交換殺人の効用

「交換殺人」‐コウカンサツジン‐
殺意を持った複数の人物が、殺意の対象となる人物を交換して殺人を行うこと。推理小説の題材となることが多い。動機が不明確なため、殺害の容疑者になりにくく、また殺意の対象となる人物が殺害された時にアリバイを作りやすいという特徴がある。


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完全犯罪を成し遂げるために必要なことってわかる?
そうそう。
アリバイがある、動機がない、証拠がない、だな。
この点において交換殺人は非常に理にかなっているといえるよな。そこはわかってる?
あ、わかってる?そーか…

俺がお前の恨んでるやつを殺して、おまえが俺の恨んでるやつを殺す。
そうすれば、俺が殺人を犯しても動機がないから警察は俺までたどり着かない。おまえがそいつを恨んでたことがバレてもおまえにはアリバイがある。
そこまでいけば、証拠はゴミの日なんかに捨てりゃいい。

そうだよな?



じゃあ、なんで今回失敗したと思う?



俺、電話したよな?
「明日の10時にやります」って。それで…なんで…
なーんで…

同じ時間に殺しちゃうかなぁ…!?!?

びっくりしちゃったよ。
次の日警察来てるんだもん。え、バレた!?って思ったよね。
で、話聞いたら、俺が殺した斎藤さん?だっけ?
じゃなくて、俺がおまえに殺してほしいって依頼した鈴木のことだって言うからさあ。まじで驚いたよ。
そっちですか!?って言いそうになったもん。

うん。

当然アリバイも答えられなかったよ~。
だって、その時間違うやつ殺してたわけだからさあ!!

何?あぁ、おまえのとこにも。来たのね、警察。

そりゃそうだろ!!俺がちゃんとやったわけだからさあ!!
わかるでしょ~…同じタイミングで、せーのでやりましょう!なんてそんな電話しねーじゃん!?
アリバイ作っておいてくださいって意味だよ!!!

そっちかぁって……そっちもどっちもねぇよ!!!

警察がうちのなか調べ出すのも時間の問題だな。包丁と返り血が付いた服がまだ家にあんだよ。

さっさと捨てろだと?

そうしたいのは山々なんだけどさ、無理だろ。警察に目つけられてんだから。
まあ、見つけたら警察も驚くだろうけどな。
だって、思ってたのと違う方の証拠でてきちゃうわけだから。

捕まったらまじでおまえのせいだかんな…

え?ここから?


逆転完全犯罪にする??……どうやってだよ。



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なぁに、簡単なことですよ。
まあ、そう焦らないでくださいって。僕たちはとても時間をかけてこの計画を立てたわけですから、こんなことぐらいじゃあ壊れませんよ。

いや、殺害時刻のことは悪いと思ってますって。ちょっとうっかり…

……それはとりあえず置いといて、ここからどうやって完全犯罪を成功させるかですよね。

えぇと、まず、僕らは本当にやったほうの殺人容疑で捕まることはありません。
だって、連続殺人と間違われないように兇器をあなたは包丁、僕は鈍器を使うという約束をしましたよね?

そう。だから、警察があなたの部屋に探しにくるのは鈍器であって包丁じゃないんですよ。
それは永遠にあなたの部屋からは見つからないわけですから全く問題ないでしょう?

殺人の証拠だって、証拠っぽく保管するからいけないんです。
まあ、ちょっと気持ち悪いかもしれませんが、キレイに洗ってキッチン用品として普通に置いておけばいいんですよ。

あ、服?血のついた。あれも簡単に処分できます。

小さく切り刻んで少しずつ捨てるんです。
もちろん、家じゃないですよ!
駅とか、スーパーとか、ショッピングセンターとか、そういうところに設置してあるゴミ箱にです。
それも場所をバラけさせて。

ね?もう心配ないでしょう?

え、アリバイ??

そんなもんはTVerかなんかでその日のその時間のテレビでも観ておいてくださいよ。
警察になんか聞かれたらそのテレビの話をすればいいでしょ。

もう…
あ、で、最後に重要なことが。

僕の連絡先は完全に消しておいてくださいね。僕もあなたの連絡先は消しておきますから。

では、お互い逃げ切りましょうね。



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しかし、その後俺たちは両方捕まってしまった。


しかも、「本当の殺人の方で」だ。


いったいどうして俺たちは捕まってしまったのか?




