不同意わいせつ罪について―その1

 刑法改正案が可決成立してしまいました。日常的に行われている行為が広く犯罪とされたという意味で、非常に重要な出来事といえます。まず、不同意わいせつ罪から見ていきましょう。

 改正176条1項柱書は下記のとおりです。

「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し 、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。」

 このように「同意しない意思を形成し 、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」いれば、同意を得ていても犯罪として成立します。だから、「きちんと同意を得れば問題ない」というのは、条文を意識しないデマだと言うことができます。

 また、「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により」という文言が採用されていますので、1号から8号はあくまで例示に過ぎないと言うことになります。このため、どういう行為をしたら犯罪になるのかが明確になっておらず、「罪刑法定主義」に反するのではないかと指摘されている部分です。

 2号によれば、「心身の障害を生じさせること又はそれがあること」により「同意しない意思を形成し 、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じ」てわいせつ行為を行えば、不同意わいせつ罪に該当することになります。

 「心身の障害」とは何を指すのか定義規定はありませんが、障害者基本法第2条第1号に「一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。」との定めがありますので、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害」を指すことになるのだろうと思います。

 これらの障害があるが故に、仮に断りたかったとしても断りにくかったであろうという状況があれば、実際には本人たちが望んでいたとしても、不同意わいせつ罪が成立します。例えば、視覚障害を有している人や四肢障害を有している人は、逃げたくても逃げられないので、仮に断りたかったとしても断りにくかったであろうと認定される可能性があります。あるいは、知的障害や発達障害がある場合、「同意しない意思を形成」することが困難とみなされる可能性は十分にあります。性交同意年齢が引き上げられましたので、中学生程度の知的能力があっても、「同意しない意思を形成」することが困難とされる可能性があります。

 そのような人たちとの間で性的接触を持った場合、そのときは真摯な愛情に基づき、双方合意の元でそのような行為に至ったとしても、「心身の障害を生じさせること又はそれがあること」により「同意しない意思を形成し 、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じ」てわいせつ行為を行ったと認定される可能性があります。

 するとどうなるか。上記のような障害を持っている人と性的接触を持つことは法的なリスクを生じさせることになりますから、上記のような障害を持っている人は、恋愛・婚姻市場から排除されることになります。
(続く)

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