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読書日記

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読んだ本の紹介と、読書感想文になります。
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2019年5月の記事一覧

小説「騎士団長殺し」の読後感【読書日記】

2017/06/11:ブログ転載記事 「あらすじ」 妻との離婚話しから自宅を離れ、友人の父親である日本画家のアトリエに借り暮らしすることになった肖像画家の「私」は、アトリエの屋根裏で『騎士団長殺し』というタイトルの日本画を発見する。アトリエ裏の雑木林に小さな祠と石積みの塚があり、塚を掘ると地中から石組みの石室が現れ、中には仏具と思われる鈴が納められていた。日本画と石室・鈴を解放したことでイデアが顕れ、さまざまな事象が連鎖する不思議な出来事へと巻き込まれてゆく。 出典: ウィ

小説『嫌われ松子の一生』の読後感【読書日記】

『嫌われ松子の一生』は山田宗樹氏の小説で、鮮やかな転落劇を思わせる作品です。 2003年発売当時から話題になった小説ですが、私は小説も映画も観ています。映画の場合、中谷美紀が主演を熱演しながらコミカルな演技を披露して、話題を呼んだそうです。 小説は、ある事件で中学教師の職を追われた松子が転落していく様子が描かれています。 「転落してゆく松子の一生は、自業自得だからやむを得ない」と思わせるような物語です。しかし、シリアスとコミカルを強調して描かれる松子の一生は、悲壮感があ

小説『桜雨』の読後感【読書日記】

桜雨 (集英社文庫) 文庫 ? 1998/10 坂東 真砂子 (著) 坂東真砂子氏の小説を読むのは二作目になります。前回は『死国』でした。 この小説の構成は巧みであり、読者を飽きさせない作り方に感心してしまいました。また、女の情念が過敏に、そして多層的に語られ、興味を引く物語になっている印象を強く受けました。 とても、男の書き手では描けない世界を描いているように感じられ、また、心理描写が巧みであることに思わず唸ってしまいました。 小説『桜雨』は、多くの資料を基に

「夜明けの星」の読後感【読書日記】

夜明けの星 (文春文庫) 池波 正太郎(著) 小説の題名を忘れることが多いせいか、図書館で借りた小説を読み始めてから既読していたことを知ることがあります。 けれど、味わい深い池波 正太郎氏の作品であれば、読み返してしまいます。何度でも味わえる物語に出会い、凡庸な日常の生活から離れて、物語に浸る時間はわたしには幸せなひとときに思えるのです。この小説も、わたしにとってそんな一冊です。 この小説を読み進めて、うっすら憶えているエピソードもあれば、鮮明に思い返される場面も

小説 『グッド・バイ』読後感【読書日記】

グッド・バイ (新潮文庫) 文庫–太宰 治 (著) 小説『グッド・バイ』を久しぶりに再読しました。美的印象を与えるような素敵な装幀で、再読してみる気持ちが湧いたのです。 読み通すことが出来たのは、文体が秀逸だったからだと思います。書籍の内容はすっかり忘れていましたが、新鮮な風味があって面白く読みました。没後71年が経った現在でも、人気があることがうなずける小説です。 本書は戦後の数年間に短編連作として書かれたものですが、太宰治の自死によって未完のまま絶筆になった作

小説「冬の蜃気楼」の読後感【読書日記】

『冬の蜃気楼』 山田太一著 同世代の著者の小説も読みますが、読み切れないことが多々あります。 人物の描かれ方が希薄に思えて、登場人物の造型に魅力が感じられないことがあります。だから最後まで読めないことが多いです。 先日、図書館に入って書架を眺めていると、目に留まったのが「冬の蜃気楼」でした。山田太一氏の著作です。装丁が何とも言えず、素敵です。 以前「飛ぶ夢をしばらく見ない」という題名の小説を読んだことがあるですが、ロマンチックな着想に驚いて、内容を今でもよく憶えていま