死刑廃止決議反対派の見解について

東京弁護士会の臨時総会での死刑執行の停止を求める決議は、これに反対するアジビラが会員に送られてきたにもかかわらず、無事解決されました。弁護士ドットコムが、同総会での反対意見を掲載してくれているので、これについて検討を加えてみることにしましょう。

 まず、テレビでおなじみの北村晴男弁護士。

被害者や遺族による復讐が当然禁止されているが、『国家が相応の刑を課してくれる』と納得できるからこそ、国民は法に従う。(死刑制度には)そのような説得力がある。残虐な行為をした加害者を国が死刑にしてくれないのであれば、なぜ法制度を守らないといけないのか、そこには何の説得力もない

 死刑制度が実際に廃止されている国が現実に多数存在しており、それらの国においても、ほとんどの国民は法制度を守らなければならないことに納得していますので、現実離れしたお話です。理論的に言っても、立憲民主主義を採用している国家において法制度を守らなければならない理由は、主権者たる国民が、その代表である国会を通じて、憲法による授権の限度において、そのような法制度を構築したから、以外の何者でもありません。もちろん、法定刑に死刑が含まれていない犯罪についても、被害者やその遺族は、被疑者等に復讐してはいけないのです。

また、北村弁護士は、次のように言っています。

日本の弁護士の大部分が死刑を廃止すべきと考えているとの誤解を与える決議は絶対にすべきではない

大部分が死刑を廃止すべきと考えているかどうかは、票数で見ればいいように思います。日本の弁護士の大多数が死刑廃止に反対しているかのような誤解を招くアジビラをばらまく方がよほど問題です。なお、2019年12月に行われた大阪弁護士会の臨時総会では、「「死刑制度の廃止に関する決議」を、賛成1173票、反対122票、保留・棄権30票で可決した」とのことです。

嶋本雅史弁護士は次のように述べています。

国民の多くは、死刑制度の廃止を少なくとも短期的には望んでいない。凶悪犯罪が今なおたくさん存在するからだ

 どこからをたくさんというのかがよくわかりませんが、平成30年の殺人事件の認知件数は915件です。人口比で言うと、日本より殺人事件の発生件数が少ないのは。シンガポール、バチカン、モナコ、マン島、アンドラだけです。すでに死刑制度が廃止されている国と異なり死刑制度を廃止することができない理由になるほど凶悪犯罪が今なおたくさん存在するといえる状況ではありません。

 嶋本弁護士は次のようにも述べています。

弁護士会は凶悪犯罪撲滅のためにエネルギーを使うべき

 凶悪犯罪撲滅のために弁護士会がエネルギーを使うって、何をどうせよというのか、私には理解できません。凶悪犯罪を犯しそうな人間をプロファイリングで特定して、強制的に社会から隔離する役目でも引き受けろとでも言うのでしょうか。具体的な殺人被告事件の弁護とかやったことがあれば、その発生を弁護士会が未然に防ぐなんて絶対に無理だとわかりそうなものですけどね。死刑制度廃止決議反対派の中ではこういう意見が受けていたんでしょうか。

 嶋本弁護士は、次のようにも述べています。

死刑廃止を訴えるなら、犯罪被害者支援の具体策を次々を示すべき。それをしなければ被害者遺族から理解を得られない。凶悪犯罪はなくなっていないし、被害者や国民の理解も得られていない。弁護士会の議論すらまとまっていない状況で、統一見解として死刑廃止のための執行停止を宣言することは時期尚早だ

 日弁連は、2017年に「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」を行い、犯罪被害者支援の具体策を次々と示しています。多くの弁護士は、無実の者を含む被告人を死刑にして処刑しても、犯罪被害者の支援につながらないことを知っているのです。

 なお、犯罪被害者の支援を国費をもって行うことについて弁護士会の議論がまとまっていたわけではありませんが、日弁連執行部はこういう決議を図り、可決させたのです。

 岩田修一弁護士は以下のように言っていたそうです。

死刑制度を廃止すべきと思っていても弁護士会として決議することなのか悩んでいる先生方もいる。執行部は議論が熟していると考えているかもしれないが、そんなことはない。決議をすることで、会の分裂を招きかねないという危惧がある

 死刑廃止論を憲法9条改正反対論と並ぶ「左翼や日本共産党のような主張」だと考えて攻撃している人たちがいる限り、永遠に全員が死刑廃止に賛成と言うことにはならないと思います。その間、無実の人が次々と処刑されていってもかまわないというのは一つの見識だと思いますが、私とは感覚が異なるようです。

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