Spilt Milk
https://note.com/ginghamcheck/n/nfae30987b6f1
#100文字ドラマ「人生リハーサル」のシナリオ化
【人物表】
小川 貴志(22歳)タカ。プロボクサー
北島 一朗(11歳)イチ。タカの唯一のファン
小口 忠守(50歳)タカのトレーナー
【プロット】
「覆水盆に返らず」という諺がある。英語では「It Is no use crying over spilt milk」要するにやってしまったことを後悔しても仕方ないということ。とは言っても後悔なく生きるのは難しい。でも、もしやり直しがきくとしたら……。
タカ(22)は自信を持てないプロボクサー。唯一無二のファンは小学生のイチ(11)。そんなタカが新鋭最強ボクサーの対戦相手に指名される。咬ませ犬的なマッチメイクに躊躇するタカだったが、いつも一人ぼっちのイチを勇気づけるために試合を受ける決断をする。試合は善戦するもKO負け。しかし、翌朝起きると試合当日の朝に戻っていた。再度行った試合は逆転勝利。その日からずっとリハーサル日と本番日と1日が2回訪れる人生に。まさに覆水盆に返ってしまう生活。やり直しがきく分、自信を持って行動できる様になったタカは我が世の春を謳歌。試合も連戦連勝で人気者に。一方、イチはタカと疎遠になってしまい、寂しさのあまり不良グループと行動する様になってしまう……。
【シナリオ】
○ボクシングジム
ジムワークに精を出すタカ(22)。サンドバッグにミット打ちetc.
N 「俺はタカ。職業プロボクサー。とは言ってもファイトマネーだけでは食べていけないのでバイトをしながら食いつないでいる。
俺の学生時代は何をやっても上手くいかず後悔の毎日。そんな自分を払拭するためプロボクサーを目指し上京してきた。一生懸命練習しているが現実は甘くない。3年前にデビューしたがあまり褒められた戦績ではない」
○河川敷沿いの道
ロードワークしているタカ。
脇道からイチ(11)が走って合流する。
笑顔で併走する二人。
やがて河川敷の芝生に降りてきた二人。
タカはフィジカルトレーニングを始める。それをサポートするイチ。
N 「人付き合いの苦手な俺に友達はいない。唯一のファンがイチ。両親は子育てを放棄していて、イチはいつも一人でこの河川敷に居た。はじめは心を閉ざしていたけれど、だんだんと打ち解けてきて今では大の仲良しとなった。
○河川敷のベンチ
タカとイチが座っている。
タカがリュックから調理パンを取り出し半分にちぎってイチに渡す。
イチはそのパンにむしゃぶりつく。
N 「また母ちゃん帰ってこなかったのか」
パンをほうばりながら頷くイチ。
牛乳瓶を取り出して飲むタカ。イチにも飲ませる。
タカ「お前も大変だけど、嫌なことがあれば必ずいいこともある。最近何かいいことあったか」
頷くイチ。
タカ「ほんとか。俺なんか何もないぞ。このっ、なんだいいことって」
イチ「チンチンに毛が生えた」
タカ牛乳を吹き出し、持っていた牛乳瓶を倒してしまう。
倒れた牛乳瓶から牛乳が流れ出る。
○タイトル「Spilt Milk」
○河川敷沿いの道(夕景)
タカとイチが並んで歩いている。
イチ「タカって強いんでしょ、ボクシング」
タカ「あったり前だ。決まってんだろ」
イチ「じゃこの前の試合、勝ったんでしょ」
タカ「あれか、そう、だからあの日は朝から腹が痛くて」
イチ「負けちゃったん」
タカ「まあ、そんな日もあるてことよ」
イチ「タカの試合ってテレビでやんないの」
タカ、バツが悪いか走り出す。
待ってよー、と追いかけるイチ。
○ボクシングジム入り口
タカとイチが走ってやってくる。
タカのトレーナー小口(50)が待っている。
タカ「あっトレーナー、ちわっす」
小口、やってきたイチの頭を手でもみくちゃにする。
イチ、小口の手を持って抵抗する。
小口「お前携帯見ないから。ずっと待ってたんだぞ」
タカ「えっ、俺何かやっちゃいましたか」
