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ウェカピポの警備員は何を警備していたのか

ウェカピポの警備員について話したい。


『ウェカピポ』は、2003年一世を風靡した革新的HIPHOPアーティストSOUL'd OUTのメジャーデビューシングルだ。
売上枚数約25万枚 日本レコード大賞ゴールドディスク受賞 週間オリコンチャート最高16位 今もなお輝く稀代の名曲である。

このウェカピポのミュージックビデオにはSOUL'd OUTが赤い部屋、緑の部屋、そして白い部屋でそれぞれ歌い、踊り、ときにはボイスパーカッションやDJプレイで観衆を湧き立たせる様子が収められている。

イメージがつきやすいよう、認知度が高いミュージックビデオとして、湘南乃風『睡蓮花』を交えて説明する。

カラオケ定番曲『睡蓮花』

のぼせた空気の会場、熱狂する人々、飛び散る汗。「濡れたまんまでいっちゃって」という刺激的かつ勢いのある歌詞。カラオケでこの映像を見たことある人も多いだろう。
ウェカピポのミュージックビデオは、睡蓮花の規模をコンパクトにまとめ上げたものだと思ってもらえれば良い。
このようなシンプルで美しい構成に水を差す人物がウェカピポには登場する。

警備員
(引用元:SOUL'd OUT オフィシャルYouTubeチャンネル)

全身を真っ青な制服で包み、少しだけ見える肌は浅黒く、年齢は35歳程度か、真っ黒なサングラスをかけており、その表情は窺い知ることができない。
この警備員が睡蓮花に登場するとしたらどうだろう、熱狂の渦にある会場、その盛り上がりはピークを迎える。RED RICEががなりを含んだ魅力的な声で「レゲエ砂浜BigWave」と歌い上げる。そこに現れる警備員。

警備員
(引用元:SOUL'd OUT オフィシャルYouTubeチャンネル)


多分ちょっとびっくりしてしまう。「灼熱のハートビート」にも気持ちが入らないし少し盛り下がる。なんなら若旦那とキャラも被っている。しかしウェカピポには警備員がいる。一体なぜか。

警備員の登場シーンを追う

① 警備員は複数のモニターが並ぶ警備室で、大騒ぎするSOUL'd OUTの姿を液晶越しに監視している。
② はじめは静観していたものの2回目のサビが終わったところで「我慢ならん」とばかりに警備室を飛び出す。
③ SOUL'd OUTがいると思しき場所に急行するが、そこに大騒ぎするSOUL'd OUTの姿はなく、チームの大黒柱Shinnosukeが鎮座しているのみ。
④ 動揺した警備員は、状況を飲み込めずエラーをはいたロボットのように、あてもなく動き回る。
ここで、今回のテーマである、この警備員は一体何を警備していたのか。について言及したい。

警備員は【地球の秩序】を警備していたのではないか。

地球も見ている
(引用元:SOUL'd OUT オフィシャルYouTubeチャンネル)

警備室のモニターには暴れ回るSOUL'd OUTの姿のほかに、地球が映し出されている。
地球全体を警備していたら、その秩序を大いに乱すSOUL'd OUTという存在を見つけ、これを鎮圧すべく警備室から飛び出した。というストーリーだ。
歌詞から推測される【地球の秩序】とは【社会の規範】【古くからの慣習】【大多数が支持する常識的行動】と読み解くことができる。
「若造がやることは大したことがない」
「女性は結婚したほうが幸せになれる」
「普通に考えて出来るわけがない」
私達の前に立ちはだかる社会的なしがらみの全てを警備員というかたちで表現しているのだ。

その警備員が革新的なHIPHOPアーティストSOUL'd OUTを取り締まろうと動いたわけだ。しかし当のSOUL'd OUTが警備員に捕らえられることはない。
ここでShinnosukeがパチンと指を鳴らすと、警備員のサングラスの奥の奥、警備員の体の内部でSOUL'd OUTが歌い続ける姿が映し出される。
SOUL'd OUTはこの警備員と直接、面と向かってぶつかることはしない、なぜならSOUL'd OUTにとって相手が何をするかは関係ないからだ、やるべきことはただ一つ、自分たちの価値が認められるまで歌い続けること。
「HIPHOPにしてはメロディアスすぎる」
「日本語ラップなんてやっぱりダサい」
「時代や世代にマッチしていない」
ここで警備員は私たち視聴者と重なる。
初めはSOUL'd OUTの音楽を理解できなかった。
しかし、繰り返し聞いていく内に段々とその魅力に気が付いた。
それは決して外から押しつけられたものではなく、まるで体の中からSOUL'd OUTが湧き上がってくるような自然な感情であった。
社会のしがらみは確かに僕らの前に立ちふさがっているが、僕らもまたそのしがらみを形成する一部のパーツにすぎないのだ。
地球の秩序を維持する警備員の正体は、僕たちそのものだったのだ。

そう考えると、赤い部屋は僕らの体を巡る血液。緑の部屋は時に緑色で描画される体中の細胞。白い部屋は頭蓋骨で覆われた僕らの頭の中。
それぞれレイヤーは違うが、私たちの内部を表現しているものと考えれば合点もいく。

ウェカピポまとめ

警備員は地球の秩序を警備しており、ぼくらもまた警備員のように社会のしがらみの一部として生きている。その中で自分の価値を表現するには、社会とぶつかるのではなく、根底から塗り替えていく覚悟で臨むべきだ。

荒荒荒波立つ ここは URBANNITE“ウェカピポ!!”
若若さの中 不確かな迷いとか“ウェカピポ!!”
逆逆逆さま WORLD の孤独に強く“ウェカピポ!!”
まだまだ 闘わねば 真実はどこだ AH AH AH!!...

SOUL'd OUT『ウェカピポ』歌詞より抜粋

社会の荒波、URBANITE(都市社会)。
若いこと未熟なことが原因の迷い。
逆境にまみれた世の中での孤独。
その中で自分のための真実を探して戦うべきだ。
WAKE UP PEOPLE 目覚めよ、人々。

そんな風にも聞こえてこないだろうかア アラララァ ア アァ!

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