量産型懲戒請求への門前払いの可否

 余命三年時事日記のファンの方々による量産型懲戒請求事件は、ついにテレビでも取り上げられるに至りました。

 ところで、この件に関しては、門前払いしなかった東京弁護士が悪いのであって、懲戒請求者は悪くないとの見解を述べる人たちが、右の方におられるようです。なので、この点について検討してみましょう。

 弁護士法第58条第1項は、「何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」と規定しています。そして、同項の請求があったときは、「弁護士会は、…懲戒の手続に付し、綱紀委員会に事案の調査をさせなければならない。」と規定されています(同第2項)。さらに、弁護士会は、その懲戒の手続に監視、綱紀委員会に事案を調査させたときは、その旨及び事案の内容を対象弁護士に書面により通知しなければならないとされています(弁護士法64条の7第1項第1号。なお、東京弁護士会においては綱紀委員会会規第14条第1項)。さらに、東京弁護士会では、綱紀委員会は、懲戒請求者が提出した書類及び証拠を被調査人に交付するべきものとしています(綱紀委員会細則第19条第1項)。したがって、東京弁護士会としては、量産型懲戒請求であっても、受理してしまえば、その副本ないし写しを、対象弁護士に交付せざるを得ません。
 もっとも、東京弁護士会の綱紀委員会会規をみると、第12条の2第3項において「本会は、当該申立てが懲戒の請求であると認められないことが明らかなときは、懲戒の手続に付さない」と定めています。したがって、朝鮮学校への補助に関する弁護士会の声明について当該弁護士会の一会員に対してなされた懲戒請求については、「声明の発表という弁護士会の活動に反対する趣旨の意見の表明であって、個々の弁護士の非行を問題とするものでないものについては、弁護士会の活動に対する市民からの意見であって、懲戒請求には当たらない」として、この規定に基づいて、「懲戒の手続」への移行を拒むことができます。

 しかし、この規定に基づいて「懲戒の手続」への移行を拒めるは、「当該申立てが懲戒の請求であると認められない」ことが明らかな場合に限られています。このため、個々の弁護士の非行を問題としていると理解せざるを得ないものについては、懲戒すべきでないことが一見して明らかな場合であっても同項の適用はありません。例えば、私に対する懲戒請求は、一応私のツイート内容自体を問題としているので、「弁護士会の活動に対する市民からの意見」と解することは困難であり、この規定によって「「懲戒の手続」への移行を拒むことは困難です。したがって、東京弁護士会が量産型懲戒請求を「門前払い」しなかったことについて、東京弁護士会のせいにすることはできません。
 したがって、懲戒請求書に、綱紀委員会会規第12条第2項所定の事項が記載されており、対象弁護士に対する懲戒を求めているものであることが書面から読み取れる限り、懲戒手続に付され、対象弁護士に調査開始通知及び懲戒請求者が提出した書類及び証拠が送付されることとなるのであって、上記書類が被調査人に届いたからと言って綱紀委員会が当該懲戒請求を正当なものと認めたことにはならない。


 実は、東京弁護士会は、平成30年3月19日に綱紀委員会会規を改正し、「委員会は、調査に当たって被調査人に弁明その他の陳述の機会を与えなければならない」とする第16条に第2項を新設して、「前項の規定にかかわらず、綱紀委員会は、被調査人につき懲戒するべきでないことが一見して明らかであると認めるときは、弁明その他陳述の機会を与えることなく、懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をすることができる」こととしました。この場合でも、事件は「懲戒の手続」に付されており綱紀委員会への調査命令はなされていますので、東京弁護士会は対象弁護士に対し調査開始通知を送付し、綱紀委員会は懲戒請求者が提出した書類及び証拠が送付することとなる点は変わりません。また、綱紀委員会としては、被調査人につき懲戒するべきでないことが一見して明らかであると認めたとしても、対象弁護士に答弁書の提出を求めるか否かをその裁量で決めることができます。綱紀委員会としては、「対象弁護士の弁明を聞いた上でなるほどと思ったので懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をした」という方が責任回避できますから、よほど酷い請求でも、なお対象弁護士に答弁書の提出を求めるケースはさほど減らないのではないかと思います。それが問題だと言えるかと言われれば、言えないと答えざるを得ません。
 なお、平成30年3月19日に新設された綱紀委員会会規第16条第2項の施行日は平成30年4月12日となっています(平成30年3月19日に関する附則)。したがって、私に対する量産型懲戒請求については、平成30年3月の時点で調査命令が綱紀委員会に下されていますので、は、綱紀委員会は、被調査人である私に弁明の機会を与えることなく懲戒委員会に事案の審査を求めないことを相当とする議決をすることは許されていなかったことになります。したがって、そのような「簡易棄却」を「簡易棄却」をしなかったことについて弁護士会に落ち度はなかったと言えます。

 では、さっさと綱紀委員会会規を改正すべきだったのではないかという人たちが出てきそうですが、対象弁護士の言動についての懲戒請求ではあるがが、内容的には懲戒事由にあたらないことが明らかであるというものが大量になされるようになったのが平成29年末(11月頃から)ですので、これに前もって対処せよというのはさすがに無理というものでしょう。それまでの量産型懲戒請求は、光市母子殺人事件関連のものを除けば、綱紀委員会会規第12条の2第3項で処理できるものでしたし、光市母子殺人事件関連の量産型懲戒請求は、逆に弁明の機会を与えないという判断が難しいものだったからです(これを煽った橋下弁護士に対する損害賠償請求を認容する高裁判決が最高裁で破棄されたわけで。)。

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