小口「猪口からお前に試合の申し込みがあった」
一瞬にして顔が青ざめて絶句するタカ。
イチ「俺知ってる。その人すごい強い人でしょ。テレビで見た」
タカ「小口さん、ちょっと待って下さい。それってやばいでしょ(小声)」
イチ「すごいよー。タカやっぱり強かったんだね、そんな有名な選手と」
タカ「イチ、もう遅いからお前は帰れ」
イチ「えー、いつ、いつやるの試合。テレビでやるでしょ」
タカ、イチの背中を押して帰らせる。
× × ×
困った顔で小口と話しているタカ
N 「アマチュアで輝かしい成績を残してプロデビューする猪口。試合日程もテレビ放映も決まっていたが対戦相手が逃げたらしい。相手はモンスター、誰だって咬ませ犬になんかなりたくない。全国ネットで惨めな姿を晒したくない……」
N「数日後、イチに問い詰められて試合を断ったことを伝えたら、イチは怒ってそれから河川敷に来なくなってしまった」
○公園の片隅
イチが数人の少年に囲まれている。
少年「お前嘘ついただろ。ボクサーと友達って。試合テレビでやるからって言ってたよな。それ何時だよ」
少年達はイチの肩を押して壁に追いやっている。
反抗できないイチ。
○ボクシングジム
小口に頭を下げているタカ。何かを懇願している。
N 「試合を断ったことを告げた時のイチの顔が頭から離れなかった俺は覚悟を決めた。一度断った話だったがトレーナーに頼んで、猪口側に話を復活させてもらった」
必死にサンドバックを打つタカ。
歯を食いしばりながらフィジカルトレーニングをこなすタカ。
日めくりカレンダーがめくられていく……。
N 「相手がモンスターだろうが誰だろうが、やるからには惨めな試合はできない。俺は命を賭けて必死に練習した。唯一のファン、イチのためにも」
× × ×
「来週土曜日7時30分。テレビ東京を見ろ。タカ」と書いてあるメモ紙。
その紙を見ているイチ。拳を強く握っている。
○試合会場
明るいライトに照らされた四角いリング(俯瞰)。
「カーン」と言うゴングの音とともに二人のボクサーが拳を交わす。
N 「戦前の予想に反して俺はよく闘った。でも猪口はまさにモンスターだった。得意の右フックをモロに食らってしまった俺はKOされた」
スローモーションでリングに倒れるタカ。
カンカンカンカーンというゴング。
タカの元に走る小口。
○タカの部屋(夜)
タカが手鏡に自分の顔を映している。
瞼に絆創膏。顔全体が赤く腫れ上がっている。
タカ「こっ酷くやられたなぁ。でもチャンスかあった。あの右さえ食わなければ」
クソっ!とテーブルに頭をぶつけてうつ伏せになる。
そのまま眠りにつくタカ。
× × ×
タカの夢(ぼんやりとした映像)
マイケルジャクソンの様に後ろ向きに歩く人々。
道を走る車が全部バックしている。
バックする宣伝カーの音声と音楽が逆回転。
KOされた自分が起き上がってファイティングポーズ。
倒れている牛乳瓶が起き上がり溢れた牛乳が瓶に吸い込まれる。
× × ×
飛び起きるタカ。汗びっしょり。朝になっている。
タカ「なんだよこのリアル過ぎる夢は」
寝ぼけながら目をこすると手に腫れが伝わってこない。
不審に思って手鏡を覗くと顔が無傷になっている。
タカ「えーーー、なんだこりゃ」
慌ててテレビとつけるタカ。
N 「テレビには試合の日の朝に放映されていた、前日計量で秤に乗っている俺の映像が写っていた」
タカ、慌てて電話をかける。
タカ「おはようございます。小口さんすか。はい、はい、逃げてなんかいませんよ。はい、5時に、はい、頑張ります」
N 「完全に時間が戻っていた」
○試合会場エントランス
時計を見ながら待っている小口。
小口「遅いぞタカ。さぁ行くぞ大勝負だ。右フック。右フックだけは貰うなよ。左のガード絶対下げるな。聞いてんのか」
タカ「は、ハィ。左ガードですね」
○試合会場
明るいライトに照らされた四角いリング(俯瞰)。
「カーン」と言うゴングの音とともに二人のボクサーが拳を交わす。
