大規模SNSにおけるアカウント凍結に対する司法的救済の可能性


トランプ大統領のTwitterアカウント等が凍結された関係で、アカウント凍結の法的な限界等が話題になっているので、2019年の情報ネットワーク法学会で行った個別報告の予稿を転載します。


1 はじめに


 20世紀末から21世紀初頭にかけて、インターネットに接続することができる端末機器が急速に普及するようになると、インターネット上で情報の送受信を行いたいと考える人々は急激に大衆化していった。一部の研究者等に限定されていたインターネットへの接続が一般の人々の解放された当初は、インターネット上で情報を発信しようと乗り込んできたアーリーアダプターは、その発信内容を誰に見られどんな風に思われても上等という猛者が多かったが、インターネット上での情報発信者の大衆化が進むにしたがって、発信者たる自分を匿名化できる電子掲示板や、自分の発信内容に対する批判的なコメントの表示を自分でコントロールできるブログサービスなどを利用することで、そこまで覚悟せずに情報発信を楽しむ人たちが増加していった。そのような中で、インターネット社会に現れ、瞬く間に普及していったのがSNS(通常は、Social Network(ing) Serviceの略。ただし、Social Network(ing) Siteの略とする文献もある。)である。
 SNSの定義は様々であるが 、ここでは、SNSを以下の通り定義するものとする。
 あらかじめ会員契約を結んだ利用者(個人であるか法人であるかを問わない )に対して、以下の役務を提供するウェブベースのサービスをいう。
⑴ サービス提供者から与えられたアカウントに紐付けてデジタルデータを当該サービス用のサーバに投稿することができる
⑵ 自己のアカウントに紐付けられたデータをどのアカウントの利用者に見せまたは見せないかを制御する手段が与えられている
⑶ 特定のアカウントに紐付けられて投稿されたデータを自動的に集めて一定の規則に沿って並べて閲覧できる手段が与えられている
 これらの機能が備わっているからこそ、SNSの利用者は、現実空間での知人に限定して、あるいは、一定の目的や趣味、嗜好を共通する人々に限定して情報を共有することや、好ましからざる人物のみを排除した公衆と情報を共有することが可能となるのである。
 それだけに、SNSサービス(以下、「サービス」という。)の利用者(以下、「ユーザー」という。)が同サービスの提供者(以下、「提供者」という。)から与えられたアカウントの継続利用ができなくなってしまうと、これまで当該サービスを通じて情報を共有していた人々との情報共有が困難になってしまうのである。それにもかかわらず、いくつかの提供者は、不可解な理由で特定のアカウントからのサービスの利用をできないようにしてしまうことが広く知られるに至っている。
 このようなことをされた利用者は、泣き寝入りするしかないのだろうか。


2 SNS利用契約の法的性質


 SNSでは、提供者からアカウントの提供を受けなければ、上記⑴ないし⑶のサービスを利用することができない。したがって、上記サービスを利用するためには、提供者からアカウントの提供を受けることが必要であり、そのためには通常登録手続が必要である。通常、SNSサービスの利用を希望する者は、提供者が用意するフォーム等を利用してアカウントの登録申請をし、これを受けたサービス提供者がアカウント登録を受け付けた旨を申請者宛に送信する。この利用希望者による登録申請をもってSNS利用契約の申込みとし、受け付けた旨の送信をもってその承諾と位置づけるべきである。ただし、登録にあたって一定の審査を要するSNSについては、審査に合格した旨の通知をもって承諾の意思表示と解するべきであろう。
 SNS利用契約の内容は、基本的に、提供者は提供者の当該サービス用サーバがユーザー一般に提供しているとおりのサービスを当該ユーザーにも提供することを約し、当該ユーザーは上記サーバに投稿したデータを含む各種データの収集、加工、利用を提供者に許諾するというものである。ただし、多くのSNSサービスの提供者は、利用規約やサービスポリシーなどの約款を作成し 、SNS利用契約の内容を更に精密化しようとしている。登録申請用のフォーム等が置かれているページから見やすい形で利用規約等が掲載されているウェブページへのリンクが貼られているか、登録申請用のフォーム等を提供者側のサーバに送信する過程で利用規約等を見ざるをえないシステムが採用されていた場合には、当該利用契約等にて規定された内容での契約申込みを登録申請者がしたものと推定することができる 。
 SNS利用契約は、個人が、事業として又は事業のため ではなくこれを結んだ場合には、消費者契約法の適用を受ける。したがって、この場合、利用規約等の中に、法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するものについては、無効となる(消費者契約法10条)。また、利用規約は、改正民法中の定型約款にあたるから、改正民法施行後は、ユーザー側の権利を制限し又はユーザー側の義務を加重する条項であって、SNS利用契約という定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反してユーザーの利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなされる(改正民法548条の2第2項。この場合、ユーザーが個人であると法人であるとを問わず、事業として又は事業のために契約を締結しようとしたか否かを問わない。)。


