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侘クリスマス

 クリスマスのプレイリストを聴いている。和洋折衷の自作プレイリストであるが、60曲入っているうちの22曲、三分の一強がThe Brian Setzer Orchestraなのでホリデー感強めだ。3曲に1曲はセッツァーおじさんの渋声が聴けるのは良いが、いかにもアメリカンなその歌声は大量の塩で味付けした牛脂を油で揚げたような大味でもあるので、耳がもたれる。そのおかげもあってか、stella donnellyやchara等の女性シンガーの美声が際立つ。彼女らの曲は各1曲ほどしか入っていないが、もはやこっちがメインである。

 この時期になると思い出さずにいられない人物がいる。ローランドイスタス。俺が俺以外かのローランドではないが、彼もローランドイスタスが好きで名前を拝借したという話があるので遠からずだ。
 毎年思い出しては誰かに伝えたり、発信したりして飽き飽きしているのだが、必ず頭に浮かぶのでしょうがない。
 ローランドイスタスは生まれつき、ジョイントアレルギーという厄介な体質を持っている。繋ぎ目や嵌っているものを見ると離れさせずにはおけなく、家中の家電を分解し、手を繋ぐ恋人たちの間を通る。
 「繋がってるものや嵌ってるものを見ると我慢できないんだッッッ」という名言を残すほど重症であったイスタスであるが、その体質と189cm/112kgという恵まれた体格を生かしてキャッチレスリングの全欧チャンピオンにまでなる。
 ここまではちょっと変わったアスリートの御涙頂戴的小話に見えるが、その後も彼の“外すこと”への渇望は膨らみ、ライオンの関節を外しにアフリカへ遠征し、挙げ句の果てには地球上のあらゆる強者たちがのさばる地下格闘技場の門を潜ることとなる。そう彼はグラップラー刃牙の中のモブとまではいわないが、個性的で噛ませ的な登場人物の一人である。そして愚地独歩の息子であり空手の神童、愚地克巳に善戦するもあっけなく破られる。繋ぎ目を外すことに長けていた彼、恋人たちの手繋ぎは切り離せても、伝説の男から息子へ継承された空手道は切り離せなかったのだ。

 聞いたところによると、国内の未婚者で且つ恋人もいないという人は7割を占める圧倒的マジョリティらしい。人肌恋しさはあれど、充実したクリスマスを送るであろう世の恋人たちは3割しかおらず、それをいちいち羨み、俺がイスタスや!と叫び、切り離し切り離しということをしていてはジョイントアレルギー発症者が何人いても足りないだろう。
 そもそも僕は季節感というものが好きであるので、恋人の有無に関わらずクリスマスに対しては肯定的だ。今日もイブから当日にかけての夜勤だというのに、なんとなく着たボロのスウェットは発色の良い緑をしており、左腹部には橙のペンキが2、3滴散っているという、侘びしいクリスマスを醸し出してしまっている。
 しかし、それでもふいにジョイントアレルギーが発症する妄想に囚われるのだ。
 
 ローランドイスタスおそるべし。

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