歳をとると、なんらかの薬を飲んでいることが多いですよね。
「内服の管理」
というのは、高齢者にとって、ひとつのバロメーターでもあります。

今回は前回に少し触れた、内服管理についての話です。

薬の飲むというのは、特に高齢者にとっては複雑なものです。
今では、多くの薬を併用することで体に悪影響を及ぼす「ポリファーマシー」の考えが広がってきています。
それでもやはり高齢者は様々な病気や症状があるため、
内服の種類は増えやすく、
飲み方にも色々なパターンが出てきます。

食事の前なのか、後なのか。
食事と食事の間の時間に飲むのか。
1日1回なのか、2回なのか、3回なのか。
はたまた、起床後とか就寝前とか
前は前でも、あえて“直前”という指示のものもあります。

これに加えて、症状がある時だけ飲む“頓服”や、
便秘の薬などのように、症状で調整してもよい、と許可されるもの、など・・・

個人差があるとはいえ、
歳をとれば新たに記憶する力が弱くなり、
また複雑だったり、新しいパターンを覚えるのが苦手になっていく高齢者にとって、
これらを理解して、きちんと内服するというのは
われわれ現役世代が考えるよりずっと難しいことになってくるのです。

在宅で療養する人にもよくお勧めされるのが、
“お薬カレンダー”があります。

曜日ごと、また朝、昼、夕、寝る前、とポケットが分かれており、
袋にどさっと入っている薬を仕分けすることで、
・順番にとっていけば、間違いなく飲める
・あらかじめ仕分けするので、飲みこぼしが防げる
・飲み忘れた時、ポケットに薬が残ったままになっているので、すぐわかる
といった利点があったりします。

しかしながら、こんなに便利そうにみえる“お薬カレンダー”ですが、
実はこれも新しい習慣になるので、
すんなり使用できる人もいれば、
新しい習慣を覚えることに不安になる人もいます。

うちの父は、後者の方でした。
自分が認知症であるという自覚がありますが、
できることは自分でやりたいという思いが強く、
薬の管理についても、自分の覚え方でできる、と強く思っていたため、
私も無理にお薬カレンダーは勧めませんでした。

結果として、
今は継続処方の薬を薬局からもらってきた時に、
その整理を見守りさえすれば、
普段の内服管理は、自分で行えています。

その管理方法は実に独特です(笑)
私たちからすれば、もっとこうすれば面倒じゃないのに、とか
毎回同じこと(自分の覚えの用法)を薬袋に書き写さなくても・・・
など、効率的なことを思ってしまいますが、
そこは父が自分で覚えられる、
もしくはわからなくなっても自分で読んで理解できるやり方にしなければ、
パニックになってしまうのです。

やはり認知症は認知症。
自分の記憶にまったく残っていない、という恐怖を実感しているからこそ、
自分でわからなくなっても対処できるよう、
自分なりの覚え方にこだわっています。

なんといっても、
自分が記憶していないことに対し、
人から「こうだ」と言われることは、
たとえ家族といえども、多少なりとも不信感はあるのだと思います。

だからあえて薬袋に自分が書いて、
自分の書いた字を見て、
忘れてしまったけれど、確かに過去の自分がちゃんと記しているから、
この通りにすれば大丈夫だ
こんな思考が働いているのでしょうね。

ゆっくりです。
ひとつひとつ、慌てるとわからなくなってしまうので、
薬の袋を確認する順番も、
父の言う通りに、父がやる通りに確認します。
でもそれさえ、一緒に付き合ってあげると、
ちゃんと自分で内服しています。
今のところ、母も声かけ程度です。
ほとんど飲み忘れもなく、できています。

内服管理。
周りがついついスピーディにやってしまいますが、
本当は見守りができるなら、
自分の力でできるにこした事はありません。
こうした地道な見守りこそが、
介護度悪化の進行を緩和することに繋がっていくように思います。

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