都市の渋滞の構造と区画配置【論文紹介】#6

アメリカ中の471の都市で毎年、渋滞によって114億リットルの燃料が無駄に燃やされ、一人当たり42時間も余計に車に閉じ込められている。
車社会における渋滞問題というのは、持続可能性を目指す社会にとって非常に悩ましい問題である(SDGsという言葉は昨今あまりにも軽々しく使われているので、私はできるだけ「持続可能性」と言いたいと思っている)。
この渋滞問題に対して、道路整備や公共交通ではなく区画配置によって渋滞を緩和できるのではないかという興味深い視点をこの論文は提供してくれる。

今週紹介する論文はこちら
Geometry of commutes in the universality of percolating traffic flows
パーコレーションモデルの交通流の普遍性から見る通勤の幾何学
2311.03937.pdf (arxiv.org)

本論文では、パリとロサンゼルスの道路網の形と、GoogleMapの渋滞情報を用いて渋滞の統計的特徴を解析する。

パリの中心市街地20区
(https://ja.wikipedia.org/wiki/パリの行政区 より)
a. GoogleMapにおけるパリ市街の渋滞状況 中心の少し潰れた円形がパリの中心市街地20区を囲む高速道路 b. 112×112のビットマップにした道路 c. ビットマップ上の交通量を色で表示(濃い赤、赤、橙の順に交通量が多い) d. 渋滞のクラスタ

パーコレーションモデルといって、解析する街路をまず112×112セルのビットマップに落とし込み(上図b)、GoogleMapの渋滞情報から各セルに、車が少ない状態(緑=1)、中程度の状態(橙=2)、多い状態(赤=3)、渋滞している状態(濃い赤=4)の値を割り振る(上図c)。
ここから、2以上の値が割り振られているセルを見て、値が2以上のセルが隣合っているならクラスタがつながっているとみなす。図dは赤が最大のクラスタ、橙がその次に大きいクラスタ(複数)を図示している。図cとdの赤と橙の意味は違うので注意。
渋滞とは、このクラスタが大規模につながることによって発生すると考え、これの統計的特徴を調べる。
クラスタのサイズをs、全道路セルのうち値が2以上のセルの割合を浸透率p、浸透率pのときのサイズsのクラスタの個数を$${n_p(s)}$$と置き、平均クラスタサイズχ(p)を次のように定義する。
$${χ(p)=\frac{\Sigma_s^{\prime} s^2n_p(s)}{\Sigma_s^{\prime} sn_p(s)}}$$
$${\Sigma_s^{\prime}}$$は最大のクラスタを除くすべてのサイズのクラスタの和を取ることを示す。

浸透率(横軸)と平均クラスタサイズ(縦軸)
左が平日、右が休日、それぞれ緑が朝、赤が夕方のラッシュ時
臨界点pcで"つまり"が伝播するようになって急激に渋滞が成長する

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