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雨ときどきコバエ

この時期、家の中のコバエが気になる。網戸をきっちり閉めて入る隙などないようにしているつもりなのに、一体どこから侵入してくるのか。昔よく飛んでたショウジョウバエはかなりの巨体だったが、コバエは本当に小さくて網戸の目を普通にくぐり抜けているんじゃないかと思う。怖い事だ。

コバエを見つけたら躊躇することなく、即座に手のひらでバーン!タッチの差で逃げられるととても悔しい。もう少し若い頃は片手で空中キャッチできたが、老眼の今は無理。無礼にも飲みかけのコップにとまって汚らしい素足でペタペタ歩き回っているのを見ると怒り心頭。叩くわけにもいかなくてそっと潰しにいくが、結局逃げられて余計腹が立つ。

アブラムシも素手で潰す。バラの柔らかい新芽や蕾を傷めないようにアブラムシを取るにはやっぱり素手が一番なのだ。指先が真っ黄色になるし、命を奪っている痛みも感じるが、全てはバラのため。若い頃、遠い将来コバエやアブラムシを平気で捻り潰せるような人間になろうとは想像だにしなかったよ。おばさんになるとはこういうことか。

コバエは小さな子供に似ている。幼稚園児くらいのやんちゃな男の子。私が台所に立つと必ず飛んで来て、「なになに?なに作ってるの?」ってしつこく飛び回る。肉など広げようものなら、「やったー!肉だ肉だ!」と狂喜乱舞。いくら追い払ってもどこ吹く風。

ステーキ用の豚肉に塩をすり込んだあと、えいやっと黒コショウを振りかけた時だった。嬉しそうにその辺を飛び回っていたコバエがひょいと飛び込んできた。あっと思った瞬間コバエの姿は黒コショウの波に呑まれ、忽然と消えた。

「ん?まさか…」と思って私は懸命に目を凝らして肉の表面を見つめる。悲しいかな老眼の進んだ私の目には一面の黒コショウの海からコバエを探し出す事ができない。

コバエは黒コショウにも似ている。まるで親戚同士みたい。従兄弟とか。きっとあの子は難を逃れ、素早くどこかへ飛んで行ったんだと思う事に決めた。つまりそのまま肉を焼く。豚ステーキは美味だった。



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