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出来ないから出来るへ変わる瞬間

中学生のとき、吹奏楽部に所属していた。

所属するきっかけは、入学オリエンテーションで先輩達の演奏を聴いたからだった。

前例でクラリネットを吹く先輩達がカッコ良く見えた。

「私も先輩みたいにクラリネット吹いてみたい!」

そう思うようになった。



中学校に入学してしばらく経った放課後、勇気を出して音楽室に行き、体験入部をしたいと顧問の先生に言った。

そしてクラリネットの練習風景を見させてもらったが、何かしっくりこなかった。

クラリネット吹くのは楽しそうなんだけど、先輩達と合わなかった。先輩達のノリとかテンションが軽く感じ、この人達と一緒に過ごすのは難しいなと感じるようになった。



1日体験入部した後、顧問の先生と面接をした。

思ってたより合わなさそうとか、適当な理由でクラリネット吹くのを断った。先輩達と合わないからなんて言えなかった。

すると先生はこう言った。

「サックス吹いてみるか?」

正直、当時はサックスという楽器を知らなかった。でも他の楽器に興味なかったので、先生に言われるままサックス担当の先輩達に会い、試しにサックスを吹かせてもらった。

音は出なかった。でも先輩は

「1週間くらいで音出るようになるよ」と言ってくれた。

少し練習したら吹けそうだし、それにクラリネットの先輩よりは合いそうだ。



よし、決めた。
この楽器を吹こう。

担当楽器はサックスに決まった。

3日間ほど練習し、音が出るようになった。

問題は譜面読みだった。

吹奏楽未経験で、もちろん楽譜は読めない。

最初は先輩から曲のリズムを教えてもらって吹いていた。

だけど、毎回先輩をつかまえてリズムを教えてもらう訳にはいかない。

あと、先輩に楽譜の読み方教えてくださいなんて、聞く勇気がなかった。

どうしようか悩んだ結果、独学で譜面読みに挑戦することにした。



音符の知識は音楽の授業で見につけていた。四分音符は一拍だから、メトロノームの振り子が左から右に移動するまでが一拍、など私なりの方法で譜面のリズムを読む練習をした。

当時私にメトロノーム買うお金はなかった。我が家は裕福ではないので、買ってほしいと親に頼めなかった。

メトロノームが無い代わりに、自分の人差し指を振り子の代わりにして練習してた。

そんな練習を続けているある日、それを見かねた母がメトロノームを買ってくれた。

家計が厳しいなか買ってくれたのはもちろん嬉しかったが、それ以上に陰ながら私が練習している様子を見てくれてたことが嬉しかった。



メトロノームがあることで、譜面読みの練習がやり易くなった。

そうとはいえ、このやり方ですぐ楽譜が読める訳でもなく、いざ曲吹きの練習をすると、リズムが取れない時が多かった。

それでも、譜面を読む練習と個人の曲吹き練習を繰り返しやり、全体合奏に参加してた。

知識として頭では理解しているつもりでも、全体合奏の時は周りの部員達が吹くメロディーにつられて上手く吹けないことも多々あった。

同じようなリズムの繰り返しだと、楽譜を読み間違えて皆と音が合わないこともあった。

でも、続ければ徐々に読めるようになると思っていた。



そんな生活をして一か月ぐらい経ったある日、全体合奏に参加してた時だった。

「あ、楽譜読めた!」

急に楽譜が読めるようになったのだ。

自転車に乗れたり、車の運転ができるようになることと感覚が似ている。

だけど徐々にではなく、急に読めるようになったのだ。

言葉で上手く表現できないけど、ふと良いアイデアが湧いてくる感じに似ている。

でも、それ以上の衝撃を受けた気がする。

この衝撃は20年以上経った今でも身体に残っている。

何の前触れもなく、本当に急だったので、自分自身に驚いた。

語学留学して急に話せるようになる人って、こんな感じなのかと思った。

出来ないから、出来るへ変わった瞬間だった。

出来なかったことが出来るって、こんなに嬉しくて、楽しいんだ。

一気に世界が広がった気がした。



楽譜が読めるようになってからは、演奏がより楽しくなった。練習もだいぶ上手くいくようになった。

結局中学三年間、吹奏楽部でサックスを吹き続けることができた。

中学三年間の間、たくさんの曲を吹くことができ、いくつかコンクールに参加して金賞を頂くこともできた。

吹奏楽を通して多くの人に出会い、色んな所で演奏できた。

吹奏楽部でサックスを吹いた3年間は新しい世界の連続で大変なときもあったけど、それ以上に楽しくてワクワクしてた。



社会人になってからも数年間サックス演奏をしていたが、練習時間の捻出や練習場所の確保が難しくなり、演奏を諦めた。



だが、楽器演奏はまだ諦めていない。

今度はピアノ演奏ができるようになりたい。

昔からピアノを弾けるようになりたいと、頭の片隅で思っていた。

あと、キーボードにヘッドホンを付ければ自宅でも練習できるし、何より一人で演奏できると思ったからだ。

譜面読みは大丈夫だと思うけど、ピアノの弾き方など、初めての事も多い。

でも、不安より楽しみの方が大きい。

サックスが吹けるようになって楽譜が読めるようになった中学生のときのように、新しい世界に踏み入れてみたい。

まだ見ぬ新しい世界を見て、感じたい。

今度はどんな世界が広がるのだろう。

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