N 「リハ日の試合同様、俺はよく闘った。でも多くのパンチを貰いコーナーに追い詰められた。そして倒された猪口のフィニッシュパンチが飛んできた。俺はその右フックに左ストレートを合わせた」
スローモーションでリングに倒れる猪口。
カンカンカンカーンというゴング。
タカの元に走って抱きつく小口。
○電気店の店頭
売り物のテレビにタカを肩車する小口が映っている。
テレビを見ているイチの目に涙。
○ボクシングジム
椅子に座って取材を受けているタカ。
数多くの記者、カメラマンがタカを囲んでいる。
N 「モンスター相手に大番狂わせの逆転KO勝ちをした俺は一躍時の人となった。環境も改善され専属のフィジカルトレーナーがつき、河川敷には行かなくなった」
トレーナーの指示に従ってマシントレーニングをしてるタカ。
× × ×
ファッション雑誌の取材で撮影しているタカ。
× × ×
バラエティ番組でクイズに答えているタカ。
N 「俺の人生は180度変わった。ボクシングの練習以外に一日のスケジュールは分単位で組まれている。俺の周りにはいつも数多くの取り巻きがいた」
○河川敷(夕方)
芝生の上で一人膝を抱えてタカを待っているイチ。
諦めた様に立ち上がり歩き出す。
○試合会場
タカがパンチを繰り出す。
相手がリングの上に倒れる。
倒れた相手を見下ろして得意げなタカ。
N 「あの試合から、俺は連戦連勝。リハ日の試合の反省を踏まえて本番がある。負ける気がしなかった」
○レストラン
綺麗な女性と食事をしているタカ。
楽しそうに話をしてると、色紙を持った親子がやってくる。
慣れた手つきでサインをして握手をするタカ。
N 「この現象が起こってから、俺は何事においても自信を持って行動できる様になった。何しろ本番前にリハーサル日が用意されている。失敗してもやり直しが効く。まさに覆水盆に返ってしまうのだから」
○夜の街
イチが歩いている。
後ろから不良中学生に声をかけられる。
不良達はイチに対してフレンドリーに接している。
不良達とイチはゲームセンターに入っていく。
○ホテルの広間(調印式)
東洋太平洋バンタム級タイトルマッチの看板が掲げられている。
純白のシーツがかかっている長テーブル。
両端にタカとベルトを前に置いているチャンピオン。
N 「遂に待ち望んでいたタイトルマッチが決まった」
顔を近づけてファイティングポーズをとる二人。
タカを挑発するチャンピオン。一触即発な雰囲気。
○試合会場
強いスポットライトに照らされているリング。
リングアナウンサーのコールで観客にアピールするタカ。
そのタカの姿に対して侮辱する様な態度のチャンピオン。
N 「大事なタイトルマッチ。俺はリハ日の試合を冷静に闘い本番日に備える作戦だった。しかし、度重なるチャンピオンの挑発に乗って冷静さを失いゴングとともに強引に倒しにかかった。俺は完全に術中に嵌ってしまった。試合は1ラウンドであっけなく終わった」
マットの上で大の字になって倒れているタカ。
○ドンキホーテ
不良中学生と一緒に店内を歩くイチ。
中学生に商品を万引きする様に促される。
イチ、商品に伸ばした手が震えている。
その手を引き戻すと取り囲んでいた不良達を突き飛ばして逃げる。
イチの後を追いかける不良達。
○夜の街
パーカーのフードを深めに被って人目を避ける様に歩くタカ。
N 「思いもよらぬ惨めな初回KO負け。俺はマスコミを振り切るためシャワーも浴びずに裏口から会場を後にした」
タクシー乗り場で待っているタカ。時計を見ると8時15分。
突然「待てー」という大きな声が聞こえ、振り返るとイチが走っている。
イチを追いかけている不良達。
タカは慌てて不良達を追って走り出す。
追いつかれたイチは逃げ場を失いカードレールを越えて車道に飛び出す。
イチの驚いた顔。
迫るトラック。
「キーーー」というブレーキの音とイチが跳ねらられた音。
走っていたタカは膝から崩れ落ちる。
× × ×
