女なんか今すぐ辞めてやるからな

もうこのままいっそのこと、おじさんになってしまいたい。
振袖を肩までたくし上げ、立て膝をつき、寿司を口に詰め込み、左手でピースをしている みたいな、それはそれは"良かった頃"の写真を大きく引き伸ばして背中に貼っているおじさんになってしまいたい。

誰にも頼まれてもいないのに無理やり食べ続けているし、かさぶたになり痕が残ると分かっているのに足を掻くし、もっと眉毛の形や発色の良いアイシャドウのこと真剣に考えても良いのに、あたしは恋人の前でおならをして、キャッキャ喜んでいる。セックスレスになってからは恋人に汚いと言われると喜ぶようになった。
そして、あたしはいつまでみんなに優しく出来るか全く分からなくなってしまった。

昨日、銭湯の鏡の前にすっぽんぽんで飛び出してみた。
こうゆう太り方をしていたなんて全然知らなかった。面白くなってきたあたしは、陰毛を鷲掴みにして何度も引っ張って、おっぱいを掴んでは揺らしてみたりした。変な顔もしてみた。面白かった、本当に。女でいることじゃなくて、おならばかりするひょうきん者の太っちょのおじさんとして恋人とベッドで眠る日々を選んだのはあたしの方なのだから、面白くて、本当に、良かった。

恋人とは1月に1度だけ、あたしからお願いをしてセックスをした。
2月は1度もしなかった。飯をドカドカ食ってダボダボ糞してる間に3月になっていた。


南の島で牛の世話だけしているような、顔だけは良い頭の悪い男の子に、毎年梅雨明けの頃に年に一度だけわざわざ会いに行き、彼の友達がやっている大衆小料理屋に軽トラで向かっている途中、いきなり車を路肩に停めさせてセックスを強要したいような気分でいる。セックスをした後はきっと毎回猛烈に殴りつけたくなるだろう。そしてあたしはそれを我慢なんかしやしない。三日三晩、実はおじさんのあたしは寝物語にあたしの恋人の話をする。そしてまた次の年の同じ頃、おじさんは彼に会いに行く。

7月の初め、女3人で熱海に行く。
肌に張り付くシミーズを着て、スパイラルパーマをあて、首からビニール素材のがま口をぶら下げ、右の口端にアイラインでほくろを描き、おじさんになったあたしは熱海に行く。
慰安旅行中の年の近いサラリーマンにホテルの製氷機の前で『さっきロビーではしゃいでたよね』と話しかけられる。実はおじさんだということを隠して『はしゃいでないし』と答える。
アイスペールを抱え、部屋に帰り、きっとあたしは恋人にラインをする。"今、ひとりで氷入れて来た!すごい?" 恋人から返事がくる。"すごいね。偉いよ"

東京に帰ったあたしはシミーズを着て行ったことも、製氷機の前で若い男と話したことも全て、洗いざらい恋人に話すだろう。
きっと恋人は"良かったね"と言うのだと思う。

おじさんは専らそんなことを考えたりしている。

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