3 禁止規定に違反した投稿をした利用者に対して課すことが許される制裁の範囲


 多くのSNSサービスは、一定の内容または性質の情報の投稿を禁止している。それを公衆に流通させることが刑罰の対象となる情報(名誉毀損情報やわいせつ画像、児童ポルノ等)や第三者の権利を侵害する情報(著作権侵害情報やプライバシー情報等)の投稿を禁止することは当然であるが、その他犯罪等を助長する可能性がある情報(売買春や薬物等の取引の申込みと見られる情報)や他のユーザーを不快にさせる虞がある情報(特定の人種や民族等への憎悪を煽動する情報等)を禁止しているサービスも少なくない。
 SNSサービス自体は、民間事業者によるサービスであって、当該サービスにどのような顧客を集めたいのかを決定する権限はあるので、犯罪または不法行為にまで至らない特定の種類の情報の投稿を利用規約等で禁止する条項自体はは、それが信義則に反してユーザーの利益を一方的に害すると認められるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法により無効となったり、改正民法において合意がなされなかったとみなされるようになるわけではない。
 ただし、ユーザーが利用規約で禁止されている投稿をした場合に、当該投稿をSNS上で表示させない以上の制裁を科すことができるのかは問題である。
 SNS利用契約は、通常、期限の定めのない継続的な役務提供契約となっている 。したがって、ユーザーが利用規約に反する投稿を行ったとしても、信義誠実の原則に照らして契約関係を終了することがやむを得ないという事情がなければ、契約の解除が認められない公算が高いと言える 。SNSにおいては、ある程度継続して利用しているユーザーは、そのアカウントを中心として一定のコミュニティが生成されており、また、相当量の情報をそこに投下しており、したがって、SNS利用契約を解除された場合の不利益が大きい反面、提供者としては、当該ユーザーとの契約を解約できなかったからと言って、通常さしたる負担が生じないからである。更に言えば、SNSにおける投稿においては、他人の名誉を毀損したり名誉感情を傷付けたりあるいは他人の著作物を無許諾でアップロードしてしまう等のミスは起こりがちであり、そのような投稿を数回した程度では、提供者とユーザーとの間の信頼関係が破壊されたとは言えないのが通常だからである。
 したがって、当該ユーザーが大規模な著作権等の侵害を行っていて提供者自身巨額の賠償金を課せられる虞が生じたとか、禁止されている内容・性質の投稿を繰り返し、何度も警告を受けているにもかかわらずなおそのような投稿を繰り返すなどの特段の事情がない限り、提供者の側から、利用規約に反する投稿を行ったという理由でSNS利用契約を解除することはできないと言うべきであろう。
 では、契約解除はしないが、当該アカウントからのサーバへのアクセスをできなくする「アカウントの凍結」はどうであろうか。
 これは、SNS提供者のユーザーに対する基本的な役務提供義務の不履行であり、ユーザー側から見れば契約上の権利の制限である。したがって、利用規約において明確な定めを置いていたとしても、改正民法施行後は、SNS利用契約という定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反してユーザーの利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなされることとなる。提供者とユーザーとの間の信頼関係が契約解除に至るほどは破壊されていない場合に、所定のアカウントからサーバにアクセスして、あらかじめ設定されていた他のユーザーのアカウントに紐付けれらたデータを自動的に集めて一定の規則に沿って閲覧できるようにするサービスの提供を一方的に中止することについては、信義則に反してユーザーの利益を一方的に害するものと認められるように思われる。また、所定のアカウントからサーバにアクセスすることにより、従前投稿した情報をサーバから削除したり、ユーザーが管理するクライアントコンピュータに移し替えたりする機会は保証されるべきであり、「アカウントの凍結」によりそれらができなくなるようであれば、SNS利用契約という定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして信義則に反してユーザーの利益を一方的に害すると認められるといえよう。また、利用規約に反する投稿をいくつかしたと言うだけで「アカウントの凍結」をすることは、行為と制裁とのバランスがとれておらず、信義則に反してユーザーの利益を一方的に害すると認められる場合がありえよう。


4 不当にアカウントを凍結された利用者の実体法上の権利


 利用規約に反する投稿を行っていない利用者がアカウントの凍結を受け、所定のアカウントを入力してもサーバにアクセスできず、SNS利用契約に基づくサービスの提供を受けられない状態に至った場合、単純に提供者による当該ユーザーに対する債務不履行となる。この場合、ユーザーは、利用契約に基づく上記サービス提供請求権の債権者として、当該アカウントを利用してサーバにアクセスして所定のサービスを受けられるようにするように求める履行請求権並びにそれまで上記サービスを受けられなかったことにより生じた損害について賠償請求権を実体法上取得することになる。


