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【講評】令和3年 特許・実用新案 問題I

(以下は本試験問題やご自身の再現答案をお手元におき、メモを取りながらお読みください)

【追記】
本問の答案構成例・答案例をPDFでダウンロードできるようにしました
以下からどうぞ

令和3年の特許・実用新案の問題Iでは小問が4つ出題されました

小問4題の出題は、今となっては標準的であり、「多いな」とまではもはや感じなくなっているものの、続く問題IIの小問が合計7問であることを考えると、例年以上にスピーディな解答が求められたと言えます

以下の講評では、

どの部分でどのように解答スピードを上げるべきだったか

という点を中心に言及していきたいと思います

1. 国内優先権の要件・効果・趣旨


問1(1)は国内優先権の要件・効果・趣旨にまつわる問題でした

「出願Bのイについて、出願Dを引例として拒絶理由を有するか」

が問われています

出願を引例とした拒絶理由」ということで、一般論としては

・29条1項3号
・29条の2
・39条1項

を解答するのがセオリィですが、本問では国内優先権主張の効果をふまえて、まずは29条の2のみに絞って解答したほうがペース配分としては得策だったと考えています

本問において特徴的だったのが、

設問の事実をあてはめて結論付けよ

という要請(指示)があったことです

このような問われ方は過去の本試験では見られませんでした

事実に即したあてはめを丁寧にしてほしい

という出題者の意向を強く感じます

たとえば僕は過去の答案例では出願の先後願については日付を明示せずに単に「先願A」・「後願C」のように解答していましたが、本問では上記の要請を受けて、各出願の出願日についても解答で明記するようにしました

また設問では

「関連する特許法上の根拠条文の規定を必要な範囲で引用した上で

という要請もありましたから、単に根拠条文の条文番号だけを付記するのではなく、条文の文言を例年よりも積極的に引用して解答するように心がけました

そうなると、問1(1)で手厚く解答することが求めれているのは、なんと言っても「あてはめを伴う国内優先権の各要件の検討」であって、国内優先権主張の適否にかかわらず適用のない29条1項3号、39条1項について解答する時間はますますなくなります

ここで機械的に「時系列3点セット」などと考えて29条1項3号、39条1項についても解答してしまうと、続く問1(2)においても同様に29条1項3号、39条1項に言及しないとバランスが悪くなるため、結果として解答時間の圧迫につながってしまいます

なお、強調したいのは

まずは29条の2のみに絞って解答

という方針であって、

「29条1項3号、39条1項について解答しなくていい」

ということではありません

特許・実用新案については解答スペースに余裕があることが通常ですから、

「29条1項3号、39条1項については問IIの解答を終えてなお時間が余ったら解答する

のがベターだと主張したいです
(たいていの場合、時間は余らないのですが)

2. 分割出願の適否


続く問1(2)では、「分割出願の適否と29条の2」が問われました

出願分割の要件については令和元年の本試験で時期的要件が問われていました

令和元年のこの問題の正答率が高くなかった(憶測)ことから、出願の分割については集中的に狙われている印象を(後付け的に)抱いています
(同じような調子で令和4年に狙われる出題テーマがあるとしたら、補正の要件が危ないと感じています)

さて、問1(2)では

「出願Cのイについて、出願Dを引例として拒絶理由を有するか」

が問われています

分割の適否は審査基準を知っていれば「分割の実体的要件を満たさない」と自信をもって解答するのは難しくないものの、審査基準の知識がアヤフヤであれば、

「分割出願Cで新規に追加された発明ハは補正で削除できるし、そうなると原出願Bのイについて分割したCは出願時が遡及するのかな」

などと考えを巡らせてしまったかもしれません
(僕も解答速報を作っている時点ではこのような考えが頭をよぎりました)

ただ、そうなると解答内容について場合分けを伴うため、
各設問に示されていない事実をあえて仮定して論じる必要はない

とする問題文柱書の指示に反してしまいます

また、もしも

「分割出願Cの出願時が原出願B時まで遡及し、その原出願BがAを基礎出願とする国内優先権の主張を伴う」

と考えてしまうと、「拒絶理由の有無」に関する解答は問1(1)と変わらないという結果になってしまいます

さらに、上記のように考えると問題文に示されている

「出願Dは、令和3年1月 13 日に出願公開された」

という事実の使い途もなくなってしまいます

以上を勘案して、問1(2)では

出願Cは分割の実体要件をみたさない
 ↓
Cの出願時は現実の出願時
 ↓
Cは先願Dの後願

と判断したかったです

「Cは先願Dの後願」と結論付ければ、あとは29条の2の5つの要件について問題文の事実に即して丁寧なあてはめをすれば解答は完成します

本問でもやはり、適用のない29条1項3号、39条1項の解答は後回しにするのが賢明です

また、本問でも

設問の事実をあてはめて結論付けよ
「関連する特許法上の根拠条文の規定を必要な範囲で引用した上で

という要請があるのですから、たとえば発明者非同一(29条の2かっこ書)についても

「後願Cと先願Dの発明者は非同一である」

とのみアッサリと書くのではなく、

「後願Cのイと先願Dのイとは発明者が甲と乙とで「同一の者で」(29条の2かっこ書)はない」

のように、丁寧に解答したほうが印象がいいです

3. PCT出願における代理人の権能


問1(3)は国際出願における代理人の権能に関する設問という変化球でした

本問については平成30年以降、4年連続で出題されている

条約の条文サーチ問題

だと言えます

解答が求められた根拠条文は多くの受験生にとっては見慣れていないものであり、かつ、解答時間が切迫していたことから、本問を「捨てた」という声も散見されました

ただ、本問は条文を探して引き写せば正答できるという点ではボーナス問題なので、「捨てた」といえども何かテキトーに解答するくらいなら、探し出した条文の規定を引き写したほうが高得点が望めます

