少女像と国益

 正直、あの少女像が展示されることによって日本の国益が害されるという発想がよくわからない。もともと、日本の位置付けって、「先の大戦では方々に迷惑をかけたけど、無条件降伏し、新しい体制になってからは、国民が皆よく働いて経済大国になり、程なくして文化大国にもなり、今じゃとってもクールだよね」というものなのだから、第二次大戦中の日本において軍隊が非人道的なことをやったという例が今更増えたところで、現代日本に対する評価は変わらないと思うんですけどね。まあ、意識の上で未だ「大日本帝国の遺臣」である人たちにとっては、復興を果たそうとしている旧主が攻撃されたという思いなのかもしれないけど、そこで傷つくのは、国益ではないですよね。

 日本に対するヘイトとか言っている人たちもいますけど、そもそも「あの時の軍人たちはひどかったけど、今の日本文化ってクールだよね」というのが基本路線なので、あの少女像が大日本帝国時代の従軍慰安婦制度を告発するものだと理解したとしても、現在の日本に対する憎悪ないし差別感情等を煽動するもの足り得ないので、日本に対するヘイトになっていないわけです。実際、あの少女像と同種の像を設置している地域において、あれを見て現代日本が嫌いになったという人たちは出てきていないわけで。

 むしろ、政府や地方自治体レベルであの少女像を撤去させようと動いてしまうと、「なんだ、日本国は、大日本帝国を断ち切ったのではないのか」と勘ぐられ、大日本帝国の軍隊の悪評が現代日本の評価と結びつき、これを引き下げることになるんじゃないかって心配が出てきてしまいます。

 あの少女像を撤去させないと、従軍慰安婦問題について韓国側の主張が正しいと認めることになるのではないか、みたいな意見もありました。でも、表現の自由が認められている国においては、政府見解と異なる見解に基づく表現だって自由になしうるのであって、「その見解に基づく表現を政府として、自治体として潰さなければ、政府として、自治体として、その見解を正しいと認めたことになる」ってわけではありません。それは、政府や地方公共団体が「場」の運営について公的資金を出している場所に展示されている作品についてもそうです。地方公共団体が運営しているホールで歌手がライブを開くにあたって、歌詞の内容をチェックして、その地方公共団体の政策目標に反しているものの歌唱を中止するように求めるとかしていないのと一緒です。そんなことしだしたら、演歌とかヒップホップとか、各自治体の男女共同参画指針に反するものがぼこぼこ出てしまいます。

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