を連ねている。

 それぞれに好き好きがあって、ここのお店にしか通わないという人もいるくらい、特色は様々だ。

 だが、阪急百貨店は違う。

 彼らはすごい。

 あらゆるテナントが、どんなスタイルでも来る。ぐいぐい来る。

 スーツでも、パーカーでも、めっちゃくる。めっちゃ偉いと思う。

 どんなスタイルでも、店の敷居をまたいだ瞬間、彼らにとってはみな客なのだ。

 どんなものをお探しですか? これに似たものはたくさんありますよ。新作なんです。カラーバリエーションも豊富です。お客様のご要望を類推いたしますに、こういうパターンもございましてございます。

 店にいて、遠巻きに商品を見ていたり、フロアと店舗の境界線をまたいだ瞬間、それはもう客なのだ。カネを払う前から、彼らにとっては客なのだ。

 この感覚は、嫌いではない。呼んでもいないセールストークをされても、別にいやっけは感じない。

 なぜか。

 彼らが客の選別をしないからだ。

 それをすること自体は、別に悪いことではない。持ってないやつにこっちからするセールストークはねえ。と言う自由は当然ある。

 世間にはドレスコードだってある。紹介のない一見を断る店もある。海外では博物館や美術館ですら、ドレスコードがあるところはある。効率よく客をさばくためには、持ってなさそうな人を相手にしても、この大阪梅田という激戦区では生き残れないのだ。

 それと比較した時、あらゆる人間が財布持ってる客だ、と考える企業のほうが、好ましいと言うだけの話だ。

 ふるいにかけられて、お声のかからない買い物をするもよし、右から左まで一人も逃すなと投網を投げらるもよし、ここに、商業都市として栄えた大阪の、売り手と買い手の歴史があるのではないだろうか。

 そのすんごい阪急百貨店をしてなお、目当てのデザインのかばんは見つからない。

 世間はリュックとポーチだらけだ。

 内外に合計三つ以上のチャックがある、ファスナーで中を閉めないタイプの肩掛けカバン。どこにあるだろう。

 たとえ、「それは塾行くときのカバンや」と言われても、体はあれしか受け付けない。

 今日もまた、カバンの糸が一本ほどけた。

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