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弁理士試験における「生物学一般」の難易度について

1. 選択試験のオススメ科目は?

弁理士試験の論文式試験は、選択科目を1つ受験することが求められます(免除者を除く)

「選択科目は、何がオススメですか?」

という質問については、僕は「生物学一般」と回答したいと考えています

ただ現時点では、

「生物学一般がオススメ」

と、自信をもって断言することができません

なぜなら、実際の試験の難易度や合格ラインを超えるための勉強量についての具体的な検討は、今ようやく着手したところだからです

そこで、このノートでは弁理士試験における「生物学一般」の過去問の検討を通じて、難易度や攻略のしやすさを判断する過程を示そうと考えています

2. 「生物学一般」は、文系であってもとっつきやすい

選択科目は、いわゆる文系であっても、応用情報技術者の試験にパスして免除を狙うルートがオススメではあるのですが、今年は試験時期がずれてしまうため、このルートによる免除は難しいかもしれません

そうなると、文系の受験生は民法を選択して受験するしかないのでしょうか?

民法以外の科目は計算を主体とする理系科目が多くを占めている中、「生物学一般」は知識系の空所補充問題 & 論述問題がメインであるため、
「文系寄りの科目」と言えます

なにより、ほかならぬあなたも僕も生物ですから、生物学一般の学習内容はとても身近(というよりまさに自分自身のこと)で、根源的な興味がわきやすいという特長もあります

3. 「高校の生物≒生物学一般の出題レベル」

では、「生物学一般」の試験において求められる知識レベルはどのくらいかというと、高校生物、あるいは生物基礎の教科書レベルをマスターできれば正解できる問題も多いです

一例を示しましょう
令和元年の問3(2)です

3. 生物学に関する以下の問いについて、5行程度で説明せよ。
(2). 細胞内共生説について、その根拠となる事象を二つ以上挙げて説明せよ。

この問題の配点は問3全体で20点、問3の小問は(1)・(2)の2つですから、10点と予想できます

「細胞内共生説」について、第一学習社の『生物基礎』の教科書では次のように詳細な説明がなされています

少し長いですが、該当の記載を引用します
(ちなみに、『生物基礎』は、通常の課程だと高校1年で履修する内容です)

 ミトコンドリアと葉緑体は、それぞれ内部に核内のDNAと異なる独自のDNAをもっている。また、細胞の分裂とは別に分裂して増殖することができる。これらの特徴などから、ミトコンドリアと葉緑体は、細菌やシアノバクテリアが原始的な真核細胞の内部に共生することによって生じたと考えられている。すなわち、呼吸を行っていた細菌が真核細胞内に共生してミトコンドリアの起源となり、光合成を行っていたシアノバクテリアが共生して葉緑体の起源になったと考えられる。
 その後、ミトコンドリアをもつ細胞は動物細胞へと進化し、ミトコンドリアと葉緑体の両方をもつ細胞は植物細胞へと進化したと推測される。
 真核細胞に共生した原核細胞が特定の細胞小器官になったという考えは細胞内共生説と呼ばれる。
 『改訂 高等学校 生物基礎』(第一学習社)p38-39より引用

設問は、

細胞内共生説について、その根拠となる事象を二つ以上挙げ、5行以内で説明せよ。

でしたから(問題文は一部編集)、引用した教科書の記載を要約すれば、解答のベースが出来あがります

【解答例①】
 細胞内共生説とは、真核細胞に共生した原核細胞が特定の細胞小器官になったという考えである。ミトコンドリアと葉緑体は、①各々が核内のDNAとは異なる独自のDNAをもち、②細胞の分裂とは別に分裂し増殖できる、といった特徴から、呼吸を行う細菌や光合成を行うシアノバクテリアが原始的な真核細胞の内部に共生することによって生じたと考えられている。

この程度の記載であれば、少なくとも8点程度は期待できると考えています
(ただし、この時点で文字数は166字で、5行以内に収めるにはややタイトです)

字数制限内に解答を収めるための調整は後回しにして、まずは内容面の解説をします

まず、解答として求められているのは「細胞内共生説の説明」ですから、冒頭で細胞内共生説の定義を示しています

次に、「根拠となる事象を二つ以上挙げ」ることが求められているので、ミトコンドリアと葉緑体が、

・各々が核内のDNAとは異なる独自のDNAをもつ
・細胞の分裂とは別に分裂して増殖できる

ことを列挙しています
(ミトコンドリアおよび葉緑体そのものが「細胞共生説の根拠となる事象」なのではなく、ミトコンドリアと葉緑体の特徴が「細胞共生説の根拠となる事象」であることに注意が必要です)

