いま、日本で増えつつある宗教法人のM&A: 私の見解をお話しします
いま、日本で次々と宗教法人が売買されているという事実をご存知でしょうか。実は今、宗教法人の売買は文化庁も警鐘を鳴らす問題となっています。
あなたにとっての馴染の寺院も、気づいたら別の法人が所有していた…なんてことも決してありえないことではないのです。
宗教法人はどのように売買され、その背景には何があるのか、そもそも売買は合法なのか、こういった皆様が抱くような疑問について解説いたします。
寺が苦境に立たされている
大前提として、宗教法人の売買が成立させるためには売り側は「売りたい」という意思を持っていることが絶対に必要です。
まずこの点を見ると、少なくないお寺の住職が「売りたい」と思っているという事実があります。
以前、私がこちらの記事に書いた通り、現在苦境に立たされているお寺は少なくありません。
「田舎の小さなお寺が衰退した理由」
生活することだけでいっぱいいっぱいという高齢の住職も決して珍しくないのです。また、近年は息子がお寺を継がないというケースもあり、そのような跡継ぎのいない高齢住職はお金と生活する場所があれば、お寺にしがみつく理由がないという方もいるのです。
そんなところにブローカーから売却の声がかかるのです。
特に文化庁が警戒しているのはインターネット上の仲介サービスです。「宗教法人 買収」などで検索すると、こうした宗教法人の売買仲介サービスがヒットします。
そんな宗教法人の買い手の多くは国内外の一般企業です。彼らがなぜ宗教法人を買収したがるのかは後ほど解説します。
寺や神社の売買は合法?
そもそも宗教法人を売買しても良いのかという疑問を持つ人もいらっしゃるでしょう。
現在、宗教法人の売買を禁止する法律はなく、法的な障壁はないというのが現状です。
法的な障壁はないものの、神社やお寺でのそれぞれの取り決めがあり、売買するためにはその点をクリアする必要があります。
現在は状況が変わり厳しくなりましたが、つい最近までは寺院を中国資本などの外資が買収するということがよくありました。
前述したように、寺院や神社は、高齢化により厳しい状況を強いられています。
たとえば、一人の高齢住職が5つの寺院の面倒を見ているというケースがあります。この場合、生活や運営の厳しさから「売ってしまおう」と思ってしまうのでしょう。
一方、神社では5人の神主が5つの神社それぞれの責任役員になり、お互いをサポートする体制になっていることもあります。そのため周りの神主が歯止めとなり、簡単にはやめられない仕組みになっています。
ただ、寺院に関しても売買する場合に檀家さんから反対される場合があります。そのため、檀家さんが少ないか、もしくはすでに寺院としての機能がなされていないような寺院は売買に至るまでの流れがスムーズです。
ほかにも、宗派によってはなかなか売却を目的とした離脱ができないような宗派も存在し、このような寺院はなかなか売却されません。
買い手側のメリットは
話を戻しましょう。
では、なぜ宗教法人を買う企業が存在するのでしょうか。
その目的は節税であることが多いです。宗教法人は固定資産税や相続税が免除されているほか、法人税の税率も低く抑えられているといった税制上の優遇措置が多く設けられています。
一般的に宗教法人は新たに設立することが非常に困難です。それが、M&Aであれば簡単に宗教法人を手に入れることができます。企業としても非常においしい話なのです。
特に宗派から独立した寺院はかなり自由に動くことができます。住職のいない寺を売ってしまって宗教法人のみを残すというペーパー寺院(宗教法人)でさえも作ることができてしまいます。
もっとも、なかには「住職をやりたい」という純粋な動機から購入する人もいます。事実、私の知り合いの会社のオーナーはそのような動機から宗教法人を購入しました。
何も購入までしなくてもと思うかもしれませんが、特に既存のお寺は異色の経歴の住職を受け入れない傾向が強く、住職になりたいと思っても簡単にはなれないのです。
しかし、こういった買収も継続性という観点から見ると不安が残ります。寺社仏閣は長期的な視点が必要です。純粋に住職や神主という職に就きたいという思いの買収であっても、長くは続けられず一代で途絶えてしまう可能性が高いです。
宗教法人売買のなにが問題か
現状においては宗教法人の売買は法律が整備されきっておらず、脱法行為的な売買が容易にできてしまう状況です。
違法ではないため、売買自体を取り締まることはできませんが、売買を入り口として脱税や犯罪収益の移転の温床となってしまうことが危惧されています。
また、そもそもにおいて現状のような売買が横行するようになれば宗教法人・宗教団体自体の信頼も失墜してしまうでしょう。
その他に、資金繰りに困った住職が寺院の敷地内の土地や建物を虚偽の申告によって売却をした事件もあります。
2023年には大阪の正圓寺(しょうえんじ)で土地の一部を老人ホームにするために虚偽の登記申請をして住職が逮捕されてしまったということもありました。
また、2024年の7月には活動が事実上停止していた宗教法人の議事録を偽造したとして元司法書士を含む3名が逮捕されています。この件では最終的には宗教法人の売買を目的としていたと見られています。
このように宗教法人の売買を巡って犯罪行為にも発展しているケースもあります。逆に見ると、犯罪まで起きるということは宗教法人の売買にはそれだけの魅力があるということの裏返しにもなります。
今後の対策は
法の整備が追いついておらず脱法的な売買が可能。そして、実際に売却の意思を持った「売り手」もいる。
こういった現状がありますが、「売り手」となる私たちお寺側にもできる努力があります。
問題の根本のひとつである跡継ぎ不足ですが、これは例えば臨済宗では一般の人が住職になれる制度を整備しています。実際に定年後に住職となる人もおり、お寺の維持に貢献しています。
なお、私が住職を務めさせて頂いている天明寺は真言宗豊山派に所属しています。宗派の中で不活動法人対策チームというものがあります。しかし、このチームでは会議をする程度で他には何もしていません。
解決方法としては理想的過ぎて現実的ではないかもしれませんが、全ての寺院が檀家さんとコミュニケーションを取り、安定した運営をして売却に頭を悩ますことがなければここで解説したような問題が発生することはないでしょう。
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