名古屋刑務所見学記

2023年12月11日愛知県みよし市にある名古屋刑務所をアムネスティ・インターナショナルさんの一員になるという形で視察・見学してきました。

ここも施設内マスク着用が徹底されていましたが、刑務所からこちらに宛てた留意事項にはそのような文句は無く、「文書には書けないがマスク着用をお願いします」という奇異な形での参観でした。

名古屋刑務所の一般的な概要はWikipediaをご覧ください。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8D%E5%8F%A4%E5%B1%8B%E5%88%91%E5%8B%99%E6%89%80

以下、見学内容をまとめて箇条書きにします。わたしの専門分野である医療・福祉中心となり、法律・人権のところまで網羅できていませんがご容赦ください。

・名古屋刑務所は累犯刑務所であり、何回も懲役刑になった囚人や暴力団関係者が多い刑務所という役割を担っている。ちなみに初犯や回数が少ないのは三重刑務所。重大犯罪など刑期が重いのは岐阜刑務所。

・暴力団関係者は現役は少ないが元も含めると平成30年40.7%→令和5年31.7%と減少傾向

・令和5年11月1日現在
受刑者の定員数2,427名
入所者数810名(33.4%)
うち
精神障害73名
知的障害12名
身体上の疾患または障害404名
(高血圧、糖尿病など生活習慣病含む)

昨年1年間の死亡者13名
50代4名、60代3名、70代5名、80代1名。死亡原因は全員病死
※この死亡者の多さについて質問したところ、名古屋刑務所は全国からがん患者を受け入れていて、がんのターミナル施設になっているからとの回答だった。

・収容者は右肩下がりで減っている。
平成25年83.9%→令和4年52.2%
以前は刑務官1名で50名を見ていたのが、今は30名見ればいい。
これは全国的に犯罪率、凶悪犯罪率とも激げしているため。

・犯罪内訳
財産罪(主に窃盗)39.6%
薬物(主に覚醒罪)34.5%
性犯罪8.6%

・刑期別
5年未満75%
10年以上1%
無期懲役0.8%

・国籍別
ブラジル36.6%
ベトナム17.9%
イラン11.0%
フィリピン9.0%
中国8.3%
ペルー4.1%
その他13.2%
トルコ、ナイジェリア、ボリビア、カンボジア等
外国人受刑者総数は151名(18.6%)

入所回数では最多21回という方がいた。

・刑務官の説明によれば
刑務所からいなくなる人(1回で済む人)は社会の応援があれば再犯しない人
刑務所に残る人は社会の応援があっても再犯する人
後者は具体的に言えば、規則・常識に従えない人
その他、精神疾患者が激増しており、認知症で刑務所にいてもなぜ自分が刑を受けているのかわからない人が目立つようになってきている。

・入所者の高齢化が進んでいる(60歳以上179名22%、最高齢93歳)
病気を持っているので、毎朝点検時に健康チェックを行っている。とくに服薬。薬の管理。服役中に出てからどこの病院に行けばよいか調べてくれる。

・現在、出所時に釈放前指導をしている。一番多い相談は、「俺、どこに帰ればいいのかな?不安でたまらない」
これが解消されないと再犯が起きる。

・刑務所で行われていること
一日6時間刑務作業
週2〜3日改善指導(薬物依存離脱・暴力団離脱・性犯罪再犯防止等)
月1〜2回教科指導(学校の勉強、漢字・計算ができない者が多い)

・2025年6月1日から懲役刑がなくなる。
なぜなら働かせても意味がないから。拘禁刑という名称になり、作業が義務でなくなる。刑務所内では、その受刑者にとって一番必要なものが重点的に行われる。
上記でいうと、刑務作業がぐっと減り、改善指導、教科指導が個人に応じて増やされることが予想される。

<刑務所内実地見学>
・7〜8mの塀で囲まれ、5、6本のワイヤーが張り巡らされているが高圧電流は流れていない。代わりに微弱な電流が流れてセンサーとなっており感知するとたくさんのカメラが作動し、多くの刑務官が駆けつける。