なお、具体的な言及が求められている事象は「二つ以上」ですから、ミトコンドリアと葉緑体が、

・二重膜構造をしていて、内膜は取り込まれた原生生物に由来する

ことを示せると理想的ではあります
この点についても、『改訂 高等学校 生物基礎』のp39に「発展」として記載があります

また、同じく第一学習社の高校生物の教科書である『改訂 高等学校 生物』のp406には、細胞内共生説がマーグリスによって提唱されたことも言及されています
(マーグリスは教科書に登場する生物研究者として『改訂 高等学校 生物』のトビラに写真付きで紹介されています)

以上を踏まえつつ、「5行以内で」という字数制限を満たすために、解答表現を推敲していきます

【解答例①】では、冒頭と結びに内容的な重複があるので、思い切って冒頭の定義を削るとどうなるでしょうか?

【解答例②】
 ミトコンドリアと葉緑体は、①各々が核内のDNAとは異なる独自のDNAをもち、②細胞の分裂とは別に分裂し、増殖できる、といった特徴から、呼吸を行う細菌や光合成を行うシアノバクテリアが原始的な真核細胞の内部に共生することによって生じたと考えられている。この考えが細胞内共生説であり、マーグリスが提唱した。

これで解答は150字まで減りました。これだと4.3行程度に収まります。

せっかくなので、さらに果敢に、ミトコンドリアと葉緑体が、

・二重膜構造をしていて、内膜は取り込まれた原生生物に由来する

という点も、細胞内共生説の根拠の1つとして盛り込んでみます

【解答例③】
 ミトコンドリアと葉緑体は、①各々が核内のDNAとは異なる独自のDNAをもち、②細胞の分裂とは別に分裂し、増殖できる、③内膜が取り込まれた原生細胞に由来する、といった特徴から、呼吸を行う細菌や光合成を行うシアノバクテリアが原始的な真核細胞の内部に共生することにより生じたと考えられる。この細胞内共生説は、マーグリスが提唱した。

この【解答③】は162字で、ちょうど5行に収まります
(実際に答案用紙に書いて、収まることを確認しています)

内容面もこれなら10点満点と考えてよいでしょう

4. この連載への期待を教えてください

ということで、令和元年の過去問を例にとって、

「弁理士試験の"生物学一般"の問題の難易度は、高校の教科書レベルのものも含まれる」

ことを示しました

ただし、上記の検証でも明らかなように、得点を稼ぐ解答をするには、教科書レベルの内容をマスターできるだけでは十分ではなく、限られた解答スペースに解答に必要な要素を盛り込むために、解答表現を洗練させる能力も求められると言えます

もっとも、受験生としての最大の関心事は、まずは、

「高校の教科書レベルの内容をマスターすれば、生物学一般の選択試験で合格ラインを超えることができるのか」

という点ですよね

そこでこの連載では、「生物学一般」の過去問の出題傾向を分析しつつ、高校生物の教科書レベルの知識があれば「生物学一般」の合格ラインを超える答案を書けるのかの検証を、本試験の問題の解答を実際に作成しながら進めていこうと計画しています

同時に、過去問の検証を進める過程で、頻出テーマはもちろんのこと、未出題だけれども今後の出題が予想されるテーマも明らかになっていくことでしょう

今後の検証には、平成21年から令和2年までの、生物学一般の過去問12年分を題材とします

用いる過去問をまとめたPDFファイルは以下でダウンロードできるようにしましたので、連載を読み進める際にはお手元でご参照ください

また、生物学一般の本試験で問われている内容が、

「高校の教科書レベルかどうか」

の検証には、今回の記事でも引用した第一学習社の『改訂 高等学校 生物基礎』および『改訂 高等学校 生物』の2冊の記載を基準とします

これらの教科書は、一般書店の流通ルートでは入手できませんが、幸いにも検定教科書をオンライン販売している会社があるので、こちらで手に入れることが可能です
(Amazonのマケプレだと高値がついているため、上記の販社で買ったほうが安いです)

ひとまず、1本目の記事は以上とします

ここまでお読みくださいましてありがとうございました

最後になりましたが、

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お寄せいただくすべてのメッセージにお返事をすることは叶わないかもしれないものの、弁理士試験の現役の受験生とは、常日頃からコミュニカティブでありたいと思っています

末筆ですが、この記事を読んだ現役の受験生が、弁理士試験に最終合格することを願っています

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