地方自治体の長のリコールの署名に応じた人の氏名・住所の開示範囲

 地方自治体の長の解職請求(リコール)について代表者の求めに応じて署名した人は、その氏名・住所を知られる危険があるのでしょうか。

 地方自治法81条1項は、以下のように定めています。

選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。

 そして、同法第2項は、同法第74条の2の規定は、第1項の規定による請求者の署名について準用すると規定しています。

 で、同第74条の2第2項を見ると、次のような規定になっています。

 市町村の選挙管理委員会は、前項の規定による署名簿の署名の証明が終了したときは、その日から七日間、その指定した場所において署名簿を関係人の縦覧に供さなければならない。

 つまり、リコールの署名簿が市町村の選挙管理委員会に提出された場合には、署名簿の証明が終了した後に、当該署名簿が関係人の縦覧に供されることになります。

 では、ここでいう「関係人」とはどのような人をいうのでしょうか。

 松本英昭「新版 逐条地方自治法〈第5次改訂版〉」255頁ー256頁に次のような記載があります。

 この「関係人」の範囲については選挙人名簿に記載されている者全部を指し、第四項の「関係人」を直接の利害関係者として区別する行政実例(昭二六、九、一〇)もある。

 そうだとすると、特定の市区町村の長について解職請求がなされた場合には、当該市区町村の選挙人名簿に掲載されている人は全て、地方自治法82条2項により準用される76条2項の「関係人」として、署名簿の縦覧ができるということになります。したがって、当該市区町村に住んでいる有権者ほぼ全員に、リコール署名にどこの誰が応じたのかをみるチャンスがあるということになります。

 選挙管理委員会の人たちが全ての有権者の筆跡を知っているわけではないから、できるだけ多くの地元有権者に署名簿の縦覧の機会を与えるというのは、制度としてはやむを得ないのだろうとは思います。

 

 

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