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〈解決編〉


えぇ。今回はお集まりいただきありがとうございます。

これから、迷宮入りになりかけたあの2つの事件の謎についてお話しましょう!!

え?私?……警察じゃないですけど。いや、許可とかは取ってないですね。
まあまあ、細かいことは気にしない☆


さて、今回の2つの事件の奇妙な共通点は同じ日の同じ時間に違う場所で起きているということです。
そこで、私は、えーと、許可とってないから犯人の名前言うのはよくないんでしたっけ?
ん?
記者会見自体が?ダメ?……それは知らない。

えーと、だから、片方を土木作業員のAさん。もう片方を大学生のBさんとしましょう。

で、私が接触を試みたのが土木作業員のAさんです。
作業場の近くの弁当屋でいつもお弁当を買っていたようだったので、私も常連を装って近づきました。

もちろん結果は成功。

出会って数日で彼は私を家に上げてくれました。
その日、彼の犯した2つのミスに気が付いたんです。

まず、私は彼に事件の日何をしていたかを聞きました。
まあ、いわゆるアリバイってやつですね。
すると、彼はその日みたテレビ番組の話をしだしました。警察から聞いていた通りの話でした。アリバイとまでは言えませんがね。

その後、まあ、その番組の話で盛り上がりましてね!!
いや、あの番組は本当に面白いんですよ。皆さん知ってます??「No choice, No life!!」ってクイズ番組!!

え、知らない…??
人生損してますよ!!

えーと、なんでしたっけ?
あぁ、彼のミスについてね。

私たちが白熱してその話をしているとき、彼は非常に興味深い発言をしたのです。


「あの回は最後のスタジオトークが面白かったですよね」と。


でも、おかしいんです。そのクイズ番組、最後にスタジオトークなんてないんですよね。
私も最初は彼の記憶違いか、あるいは私の記憶違いかと思いましたよ。
でもね、あったんです。スタジオトーク。

いいですか、彼は警察や私にあの日家でテレビをみていたと言って「No choice, No life!!」の名前を挙げたのです。

しかし、彼の言っていたスタジオトークというのは配信限定のものだったのです!!
つまり、あの日彼は家でテレビなんかみていなかったのです。クイズ番組は後から配信をみただけ。だから、リアルタイムではその場面が放送されていなかったことに気がつかなかったのです。

ん?
あぁ、確かにテレビをみていたというのは最初からアリバイとしては弱いですけどね。
まあ、わざわざ噓をつくのはおかしいな~くらいに思っておいてください。


次が重要です。


楽しく2人で話していると彼は「ちょっとトイレ」と言って席を立ちました。
私はチャンスだと思い、あちこち見回して、あちこちを開けてみました。
すると、キッチンで妙なものを見つけましてね。

包丁ですよ。

え?別に珍しくないって??
いや、これが珍しいんですよ。

なぜなら、そのキッチンには包丁が2本もあったんですから。

おかしいと思いませんか。一人暮らしの部屋に包丁が2本もあるんですよ。しかも、普通の包丁が2本。パンを切る用とか、中華包丁とかいうわけではないんです。

ここで私はピンときました。
あの日起きたもう一つの事件、そう、大学生が背中から刺されて殺害された事件です。


この2つの事件は交換殺人だったのです!!!!


あのキッチンに置いてあった包丁は大学生の事件の凶器だったのです。
2本あったのは、流石に人を刺したもので料理はできなかったということなんでしょうね。

ま、ここまで来たら包丁を警察に調べてもらって、あとは彼を問い詰めるだけです。
そしたら、すぐにBさんのことも話してくれましたよ。所詮人殺しをするために結託しただけですから。
うまくいかなかったとき、自分だけが捕まるのは嫌ですもんね。



さあ、どうです?
これがことの真相です!!

なに?意外とあっさりしてただって!?!?

まあまあ、そんなこと言わずに。


さあ!!これからは何かあったらこの名探偵、茅ヶ崎 流太郎にお任せあれ!!!




END










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