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べよねえプロの麻雀日記

 "学習する猿"べよねえ、"陰陽キメラ"こいしーむ、”Vtuberオタク”じーた、”眠いからミュート"ぐみ――

 四人は、麻雀卓を囲んで熱く視線をぶつからせた。

 ――私の名はべよねえ。プロ雀士だ。8月某日、秘密の麻雀卓に集った我々は、闇の麻雀会を行った。これは、その記憶である――


 麻雀開始直前。私は、ゴクリと喉を鳴らした。自分でも分かるが、かなり緊張している。正直に言おう。私は、卓を囲む他の三人を恐れていたのだ。

 特に注意すべきは、”陰陽キメラ”こいしーむ。彼は陽キャかと思えば陰キャの一面も見せ、陰キャだと思えば「自撮り」や「彼女ツイ」で陽キャだと思い知らせてくる恐ろしいキメラだ。彼は、陽キャ(陰キャ)※陽キャ P.S.陰キャ 追伸・陽キャ なのである。

 他の二人も相当の実力者だ。”眠いからミュート"ぐみは寡黙ながら堅実な麻雀でかなり手強いし、”Vtuberオタク”じーたはVtuberがかなり好きなのである。

 勝負は一瞬。先手を取った者が勝つ。それが麻雀だ。それ故に、全員が日本人特有の空気の読み合いで、先手を言い出すタイミングを探っている。「中学の時のなかなか決まらない学級委員長決め」みたいな雰囲気だ。

(くそ・・・・・・・・・・・・・・!! 先手を取れば勝てるが、なんか浮いてる奴みたいに思われたくない・・・・・・・・・・!!)

 プロ雀士である私も、この空気にはいつも押しつぶされそうになる。・・・・・・しかし、私は負けられない! プロがアマに負けてたまるか! いくぞ!!!

「あの、わ、私が最初でもいいでs」

「俺の先行!!!!!!!!!! ドローーーーー!!!!!!」

 な、ナ、ナニイイイイイイイイイィィィィィ!!!!!!!!!!!!

 私の声を遮ったのはこいしーむ。アニメ版遊戯王のような理不尽さで先行をもぎ取っていった。

「ガッチャ! いい麻雀だったぜ!!」

 こいしーむは真ん中あたりに並べられていた牌を自分の方に引き寄せ、良い感じに並べた後にパタンと倒した。

 こいしーむ、『役満』。


(くそ! こいつ! やはり、もっと警戒すべきだった!! やっぱり陽キャじゃないか!)

 私は激しく後悔したが、今は切り替えなくてはならない。一戦目はすでに取られてしまったのだ。

 二戦目において、先手を取るのはさほど重要ではない。それゆえ、麻雀は私から緩やかに始まり、ゆったりとしたラリーを奏で始めた。

 ここで私は、”Vtuberオタク”じーたがニヤついているのに気づいた。お気に入りのVtuberでも見つけたのだろうか?

「ククク・・・・・・・・・・・・。揃ってきた揃ってきた。みんなには、覚悟してもろて」

 何やら呟いている。ちなみに、「もろて」というのはV界隈で流行っている言い回しだ。「~してもらって」という意味らしい。・・・・・・(笑)。

「おいおいじーた、ホントにいけんのか? ミスったら大変なことになるぜ?」

 一歩リードしているこいしーむがじーたに話しかける。

「僕は麻雀系Vtuberのメンバーでしてね。あまり舐めないでもろて」

「あ、え、そ、そうなんだ・・・・・・。デュフw・・・・・・・・・。」

 なんと、じーたは麻雀系Vtuberのメンバーシップ登録をしていた! これには流石のこいしーむも面食らったようで、男子校出身の陰キャっぽくなっている。私も手の震えが収まらない。

 ラリーが続き、しばらく経った。

「キタ! キタキタキタあああああ!!!! ツモ! してもろて!!!!」

 遂に、じーたが牌を良い感じに揃えてツモってしまった。二戦目は奴の手に落ちたか・・・・・・。

 と、その時。

”ぐみから新着メッセージが届きました。『ダウト』”

 ”眠いからミュート"ぐみから「ダウト」というメッセージが届いた。・・・・・・・・・・・・ま、まさか!!?

「ぐああああああああ!!!!? バレてもろて!!!」

 ドンガラガッシャーンッッ!!

 じーたが吹き飛んだ音が聞こえる。やはり、奴はウソをついていたか。

 本当は、麻雀系Vtuberのメンバーになどなっておらず、チャンネル登録をしていただけなのだろう。心理戦の麻雀に、ウソは御法度なのである。

 じーたの方から、牌がいっぱい取られ、ぐみの牌が良い感じになってパタンと倒れた。

 じーた、『ダウト』。

 ぐみ、『ロン』。


 じーたの方から、犬の吠える声が聞こえる。『ダウト』は麻雀の禁止行為で、反した者には天罰が下る。きっと、魔獣ケルベロスに食い散らかされているのだろう。

 私の震えは止まらない。なんてハイレベルな麻雀なんだ。プロ雀士の私が、圧倒されている・・・・・・・・・・・・?

 現在の点数は、こいしーむ8000点、ぐみ9000000点、私1000点、じーた失格である。三人になったものの、プロの私が三位になっている。これは気に入らない。

 やれやれ、仕方ない。

「見せてやるよ・・・・・・!! プロの麻雀ってやつをな!!」

 ここから、私の反撃が始まる。

 私は吠えると、手持ちの牌を竹っぽいやつでいっぱいにし始めた・・・・・・!


                                続く

 

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