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新たな始まり

名古屋に着いてからは、心機一転。二人で始める新生活の準備は、それはそれは希望に満ち溢れていて、とても楽しかったのを覚えています。名古屋の街並みも、新しい会社も、見るもの全てが素敵に見えて、ウキウキな気分で働き始めたのです。

ところが、徐々に私の仕事が忙しくなっていき、帰宅する時間がどんどん遅くなっていきました。知り合いが誰もいない妻は、話し相手がいない時間がだんだん増えることが苦痛になってきたようで、 ショッピングに出かけては、電気屋の店員さんと数十分しゃべるほど、孤独な時間と戦っていたのです。

ある日の休日、妻とイオンモールのペットショップに出かけた私たちは、運命の出会いをするのです。ガラスゲージの向こうにいたのは、小さなゴールデンレトリバーの女の子。私たちは一目惚れし、衝動的にその子の親になることを決めたのです。その子の名前は「ベリー」と名づけました。エスカレーターに乗っているとき、ふと見た壁に描かれているたくさんの果物の絵。その中心に描かれていたイチゴがとても印象的で、ストロベリーの「ベリー」から取りました。「ベリー」には、ストロベリーやブルーベリー、ホワイトベリーやブラックベリーなど、たくさんの種類があります。この子をきっかけに、たくさんの種類のハッピーが私たちのもとに訪れてくるような気がして、その名前をつけました。

やんちゃな女の子ベリーとの生活は、楽しくもとても大変で、寂しさを抱えていた妻の生活は一変しました。トイレを覚えるのが遅く、朝起きると必ずうんちがどこかしらに散らかっているのでした。留守番が大嫌いだったベリーは、私と妻が仕事に行っている間、散々に部屋を荒らし、妻は玄関の戸を開けるのが嫌になるほど、仕事終わりの部屋の片付けが苦行となっていたようです。

ほどなくして、妻のお腹に長女の命が宿り、私たちの生活は一気に賑やかになっていきます。さすがにやんちゃなベリーを見ながら、長女の面倒を見るのは無理があると思った私たちは、私の母にヘルプをお願いすることにしました。母が合流し、名古屋にて家族五人での生活が始まったのです。

しかし、私の仕事の忙しさは増す一方で、日に日に帰宅時間が遅くなり、休みもなくなり、ピーク時には朝8時に出勤し、明け方4時に帰宅をするという生活が続いていたのです。私だけでなく、夜中の3時半ごろに会社に迎えに来る私の母も、長女とはじめての子育てに奮闘している妻も、少しずつ疲弊していったのでした。そして名古屋での生活がちょうど三年経過したところで、私は退職を決意することになるのです。経済的な余裕はあれど、心に余裕のない生活は、ゆっくりと家族全員を追い詰めていくことになることを、私は知ったのでした。

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