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市販の単語集による英単語学習の限界

 あくまで感覚的な段階の考えを仮説的に述べる。
 英単語を増やしていこうとする場合、特に英単語集みたいな和英1対1対応の訳で学んでいこうとする場合、インプットは頭打ちになる気がする。だから、上級者だという自覚があるのなら、もう対応する日本語の書いてあるような単語集はやめたほうがいい。
 英単語全体の総量の多さからすれば、使用頻度が少ないものを、「難単語」と指定して、それを英検一級なり、難しい試験の差がつくポイントなりで出現させることはできるだろう。事実、英検一級のリーディングセクションというのは、その高いとされる難易度を保証するものを、単語の難しさに頼っているといってもいい。
 私は過去に一級を受けたことがあり、手元には『英検1級でる順パス単』という旺文社から出ている試験対策用の単語帳がある。ちなみに、言うまでもないかもしれないが、英検を主催する日本英語検定協会を設立したのは、旺文社を設立したのと同じ赤尾好夫である。旺文社の英検対策本が事実上のオフィシャル扱いなのは、そのためである。
 この英検1級の単語帳を開いてみると、例えば、consignmentという単語が出ている(92頁)。意味は、「託送、委託商品」とある。さて、「託送」という言葉を、私はいまここで初めて知った。予測変換でも、「宅送」や「拓荘」「託そう」「炊くそう」などをくぐり抜けてやっと下の方から見つけられたくらいの言葉である。言ってみればこれは、英単語というよりも、物流の専門用語なのだろう。
 専門用語はその専門において機能する。「consignment ≒ 託送、委託商品」と覚えたところで、「託送」の使い方を日本語ですら知らないので、consignmentを覚えたところで、使いようがない。日常的には、「shipment」や「delivery」で通用する。このような例は、他にも存在する。
 上級レベルになって、単語を覚えるのが苦痛なのは、対応する日本語が判然としないためである。中級レベルまでなら、英単語を覚える中で、日本語の解像度も上がるといった相乗効果も期待できたが、上級レベルになるとそうしたものも少なくなってきて、むしろ日本語としては日常的にはまず使わないだろうと思われる「託送」みたいな表現を増やすことになってしまう。
 ではどうすればいいのかというと、単語学習をそれ自体としてやるのをやめて、多読していく中で新しい語と出会うようにし、意味を確かめる場合は、英英辞典を参照すること。ついでに、コロケーションを調べておくという方針でいけばなおよい。いつまで経っても、市販の、しかも日本語訳の載っている単語帳で単語を増やそうってのは、いつまでも屋内プールでダイビングの練習をして、海で潜らないようなことなのではないか。

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