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【ドラマ感想】私の夫は冷凍庫に眠っている

昨日殺して、冷凍庫に入れたはずなのに…。

ドラマは性暴力と殺害シーンから始まり、夏奈は解放された喜びを全身で表現する。その怪しげな様子から、夏奈が同情すべき普通の女性ではなさそうだと察しがつく。

翌朝、何事もなかったかのように笑顔で現れる婚約者、亮。戻ってきた亮には秘密があり、暴力に耐える犠牲者のように見えた夏奈にもまた、秘めた過去があったのだった。

映像化されたミステリーの王道ともいうべき、美しく官能的な表現。登場人物のほとんどが自己中心的で衝動的に行動し、秘密を抱え、閉じて自己完結した世界でストーリーが静かに、しかし圧倒的なスピードで進行する。猟奇的な表現はあるが、直接的なシーンは少ないためホラー要素はそこまで濃くない。謎が謎を呼び、先が読めない展開が後を引く。

これはあくまで個人的な考えだが…。事件も葛藤も他者がいて初めて成立するものではあるが、結局内向きに個人の世界に回帰していく閉塞感、ナルシスティックな自己中心性に、ミステリーと文学の近似性があると思う。ヒヤッとしたり、ゾクッとしたり、その不気味さに恐怖しつつも、どこか共感を覚えたりする。社会的な正義の及ばない世界で、普段は理性で抑えている自分の衝動、満たされない渇望を物語に代弁してもらい、満足する。浸り、浄化され、現実に戻ることで、夢から覚めるのだ。傷つけられ、殺されるキャラクターは、夢から覚めてしまえば記号のようだと感じる。自己を正当化してはならない。夢が夢であるために、彼らもまた、都合良く理想化されているというわけだ。だから公に出る作品としてのミステリーや文学は、自分の人格的な未熟さから目を背けるだけの、幼稚な中二病で終わらないように描くことが大切になってくる。

その点このドラマは、人間不信に加え心のどこかに罪悪感があり、悪人にも一般人にもなれない夏奈が、自分の過去を受け入れてサイコパスよろしく覚醒していく過程が見どころ。親殺しの過去を共有する義母との関係を修復、孔雀は原稿を焼き捨てる。そして、一般人が共感できるところから、「そこまでは倫理的についていけない」一線を超える瞬間が最終話に描かれる。己の幸せのためには邪魔者の殺害などためらわない冷酷さ。ウェディングドレスを着た夏奈の美しさに、半グレの久保田奏が霞んで見える程だ。

限られた登場人物、限られた行動範囲の中で描き切ったこの世界観を、加奈と亮&奏のラブサスペンスと見るか、夏奈の覚醒ストーリーと見るか。個人的には、双子の設定にあまり現実味やロマンスが感じられず、愛の必然性も感じられなかったため、後者の視点で見た方がしっくりくる。一方、ラブサスペンスとして見た方が、自分を殺すかもしれない相手と愛し合うというスリル、安堵することのない不気味さを味わえるので、その方が良いという向きもいらっしゃるかもしれない。

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公式HP:https://www.tv-tokyo.co.jp/watashino_otto/

番組名:「私の夫は冷凍庫に眠っている」(全6話)

主題歌:「金魚すくい」(MATSURI)

※上記情報は公式HPから引用しています。

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