見出し画像

異端の鳥 The Painted Bird

以前、異端の鳥という映画を観に行きまして、
そろそろ上映も終了なのを機に、今月1日に2回目の観賞へ行きました。
こういうリアルタイムでやっている映画を複数回観るのは、
ゴジラ遊戯王以来です。

画像1

あらすじとしては、

ホロコーストを逃れたユダヤ人の少年が、
行く先々で周囲の人間から酷い目に遭うという地獄巡りな作品です。

それだけといえばそれだけなので、読んだ限りでは重たい内容ですが、
実際に観るとやはり重たい作品です。

とはいえ、2回目の観賞で気がつきましたが、
重たい内容、上映時間約3時間、全編白黒、
にも関わらず、映画としてはスムーズな進行でした。
少年が主役の1本の映画なのですが、章立てて話は進んで行くので、どこか短編集的な側面もあり、集中力が切れることなく観ていられるのですね。
ただ映画の中心はやはり少年でして、群像劇を思わせていても、少年は狂言回しだけに留まらず主役として機能してくれるので感情移入もできます。

あらすじは少年が酷い目に遭うと書いたのですが、実は途中の章からその趣きが変わってきまして、そういう転換点があるのも観やすい理由になると思っています。
ちなみに各章ですが、
1章:叔母と暮らす
2章:占い師に飼われる
3章:粉屋の夫婦の痴話喧嘩に巻き込まれる
4章:鳥飼の人と暮らす
5章:ナチスの老兵に殺されかけるも見逃される
6章:小児性愛者の男に飼われる
7章:一人暮らしの女性と暮らす
8章:ソ連兵に助けられる
9章:父親と再開

と順番は違っているかもしれませんが、ざっとこんな感じになっていて、各章で少年以外の人物が入れ替わってドラマが展開されるわけですが、ちょうど6章から少年の人格と物語に転換が訪れます。6章までは少年は一方的に虐げられる側の人間だったのですが、6章に自分の主人の男を殺害してから変わっていきます。
7章の女性とはなし崩し的に性的関係を持つのですが、恐らく前章の男からの性的暴行が原因で少年は性的不能でして、それがきっかけで女性との関係は破綻していきます。女性も飼っているヤギと性交渉を図るという行為に出て、少年は作中で見せたことのないような凶暴性で一人暴れます。結果的に少年はそのヤギの首を切り取り、女性が寝ているところへ投げ込んで出奔します。
8章ではソ連兵から戦争孤児であることを憐れまれ、しばらく預かってもらい、そこで、目には目を、のハンブラビ法典的なものを教わります。
9章ではソ連軍の元から孤児院へと行くわけなのですが、市場でユダヤ人と罵倒して殴ってきた男性を殺害してしまいます。
最終的には父親に引き取られるのですが、父親との再開後も口は利かずに暴れるという、すっかり1章のころとは様相が変わってしまいます。

なかなかに重たい内容で鑑賞難易度は跳ね上がりそうなのですが、もっというとストーリーに具体的な解説はないので、ホロコーストから逃れたユダヤ人の少年、という部分も前情報があってはじめて理解できるものです。当時の東欧に詳しい方なら映像である程度察することはできると思うのですが、なければはっきりいってなんじゃこりゃって作りだと思います。
サブテキストがないと一気に感じ方の変わってしまう映画ですが、なかにはサブテキストを読み込んでも意味不明、というよりつまらない映画もあるので、それらに比べればこの作品はとても優秀な作品だと思います。

とまあ、はっきりいって重たい内容であることは変わりないのですが、章立てられているのと、6章を機にストーリーも少年の人格も変化が訪れて、飽きがこない作りなので、映画としての出来は抜群です。今回は劇場で2回観たのですが、そのうちNetflixかアマゾンプライムあたりでの配信もあるでしょうし、名画座などでの上映もありそうなので、そのときはまた観てみたいなと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?