・冷暖房は印刷工場以外はない。その理由は刑務作業の印刷物が汗で滲まないようにというもの。廊下にエアコンやストーブがあり部屋にはそれがないという倒錯した状況。
どんなに暑くても空調服などで対応している。

・入浴について
週に夏3回冬2回→年間を通じて3回に変更された。残り2日間はシャワー、掛け湯のみ。土日は部屋から出られないので拭身(タオルで身体を拭く)で対応。シャンプーは使えないが石鹸は使える。

・名古屋刑務所独自の取り組みに単独室ユニットというものがあり実際に受刑者が作業している所を見学させてもたった。
単独室ユニットとは、叫び声をあげる、糞尿を壁に塗りつけるなど精神があまりよくない状況の人を、大勢での作業場ではなく3〜4人で作業させるというもの。部屋から出られなかった受刑者がこれくらいの人数なら作業できるようになったと説明された。実際に見ると毛が薄い人、白髪の人が目立ち高齢化を感じさせた。

・アニマルセラピー(カブトムシ、めだか)も実施

・音楽療法も実施しているが、予算がないため職員が試行錯誤し工夫しながら実施。外部専門家はアドバイスのみ。

・認知症を進ませないためのユニットもある

・昭和40年代の建物群の中に、最新型のCTスキャンマシン、レントゲン室、歯科治療設備があって目を引いた。名古屋刑務所は医療に力を入れこういう設備があるから、他の刑務所の治療・検査を積極的に受け入れているという。

・それ以外にも2日に1回か3日に1回外の病院へ治療に連れて行っている。

・人工透析も17床あり7〜8名の人工透析者がいる。

・名古屋刑務所は2001年、2022年に大きな不祥事を起こしており(詳細はWikipediaを)それを受けての大きな組織改革として、明治期から変遷を経ながら続いてきた職員・受刑者の呼称制度を変えた。
・受刑者 呼び捨てから〇〇さん
・職員 ××先生から××担当さん、「おやじ」という言い方もなくした。

<永野哲嗣の質問>
刑務所内での向精神薬の濫用、副作用、依存による弊害が問題になっている。向精神薬を服用している方は何人いるか?全体の何%か?また飲みたくない人にはどう対応しているか?
<回答>
数字はここにないが、必ず医師の診察を経て処方しているので濫用はしていない。服薬は治療の一環として行っているので飲みたくない人にも飲んでもらっている。

<見学を終えての感想>
ここでも刑務所ガラガラ状態(犯罪が減っている)が確認でき、非常によいことだと思った。

高齢化、特に精神障害や認知症などメンタル面に問題の人が増えているのが実感できた。岡崎医療刑務所と同様、そのような人に無理矢理刑務作業をやらせる意味が見出せなかった。

そんな中、再来年からスタートする懲役刑の廃止と拘禁刑は歓迎すべきことだと思う。ただ出所後の連携が不十分なので、もう一歩踏み込んで刑務所内で過ごすのではなく早くから地域に出してコミュニケーションが取るなどの訓練が必要と思われた。

予算配分のアンバランス。岡崎医療刑務所と同様古い建物群を直し直し使いながらの医療設備だけは最先端。司法全体が医療利権に呑まれている印象を持った。

がん治療にしても精神科の治療にしても服薬で治療するという誤った認識のもとで全てが動いていることが確認できた。もっと突っ込んで、精神疾患のない人が不眠時や不穏時に睡眠薬や鎮静剤が処方されているか否か、依存や離脱症状などの問題の認識があるかなど突っ込んで質問していきたかったが質問数が最初から制限されていたので残念だった。

冷暖房に関しては、他の質問者とおそらく認識が異なり、ないほうが身体に良く、私自身も実生活で極限まで使わない生活を心がけて病気にならない身体になっているが、こればかりは24時間365日塀の中で暮らす受刑者ではないので、そこで暮らしてみないとわからない。

総じて言うなら、冷暖房や医療の充実を訴えるより、地域社会に溶け込めるように、心のケア、カウンセリングや様々な対人ワークなどに時間と予算を注ぎ込むべきだとの考えを強くした。

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