倒れた牛乳瓶から溢れた牛乳が元の牛乳瓶に戻っていく。
○タカの家(朝)
ハッと目がさめるタカ。
慌てて身支度をして外出する。
○街の道
イチを必死に探すタカ。
中学生を見つけると話しかけている。
○河川敷
大声をあげてイチを呼ぶタカ。
ブルーシートのおじさんに話しかけている。
ベンチに座って頭を抱えている。
携帯が鳴っている。その先はトレーナーの小口。
小口「お前なにやってんだ。今どこだ(電話の声)」
○強い照明が当たっているリング
リングアナウンサーが両者の紹介をしてる。
名前を呼ばれたタカだが心ここに在らず、場内の大時計をみる。
大時計は7時20分を示している。
カーンとゴングが鳴った。
リハ日に貰ったチャンピオンのパンチに対し強烈なカウンターを放つタカ。
チャンピオンは堪らずリングに這う。
試合が決まったと確信してリングを後にしようとするタカ。
しかし、チャンピオンはカウント9で立ち上がる。
N 「1ラウンドのピンチを凌いだチャンピオンは息を吹き返し、試合は激しい撃ち合いの好試合になった」
コーナーに戻るタカ。
小口「いいぞタカ、…………………」
小口の声が耳に入ってこないタカ。場内の大時計を見ると7時45分
N 「ラウンドはどんどん重ねられていき10ラウンドが終わった」
小口「よし。ポイントは取ってる。あと、あと2ラウンドでチャンピオンだ」
場内の大時計を見るタカ。8時を少し過ぎている。
タカ「トレーナーすみません」
タカはロープをくぐるとガウンを手に取り出口に疾走する。
場内あまりの驚きにシーンと静まり返っている。
小口は何が起きたか理解できず呆気にとられている。
○夜の街
ガウンをなびかせて疾走するタカ。
ビルに掲げてあるデジタル時計が8時14分を示している。
ドンキホーテの近くに来るとリハ日同様イチが逃げている。
走りのギアを上げたタカは事故が起こった現場に向かって走る。
タカ「イチー、止まれ(叫ぶ)」
タカの声が聞こえないイチはガードレールを飛び越えようとする。
その瞬間タカがイチをタックル。イチの驚いた顔。
そのすぐ横をトラックが走りすぎる。
タカ「ごめん、俺が悪かった。寂しい思いをさせちまって」
タカ、イチを抱きしめる。
○河川敷のベンチ
座っているタカ。吹き出る汗をタオルで拭っている。
N 「イチを助けたあの日から、リハ日は起こらなくなり元の日常に戻った。ヒーローと持て囃していたマスコミは、手のひらを返し敵前逃亡した卑怯者と俺を叩き続けた。そして、俺の取り巻きだった人達はみんな去って行った。
遠くからイチが走って来る。
N 「またイチだけが俺の唯一のファンとなった。やり直しがきく人生を経験した俺。それはそれでいい教訓と想い出となった。
覆水盆に返らずという諺を英和辞典で調べると`It is no use crying over soilt milk'と書いてある。こぼしたミルクを嘆いても仕方ないと言うことだろう。そう、起こってしまったことについてどう嘆いても意味がない。だから俺は前を向く。まだ夢を諦めた訳ではない。行けるところまで走っていくしかない。そう思える様になった……」
走ってきたイチがタカの隣に座る。
タカ、リュックから調理パンを出して半分ちぎりイチに渡す。
パンを口いっぱいにほうばる二人。
タカ「イチ、最近何かいいことあったか」
う〜んと考えた後、ハッと気づいて。
イチ「あった」
タカ「おっ、なんだいいことって(牛乳を飲みながら)」
イチ「彼女が出来た」
タカ、牛乳を吹き出して牛乳瓶を落としてしまう。
瓶から牛乳が溢れ出ている。
慌てて拾おうとするが止める。
タカ「まいっか、溢れちまったもんは仕方ない」
イチ「そうそう」
タカ「お前、急に色気付きやがって。このやろう」
タカがイチをヘッドロックする。
終わり
#テレ東ドラマシナリオ
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