女性皇族との結婚

 秋篠宮文仁親王の長女である眞子内親王と小室圭さんとの間の結婚式を2020年まで延期する旨宮内庁が発表した旨のニュースなどが飛び交っているようです。

 ところで、眞子内親王は、宮内庁や秋篠宮文仁親王の反対を押し切って、小室圭さんと結婚することはできるのでしょうか。ここでは、女性皇族Xと、皇族でない男性Yとの結婚という風に抽象化して検討してみましょう。

 皇室典範第10条は、「立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する。」と定めています。これを反対解釈すると、皇族女子の婚姻については、皇室会議の議を経ることは不要ということになります。皇族女子は、「天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。」(皇室典範第12条)となっていますので、皇族女子の結婚相手がどのような人物であろうと、国にとってはどうでもよいことなので、国家機関が関与する必要はないということです。したがって、女性皇族Xは、成人であれば、誰の同意を得ることなく、Xとの合意によりXと婚姻することができます。

 この場合、「納采の儀」は行えていないわけですが、「納采の儀」はあくまで天皇家に伝わる私的な行事に過ぎず、皇族の婚姻の要件となっているわけではありません。皇族でない国民がそうであるように、婚約や結納は、婚姻の法的な要件ではないのです。

 婚姻の届出は、本人の本籍地または届出人の所在地で行うことになっていますから、Yの本籍地もしくはXまたはYの所在地の市区町村役場に婚姻届を提出することになります。

 婚姻届をする際には、夫婦が夫の氏を称するか、妻の氏を称するかを届出書に記載しなければなりません(戸籍法第74条第1号)。ただし、Xには「氏」がありませんので、この場合は必然的にYの氏を称することになります。

 婚姻届がなされると、原則として、夫婦について新戸籍が編製されます(戸籍法第16条本文)。Xが女性皇族だとしてもこの点は変わりません。ただし、Yが既に戸籍の筆頭者になっていた場合には、XはYの戸籍に入ることとなります(戸籍法第16条第2項)。そして、これによりXは、皇族の身分を離れることになります(皇室典範第12条)。婚姻以外の理由で皇族の身分を離れる場合には、皇室会議の議が必要となりますが(皇室典範第11条第1項、第2項)、皇族以外の男性と結婚した場合には当然に皇族の身分を離れます(だからといって、皇族以外の男性と結婚するのに皇室会議の議が必要となるわけではないことに注意すべきです。)。

 皇族でない男性との婚姻により皇族の身分を離れる場合、独立の生計を営む皇族について算出する年額の10倍に相当する金額を越えない範囲内において、皇室経済会議の議を経て定めた金額が一時金として支払われることとなります(皇室経済法第6条第7項第1号)。この一時金については、上限の定めはあるものの、下限についての定めはありません。ただし、支払うこと自体は定められているので、0円というわけにはいきません(1円でもよいので、意味のある話ではありませんが。)。

 皇室経済会議は、衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、財務大臣、宮内庁の長並びに会計検査院の長の8人の議員で組織されます(皇室経済法第8条)。なので、宮内庁の意に反して時期に、あるいは宮内庁の意に反した相手と結婚をした場合には、この一時金について、不利益な決定が下される虞が理論的にないわけではありません。ただ、同様の時期に、皇族でない男性と結婚して皇族の身分を離れた女性皇族が受け取る一時金と比べて顕著に低い一時金額の決定を下したときに、世論がそれをどう受け取るのかということが問題となり得ます。宮内庁長官は世論を敵に回しても生きていけますが、衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、財務大臣は基本的に国会議員なので、世論を敵に回したくはないからです。

 以上見てきましたが、実は一つよく分からないことがあります。Xが婚姻する資格を有すること、とりわけ他の男性と婚姻中でないことをどのようにして公的に証明するかです。皇族でない日本国民であれば、戸籍謄本を提出することによってこれを証明することができます。皇族についても、戸籍に相当する「皇統譜」というものがあるのですが、皇統譜令に関する規則を集めた皇統譜令を見ても、皇統譜の謄本に関する規定がないのです。Xが自ら宮内庁に対し情報公開法に基づいて皇統譜中のXに関する部分の写しの交付を申請することで足りるのか、よく分からないところです。

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