5 不当なアカウント凍結の解除を求めて訴訟をする場合の請求の趣旨


 では、SNS利用契約に基づく債権の本来的履行請求権として、ユーザーが所定のアカウントを用いて所定のサービスの提供を求めた場合に当該サービスを提供するように提供者に求める訴訟を提起する場合、どのような請求の趣旨が考えられるだろうか。
 一つは、提供者側が提供すべきサービスの内容を具体的に特定してその履行を命ずるという給付訴訟とすることが考えられる。
 一つは、所定のサービスの提供を拒絶する事由がないことの確認を求める訴訟を提起することが考えられる。この場合、アカウントを凍結すべき事由がないことが確認されれば紛争が包括的に解決することが想定されるため、過去の法律関係についての確認を求めることが例外的に許される場合となり得るからである。


6 不当なアカウント凍結の仮の解除を求める仮処分の可能性


 SNS利用契約が継続的役務提供契約である以上、債務者によって一方的にその提供が中止された場合、一定期間上記サービスの提供を命ずる仮処分が下される可能性がある 。
 問題は、不当にアカウントを凍結され、当該SNSサービスを利用できなくなった場合に、一定期間当該サービスの提供を命ずるだけの保全の必要性が認められるかである。アカウントが凍結されている間は、当該アカウントを中心として形成されたSNS上のコミュニティから分断され、上記コミュニティにおいて種々の情報をやりとりすることによりなされる人格形成の機会を阻害されることになること、他方、提供者側は当該アカウントからのサービスの利用を仮に認めた場合に被る損害が通常軽微であることを考えると、保全の必要性を広く認めてよいように思われる。


7 事業者が外国企業であり、利用者が日本国内在住者である場合の国際裁判管轄


 現在、主要なSNSサービス提供者の多くが外国法人である。しかも、彼らの多くが、会社法第818条第1項に反して、外国会社の登記をすることなく日本において取引を継続して行っている(SNS利用契約の締結及びこれに伴う役務の提供は、ここでいう「取引」にあたる。)。
 SNSサービス提供者の本店が国外にありかつ日本国内に営業所等がない場合、ユーザーがアカウント凍結の解除を求めて日本の裁判所に訴訟を提起しまたは仮処分を申し立てることはできるだろうか。
 少なくない日本在住者が当該SNSサービスに関して利用契約を締結してサービスの提供を受けている場合、日本在住者と継続してSNS利用契約を締結し、種々のサービスを提供しているから、「日本において取引を継続してする外国会社」(民事訴訟法第3条の3第5号)にあたる。したがって、「その者の日本における業務に関する」訴え、すなわち、日本在住者とのSNS利用契約の締結ないしその履行に関する訴えについては、日本が国際裁判管轄を有することになる。上記訴訟または仮処分は、まさに、日本に在住するユーザーがSNS利用契約に基づくサービス提供債務の履行を求める者であるから、提供者の日本における業務に関するものといえ、日本が国際裁判管轄を有している。
 もっとも、SNSサービス提供者の中には、利用規約等において、提供者とユーザーとの間の法的な紛争に関しては、日本国外の特定の裁判所を第一審の専属合意管轄裁判所として指定している例が少なくない。このような国際裁判管轄に関する合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でなされた場合には効力を有することとなる(民事訴訟法第3条の7第2項)。もっとも、実際に書面が作成されなくとも、上記管轄の合意が、その内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用するものとされる(民事訴訟法第3条の7第3項)。ただし、前述のとおり、SNS利用契約は、SNSサービスの利用を希望する者が所定のフォームに必要事項を記載してアカウントの登録申請をし、これを受けたサービス提供者がアカウント登録を受け付けた旨を申請者宛に送信することによって締結されるものであって、この間両当事者間でやりとりされる電磁的な記録の中に、国際裁判管轄に関する合意自体は直接記録されていない。この場合に、管轄の合意がその内容を記録した電磁的記録によってなされたと言えるかは疑問の余地があり得る 。
 もっとも、利用規約等に国際裁判管轄合意が記載されていることをもって、当該利用規約等を前提としてなされた電磁的契約においても、当該管轄合意が、その内容を記録した電磁的記録によってされたとみる見解に立ったとしても、ユーザーが個人であって、事業として又は事業のためにSNS利用契約を締結した訳ではないときは、利用規約等における裁判管轄の合意の内容にかかわらず、上記原則に従って、日本が国際裁判管轄を有することとなる(民事訴訟法第3条の7第5項)。また、改正民法施行後は、日本在住者や日本国内にしか拠点のない法人との関係でなお、日本国外の裁判所を専属合意管轄裁判所とする旨の利用規約等上の規定は、ユーザー側の権利を制限する条項であって、SNS利用契約という定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反してユーザーの利益を一方的に害すると認められるとして、そのような合意をしなかったものとみなされる(改正民法548条の2第2項)ことは十分にありえよう。

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