条文の探し方については、

・「代理人の権能」に関する条文は日常学習で見慣れているPCT1条~41条には見かけない(もしあるなら記憶の片隅にはあるはず)
・53条以降は管理規定であるからサーチ範囲からは除外できる

の2点を勘案し、

PCT43条~52条をまずは探してみる

という判断ができるとよかったです

この判断さえできれば法文集で実際にチェックするページは2ページ程度であり、PCT49条は1ページ目に記載があるため、時間をかけずに見つかったはずです

なお、この設問について僕の解答例ではPCT規則の関連条文も挙げていますが、もちろん本試験での解答ではそこまでは必要ありません

本問は単に49条を知っているか否かではなく、条約の知識に基づいて条文のサーチ範囲を絞れるか否かのみが正答に影響する問題であり、この点においては"良問"*だと言えます

*ここでの"良問"とは、出題者側の事情を加味した上での表現です
出題者側は試験後の採点において、1000通の答案を大量に、かつ、できるだけ公平に捌いていかなければなりません
そうなると、本問のように

「解答に"PCT49条"という文言があるか否か」

のみで優劣がつけられる問題は極めて採点効率がよく、出題者(採点者)にとっての「良問」と言えます

受験生には、上述した「出題者側の事情」をも踏まえて、より確実に合格ラインを超えるための冷静かつクレバーなジャッジを各問につき下していくことが求められています

4. 特許請求の請求の範囲とみなされる翻訳文


問1(4)は、国際段階でPCT19条補正・34条補正をした国際出願について、

特許請求の範囲とみなされるのは翻訳文a・b・cのいずれか

を問うシンプルな問題です

「翻訳文a・b・cのいずれか」

が問われているのですから、まずは結論として

「翻訳文〇である」

と答えてしまうのが得策です
(結論だけでいいなら、3分の1の確率で正答できます)

注意したいのは、設問では 

「Aにおいて、願書に添付して提出した特許請求の範囲とみなされるのは、翻訳文a、翻訳文b 及び翻訳文cのいずれであるか」

と問われているので、(最終的に審査に供される)補正後の内容を反映した翻訳文cを答えるのではなく、形式的に提出書面とみなされる翻訳文bを解答する必要があるという点です

この点についても、普段から僕が強調している

問いの要請に従う
解答表現と設問表現とを一致させる

ことに注意を払っていれば、正しく解答できたはずです

とはいえ、実情を告白すると僕が本試験当日に解答速報を作成している時は、

「Aの特許請求の範囲として審査されるのは誤訳訂正書とみなされる翻訳文cだから、解答は翻訳文cだな」

と、当初は僕自身が誤って考えていました

事案について考えていくうちに設問表現から離れてしまうことを身をもって体験しましたから、本試験でも同様の思考に陥って解答した受験生も一定数いたものと推量しています

さて、「翻訳文b」という結論さえわかってしまえば、理由付けについても184条の4第6項・184条の6第3項を中心に解答すればよく、翻訳文cの取り扱いについては関連事項として解答を後回しにしてよいでしょう

関連事項の解答よりも重要なのは、7問もの小問がある問題IIについて最後まで解答することだからです

5. まとめ


以上、令和3年の特実・問題Iについて講評しました

本問の解答例として僕が示した答案の文字数は今のところ「1,249 字」であり、市中の「模範答案」・「参考答案」はもちろん、当日に受験したあなたの再現答案と比べても際立ってボリュームが少ないはずです

とはいえ、解答しろと言われていることについて最少限の解答はできているし、むしろ「条文の引用」・「事実をあてはめて結論付け」については高水準で達成できていると自負しています

また、ここでの「条文の引用」・「事実のあてはめ」も、誰もが知らないマニアックな知識を駆使しているわけではなく、本試験においてあなたに貸与された法文集と、あなたの手元にあった問題文との表現をつなぎあわせて解答しているだけです

繰り返しますが(たいていは余らないものの)問題IIについて解答し終わったあとでなおも時間が余るようであれば問題Iについて余白に解答を補うことができるわけですから、問題Iの解答では

簡潔に、簡潔に

と何度も心の中で念じながら解答してほしかったと思います

ということで、問題Iの講評をするだけで4,000字を超えてしまいました

難関だった問題IIの講評は、改めて記事にする計画です

最後までお読みくださいましてありがとうございました

6. 補遺:答案構成/答案表現について


答案例の閲覧請求をしてくれた受験生にこの講評を先行公開したところ、

「答案構成についてもなぜあのようなスタイルを選んだのか解説してほしい」

「答案表現についても何を考えながらあのような表現をするのか解説してほしい」

という主旨のリクエストがあったので、本問の答案構成と答案表現とについてコメントを追記しました

ただ、こっから先の文字数だけで13,934字、合計65ページもありまして(特実・問Iの答案構成・答案表現の解説だけでこの特大ボリュームです)、noteに転記するのも手間なため、ここから先の内容は「続きが読みたい」とリクエストくださった現役の受験生へ個別にご案内いたします
(令和3年の本試験の答案例もすべての科目について一挙に読めます)

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それでは、最後までお読みくださいましてありがとうございました
メリークリスマス!

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